(2026.7.13 Bitter Winter )
(写真右:ランゼン・ロブガの焼身自殺。出典:チベット亡命政府)
7月3日、ニューヨークの国連本部前で起きた焼身自殺は、チベット人の抗議活動の長い
歴史において、重大かつ象徴的な出来事となった。
自らに火を放ったのは、亡命中のチベット人ランゼン・ロブガ氏。彼はこの行為を意図的に選び、「チベットの民族的大義のための非暴力的な犠牲」として位置づけた。
死の直前に公表された彼の遺書では、この抗議行動が、2026年7月1日に施行された中国の新たな「民族団結・発展促進法」の施行と時期を合わせるよう計画されたものであることが明言されていた。翌日、彼は焼身自殺を実行し、その動機は「個人的な苦しみ」ではなく、「チベット民族のアイデンティティの組織的な破壊」への抗議を表現したものだ、と説明している。
多くの欧米人は、ランゼン・ロブガ氏の行為を「自殺」と見なし、抗議そのものには共感を示しつつも、自らに火を放つという活動家の決断を「過激だ」と非難し、「自らの命を絶つことは決して正当化されない」と主張する者もいる。
だが、チベット人たちはこの出来事を異なる視点で捉え、その背景を重視している。ランゼン・ロブガ氏は遺書の中で、次のように宣言した。
「中国の共産主義政府は、チベットとその人々を破壊することを目的とした様々な政策を実施するための措置を継続して行っている」。
そして、チベット国内(中国政府は「チベット自治区」としている)に住むチベット人たちの不屈の精神を称え、「彼らが私たちの口語や文字、そして宗教や文化の振興や復興に取り組んでいるその公共心にあふれた誠実さは、実に称賛に値する。彼らに感謝の意を表したい」 と述べ、国外に亡命中のチベット人に対しても「民族の大義のために一層尽力し、ダライ・ラマ法王が与えてくださった民主的な体制を尊重するように。あなた方は皆、チベットの人々の代弁者だ。海外のチベット人は慢心してはならない」と強調した。
彼の遺言は、すべてのチベット人の住む地域での団結を強調し、分断の圧力をはねのけ、集団行動を呼びかけた。「我々はチベット人として皆一つなのだ。チベット民族の大義のために尽力せねばならない。チベット民族の独立が喪失させられたことが、すべての苦しみの根本原因だ… 我々が欠いているもの、それが何であれ、すべては独立がないがゆえなのだ… チベットの独立に勝利あれ! チベットに勝利あれ! チベットの独立に勝利あれ!」。
チベット亡命議会―故郷を追われたチベット人の最も権威ある声―は、この事件に対し迅速かつ厳粛に対応した。7月7日に公表された公式声明で、今回の焼身自殺を「並外れた勇気の行為」とし、「故ランゼン・ロブガ氏がチベットとチベットの正義のために尊い命を捧げたという事実は、チベットの歴史に永遠に消えることのない偉大な勇気の偉業だ」と断言した。
そして、この犠牲を2009年以降のチベット人による焼身自殺の広範な流れの中に位置づけ、「チベット国内および亡命先で、計150人をはるかに超えるチベット人が、絶え間ない一連の抗議行動として焼身自殺を行ってきた」と指摘し、これを「世界史上、この種の非暴力抗議運動としては最も長く、かつ最大規模のものだ」と述べた。
(写真左:ランゼン・ロブガ氏。出典:チベット中央政府)
亡命議会の声明は、2つの緊急の訴えに焦点を当てていた。第一に、世界の各国政府、議会、国連機関に対し、中国の新たな「民族団結・発展促進法」の法的審査を行うよう求め、「『民族抹殺』という犯罪の発生を防ぐために断固たる行動が必要だ」と訴え。「文化的・民族的破壊に等しい行為」とする政策責任者を調査し、責任を追及するよう強く求めた。
第二に、亡命議会は、中国政府に対し、すべての焼身自殺事件を政治的・文化的・宗教的文脈の中で調査し、チベットにおける「暴力的な弾圧」と表現されるものを終わらせるよう、長年にわたる要求を改めて表明した。声明は、「中国・チベット間の紛争を解決するための有意義な対話」を求める呼びかけを改めて行うことで締めくくられた。
(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)
*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日4か国語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載している。