・5月3日以降、公開ミサなどを「徐々に再開」?ーバチカン臨時幹部会議+解説

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   バチカンのピエトロ・パロリン国務長官が22日、バチカンの幹部による臨時会議を開いた。 議題は、5月4日からの新型コロナウイルス危機対応策の第二段階について。イタリア政府が5月4日から現在の危機対応策としての規制を緩和する予定を決めたことに対応したものだ。

 バチカン広報局が同日発表した声明では、臨時会議にはバチカンの各省や諸機関の代表が出席、「持続可能な方法で現在の危機に対応しようとする教皇フランシスコの努力」に強く留意して、危機対応策の第二段階の進め方について協議した。

 そして、声明は、第二段階の方針として、「新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるための安全対策を継続し、教皇と普遍教会への奉仕を確保しつつ、通常の典礼奉仕などを徐々に再開していく」ことを決めた、としている。

 

(解説)【政治に動かされ、”出口論”を先行させてはならない】

  このようなバチカン広報局の発表にはいくつかの疑問がある。まず、これまで新型ウイルスの世界的感染拡大への対処で一度も公式に開催されていなかった「バチカン幹部による臨時会議」なるものが、今になって開かれ、開催が発表されたのか。二つ目に、感染拡大に終息のめども立たず、発表数字に全く信用が置けない中国を除いて、米国に次ぐ感染による死者を出し、感染者数でも世界第三の規模の大感染を続けるイタリア、いまだ終息宣言のめども立たないイタリアで、政府が規制緩和の方針を出したこと自体、極めて疑問があるにもかかわらず、バチカンがそれに迎合するような方針を打ち出したように見えるのはなぜなのか。そして、最大の疑問は、教皇フランシスコの判断の前に、このような幹部会議の決定をそれも詳細な内容なしに、わざわざ発表したことだ。

 そもそも、バチカンの”幹部会議”のメンバーを見ると、これまでの対中国政策などを見ても分かるように、情勢判断に極めて”政治的”なものが感じられるパロリン国務省長官、かねてから保守・反動的な言動が目立つサラ典礼秘跡省長官などが中心になっている、と思われる。そうした人々が主導して、広報局発表のような前のめりともみられる基本方針を打ち出すに至ったのではなかろうか。

 大感染終息に確たる展望が見えない中で、公開ミサや聖体拝領、告解などの秘跡に大きな制約が長期化し、教会内部からの解除への希望の高まり、大感染の拡大を食い止め・終息に導くために、祈りだけでなく行動に努めねばならない、と要請の間で、教皇の言動に揺らぎが見られ始めた、との見方が関係者の間にあることは確かだ。そうした中で、”幹部会議”が公に方針を打ち出したことは、教皇の今後の判断に大きな影響を与える可能性がある。

 新型コロナウイルス感染に対処するための社会的な活動規制が、世界的な経済活動の低迷を招き、失業や家計の悪化などをもたらす中で、主として経済的な理由から規制緩和を始めようとする動きが特に欧米で出始めている。そのような今、バチカンが規制緩和で”率先垂範”することは、そうした動きを正当化し、加速する危険が大きいのではないか。

 新型コロナウイルスは中国・武漢から始まったのは事実だが、中国は時間の経過とともにそれをさらに隠蔽し、発生の原因も、それに対する対処策、ワクチンの開発の現状なども明らかにしていない。対策を主導すべき世界保健機関(WHO)は中国擁護の姿勢ばかりが目立ち、このウイルス感染に最も多くの情報を持っている中国に情報公開も要求せず、中国も含め、日米欧でワクチン開発に共同で総力を挙げるに至っていない。

 そのような現状で、早々と”出口論”-規制緩和の方向を、世界3億の信徒を抱えるカトリック教会を主導するバチカンが打ち出すことは、決して好ましいとは言えないだろう。実際のところ、来月4日から、そのような「第二段階」の指針をバチカンが明確に出すようなことがあれば、感染爆発、医療崩壊の危機を強める日本で、これまでの公開ミサ中止など、必死の努力を続けてきた東京教区を中心とする日本の教会の今後の取り組みにも影響を与えかねない。

 教皇フランシスコの賢明な判断を、主への祈りと共に、待つばかりだ。

(「カトリック・あい」南條俊二)

 

「第二段階」に向けて新型ウイルスの”被災者”支援などの準備も、教区やカリタス・イタリアなどが始めた(Crux)

  ローマ発ーイタリアでは、国レベルと地方レベルの両方の教会指導者が、新型コロナウイルスの大感染危機からの回復を前提とした第二段階の行動計画を考え始めた。

 詳細は不明だが、現在中止されている公開ミサなど典礼奉仕を通常に復帰させることや、これまでの国内の経済活動の停滞による貧困と失業の増大で起きる可能性のある社会的緊張への用意などが中心になっている模様だ。

