・「第18回東京-北京フォーラム」特別セッション:日中共同世論調査「小異を乗り越えて大同につくことが、相互信頼の醸成に」

(2022.12.8 言論NPOニュース)

 「東京─北京フォーラム」第2日目(12月8日)の特別セッション「世論調査」では、「国交正常化50周年を日中の両国民はどう迎えたか」と題して、日中両国から2人ずつ計4人の有識者がパネリストとして参加し、熱心に議論を繰り広げました。18回目を数える今回、「東アジアの軍事紛争」における「台湾海峡」問題と、今年2月に勃発した「ロシアのウクライナ侵攻と世界の平和」が初めて設問に加えられ、両国民の評価の違いが関係者やメディアなどの注目を集めている中での開催です。

*ウクライナと台湾海峡問題を中国国民に初めて聞いた世論調査結果

017Z0530_.jpg 日本側司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志が「初めてウクライナと台湾海峡問題が入ったことに注目したい。日中国交正常化50年のタイミングで、日中両国民が両国政府に地域の平和の取り組みを求めていることは明らかだが、あまり機能してこなかった。このタイミングで再構築するべきではないか」と呼びかけて、議論がスタートしました。

017Z9910_.jpg 東大大学院合文化研究科の川島真教授は「双方が平和を求めている」傾向が浮き彫りになったことに関して「大変嬉しい」と賛意を表明しました。その上で「台湾海峡問題」への危機感が前年に比べて大きく増加したことについて「中国側が危険度を感じている」と分析。

 具体的には、中国側世論の8割近くが「問題の原因は米国の行動にある」とする一方で、日本側世論の6割余りが「中国に原因がある」と見ている結果を注視する必要があるとの認識を明らかにしました。

 また、尖閣諸島(釣魚島)を巡る問題についても「中国側は連絡メカニズムをつくることを歓迎するが、日本側は懐疑的だ」と述べ、世論の違いを指摘。

 さらに日中両国の対メディア観についても、中国側の8割超が「メディアは日中関係の改善や両国民間の相互理解の促進に貢献している」と日本側と異なる回答をしていることについても、議論の必要性を指摘しました。

 

中国側司会者で、中国国際伝播集団の高岸明副総裁兼総編集長が議論を引き取り、「マスコミが報道するポイントは、台湾海峡や地域の問題など相違のはっきりしている部分にフォーカスを与える」とし、「このフォーラムで包括的に話し合って、そうではない部分にも焦点を当てたい」と述べ、一層の議論の進展を求めました。

中国社会科学院日本研究所の金莹研究員は、ロシアによるウクライナ侵攻など国際情勢の反応について「反応は近寄っているが、因果関係において認識が大きく異なっている。福田康夫元首相が述べたように、重要なのは『同して和せず』の現状から、どうシフトしてゆくかだ」と語り、日中両国の協力関係の構築が重要との認識を示しました。

017Z9938_.jpg 日本を代表するオピニオン誌『中央公論』の五十嵐文編集長はロシアのウクライナ侵攻に関する設問・回答があったことに「大変貴重だ」と語り、関係者の努力と苦労を労いました。その上で、中国世論の2割超が「国連憲章や国際法に反する行動であり、反対すべきだ」としていること関して「驚きだ。中国世論が全面的に侵攻を支持するものではなく、安心した」と歓迎の意向を表明しました。

*「米中対立に対して日本はどちらにも与しない」という見方が多数

 

零点有数デジタル科技集団の袁岳董事長は、中日間に「米国」というファクターが影を落としている点に着眼しました。「ペロシ米下院議長の訪台などが中日関係に大きく影響を及ぼしている。中国人はもっと日本人と仲良くなり、関係が緩和することを望んでいる。日本は単に米国に追従するのではなく、”台湾独立反対”を宣言するなど独自の考えを示してほしい」と、独自の主張を展開しました。 これに対して、司会の工藤氏は「米中の対立に関して日本はどちらにも与せずに、世界に寄与したいと理念的に思っている」と懸念を打ち消しました。

一方で工藤は「今年が国交正常化50周年であることを『知っている』」とした日本人が3割余り、中国人は4分の1にとどまる実態を「どう考えればいいのか」と語り、再び問題を提起しました。

*日中関係の改善には外交関係の強化が重要

 

金氏は2020年の世論調査結果と今回を比較検討して「『歴史の岐路』という言葉が浮かんだ。国交正常化50周年の節目において、バックグラウンドとなる東アジア、国際環境の現状が良くない。経済は”バラスト”化が指摘されている。さまざまな意見の相違があり、本当に危険だ」と危機感を表明。日本の大幅な円安状況や防衛費増強論議にも憂慮を示しながら「レスポンス型の外交政策から呼応型の外交を目指すべきではないか」と主張しました。

こうした中国側出席者の不安感に関して、五十嵐氏は「両国民ともに、日中関係は極めて政治に左右される状況にある」と指摘。相手国の印象が悪くなる要因として、日本側は「尖閣諸島周辺の侵犯」、共産党中心の「政治体制への違和感」などを挙げているが、中国側は「侵略した歴史」問題や「釣魚島周辺の国有化」に不満を抱えていることに関して、「民間・若者交流、経済も大事だが、一たび政治問題が起きればストップしてしまう」と指摘。外交関係の強化が何よりも重要だとの認識を示しました。

袁岳氏は、メディアが中国共産党の政治体制に与える「マイナスイメージ」に不満感を表明しました。従来のゼロコロナ政策に関しても「政府は『成功』と言う中、『緩和が足りない』と言う人を取り上げる。どちらが国民に有利に働くのか、政府はきちんと考えている」と語り、最近の「緩和」方針が「国民の許容度と連動している」との見解を明らかにしました。

*「不戦」を実現するために、具体的な施策と議論の実行をどう担保するか

 

川島氏は今回の日中間の調査結果について「ある種の時間軸のズレ」がうかがえるとの見方を示しました。その上で北東アジアにおいても脅威が増大していることについて「非常に危機が迫っている」として、両国政府が調査結果を重く受け止めるべきだとの認識を示唆しました。

この点に関して、五十嵐氏も紛争を回避し、持続的平和のために両国が取り組むべき目標に関して「台湾海峡問題を意識して、中国の半数近くが『不戦』を挙げたのは貴重だ」と歓迎。その一方で「唱えるだけでは実現しないのは明々白々だ」として、具体的な施策と議論の実行が重要であると述べました。

袁岳氏も「実は良い兆しもある」と応じ、海空の防衛交流メカニズムの早期再開の重要性を訴えました。

中国側司会の高岸明氏は「相手に対する印象や台湾に対する考えは異なるものの、ルールベースの民間自由貿易などは大切だ。小異を乗り越えて大同につくことが、相互信頼の醸成につながる」と述べ、1時間の議論を結びました。日本側司会の工藤氏も「18回目の議論となるが、内容は非常に良かった」と語り、次回に向けて期待感を表明しました。

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2022年12月9日