 イタリア司教協議会(CEI)のイヴァン・マフェイス事務局長がイタリアの日刊紙il Fatto Quoditianoに語ったところによると、司教団は、5月3日から、参加者たちが適当な社会的距離を置き、マスクと手袋を着用するなどの条件付きで、公開ミサ、葬式、洗礼式、結婚式を再開することを、暫定的に提起している、という。

 イタリア政府は、国民に課している厳格な規制の一部を、5月4日から解除することを予定しており、タバコ屋や食料品店、子供服店などが営業を再開された場合、公開ミサなどの典礼中止を受け続けることに信徒たちが強い不満を抱くのは必至で、スペースの余裕のある大きな教会で信徒が参加した典礼の再開は避けられない、との判断だ。

 事務局長は「緊急事態に求められるあらゆる注意を払って、私たちは通常の教会生活に戻らねばなりません。そのことが強く求められているのです… 要求に応じることは、社会の結束への貢献を意味します」と述べている。

 司教協議会の代表は17日に政府関係者と会い、公開ミサの再開などについて話し合った。会議の結果を受けて、司教団は原案を修正したうえで、政府側に再提示することになった、という。

 ミラノ大司教区は21日にウエブサイトに声明を出し、公開ミサなど典礼の再開から祈祷や慈善事業の活動再開にわたる様々な教会活動についての「アイデアや優れた慣行」の提案を信徒たちに求めた。出された提案は、特別の集まりを開いて検討したうえで、政府との協議に諮ることを前提として、司教協議会に提出する、としている。

   同大司教区の評議会議長のブルーノ・マリノーニ師は、「『第二段階』はかなりの時間続くと予想されるので、私たちはキリスト教共同体とすべての神の民と定期的な対話を始めたいと思っています。そうすることで、現在の極めて特別な時を、司牧のしるしを共有する形で受け止め、教区の人々とともに歩むように、大司教を助けてもらいたいのです」と説明した。

 バチカンでも22日に、ピエトロ・パロリン国務長官と全省の首脳が集まって、5月4日からのバチカンの「第二段階」について協議した。詳細はまだ明らかでないが、バチカン広報局の声明では、「持続可能な方法で危機に対処するために、教皇がされているた努力」を受けて、「通常の典礼奉仕の段階的な再開」を決めた。「新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるための予防策を守りながら、聖なる父と普遍的な教会への奉仕を確実にする」としている。

 これとは別に、カトリックのいくつかの慈善団体は、貧困の増大などに対応する活動の準備を始めている。イタリア司教協議会の公式ウェブサイトで掲載された記事で、イタリア国営食料銀行のジョバンニ・ブルーノ社長「新型ウイルス感染拡大防止のための規制の解除は、段階的なものであっても、新型ウイルスによって聞き起こされた問題を去らせることはないだろう」と語り、例えば今も、食糧支援を求める人は増加を続けている、として、南部の町、コゼンツァの場合、この二週間で、食糧支援の対象者が十倍の600人に増えたことを挙げた。イタリア全体でも支援者数は4割増えており、地域的には南部に集中している。現在の支援者数は約150万人だが、今後数か月でさらに大きく増えると見ている。

 カトリックの国際慈善団体、カリタス・インターナショナルでは、支援基金の開設など、新型コロナウイルスによる被害者対策で具体的な動きを始めているが、カリタス・イタリアは22日に出した声明で、「第二段階」に備える際の、潜在的な問題について「貧困の拡大と不平等の増大、そして、これによる新しい社会的緊張が懸念される」と指摘。これらを回避するには、「迅速かつ断固とした行動が必要。その責任はすべての人にあり、個人の選択と公的機関の決定が重要となる」と言明し、カリタスは、最貧困層を始めとする家計の収入減少に早急に対処する全ての具体策の実施を支援する」と約束している。

 カリタス・イタリアがすでに決めている支援対象としては、自身がメンバーの「Diversity Inequalities Forum(多様性不平等フォーラム)」と「 Italian Alliance for Sustainable Development(持続可能な開発のためのイタリア同盟)が起草した「危機に対する普遍的な社会的保護」の計画がある。

 カリタス・イタリアは、支援に当たって3つ優先するー援助と貧困防止の観点から、貧困者のために特別な介入を行うこと、全イタリアを対象に一人ひとりの必要性に応じて、カリタスの人的・物的資源を有効活用する形で支援すること、「第二段階」が達成されたら、速やかに「第三段階」に移れるような将来計画を立てることーとしている。

 ボローニャでは、マッテオ・ズッピ枢機卿が「San Petronio Fund(聖ペトロニオ基金)」を創設、地域の貧困家庭への支援を開始している。ボローニャ大司教区のカリタス事務所が管理するこの基金は100万ユーロ(約110万ドル)を原資に、支援の条件を満たす、新婚家庭に1人あたり400ユーロ、夫婦には500ユーロ、子供が1人の家庭には600ユーロ、 3人の家庭には800ユーロを提供する。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2020年4月23日