・講演会で米国とバチカンの国務長官、信教の自由めぐる対中国政策の違い明確に(Crux)

(2020.9.30 Crux  Senior Corespondent Elise Ann Allen

On China, Vatican and US risk flawed assumptions about each other U.S. Secretary of State Mike Pompeo delivers his speech during the “Advancing and Defending International Religious Freedom Through Diplomacy” symposium, in Rome, Wednesday, Sept. 30, 2020. (Credit: Guglielmo Mangiapane/Pool Photo via AP.)
 Cardinal Parolin speaking at a Symposium in Rome hosted by the U.S. Embassy to the Holy See (photo courtesy U.S. Embassy to the Holy See)

Cardinal Parolin speaking at a Symposium in Rome hosted by the U.S. Embassy to the Holy See  (Courtesy U.S. Embassy to the Holy See) ROME –バチカンと中国の司教任命に関する暫定合意が期限を迎えた9月30日、米国の在バチカン大使館主催の「外交と信教の自由」に関するシンポジウムが開かれた。

 会議には、先日、First Things誌への寄稿で「中国の人権や信教の自由を蹂躙している行為に異議を唱えないことでバチカンと教皇フランシスコが道徳的権威を失うリスクがある」と指摘した米国のマイク・ポンペオ国務長官、暫定合意更新の方針を明確にしているバチカンのピエトロ・パロリン国務長官、ポール・ギャラガー外務局長などが出席した。

*米国務長官「中国で信教の自由が危機にさらされている-バチカンは勇気ある道徳的な証しを」

 ポンぺオ国務長官は講演で、教皇を含む宗教指導者たちに、信教の自由を守る「勇気ある道徳的な証し」をするよう強く求めるとともに、現在の中国について、「中国ほど、信教の自由が脅威にさらされているところはない」と非難した。

*バチカン外務局長「議論を放棄することは誰にとっても不利益」と”対話路線”強調

 これに対し、ギャラガー外務局長は、中国と対決姿勢を取らないバチカンの路線を擁護し、「信教の自由を巡る議論を放棄することは、犠牲者たちにとっても、『私たちに同意しない人々』にとっても、不利益をもたらすことになるだろう」と主張。

 バチカンが中国や他の誰かに目をつぶっていないことを婉曲的に表明し、「バチカンは信教の自由の侵害に、懸命に、絶えず注意を払っている・・・ 私たちは、自分たちに手にある外交ツールを使い続ける」と述べた。

 また外務局長は、無差別に標的にしていると思われる「新右翼」を装った「西側諸国における巧妙な形の迫害」について懸念を表明した。

*米国務長官「ヨハネ・パウロ二世は欧州での共産主義に終焉をもたらした」

 ポンペオ長官は講演の冒頭で、宗教指導者たち、とくにカトリック教会の指導者たちに、信教の自由を、中国共産党などの「専制政治体制」やISISなどの過激派集団から守る「道徳的な証し」をするように求めた。

 そして、ポーランド出身の故ヨハネ・パウロ二世教皇が「専制政治に挑戦し、そうすることによって、教会が世界をより人間的な方向に動かすことができることを示した」と述べ、欧州における共産主義の終焉をもたらすのに果たした同教皇の役割を賞賛。

 さらに、私たち全員が現在の時代においても、彼のように力強く振る舞う必要がある、とし、聖書でイエスが弟子たちに促されている「地球の塩であり世界の光」という言葉は、「力強い道徳的な証しをすることを意味している」と強調した。

*駐バチカン米大使「信教の自由を守るのは国家安全保障上の義務」

 また、米国のカリスタ・ギングリッチ駐バチカン大使は、開会のあいさつで、「信教の自由を守ることは、国家安全保障上の義務」としたうえで、「信教の自由を守るために、今ほど重要な時期はありません」と述べ、ミャンマーのロヒンギア・イスラム教徒、ニカラグアとナイジェリアのキリスト教徒、サウジアラビアのイスラム教徒と非イスラム教徒、そして、中国におけるウイグル人イスラム教徒や他の宗教団体の人々に対してなされている宗教的迫害を挙げた。

 このシンポジウムには、パネリストとして、米国のサミュエル・ブラウンバック信教の自由担当大使、ネイサン・セイルズ国務次官(民間安全保障、民主主義、人権担当)、バチカンの諸宗教間対話評議会のカレド・アカシェ・イスラム教担当らが出席した。

 ポンペオ長官は、発言の中で、「人間の尊厳と宗教の自由を守ることは米国の外交政策の中心課題」とし、中国については特に、ウイグル人イスラム教徒に対する迫害、具体的には、強制収容所や女性に対する強制的な中絶と不妊手術などを挙げて非難。

*米国務長官「中国国内で全ての宗教、宗派が犠牲にー香港市民も、ウイグル人イスラム教徒も、カトリック教徒も」

「犠牲になっているのは彼らだけではない…中国共産党は国内のすべての宗教、宗派を打ちのめしている… カトリック教徒も、この抑圧の波を免れなかった」と述べ、聖堂の破壊、司祭と司教の逮捕、そして香港での民主活動家の逮捕、監禁などを具体的に上げた。

そして、このような迫害の実態に「光を当てる」には、さらに多くのことをしなければならない、とし、そうするうえで、「カトリック教会は指導的役割を果たすことができる特別の立場にある。各国政府関係者は中国との間を往来しているが、教会は別の立場にある」と指摘した。

*米国務長官「列聖20周年迎える中国の殉教者123人は信教の自由を守った勇気ある人々」

 また、ポンぺオ長官は、ヨハネ・パウロ二世が中国人殉教者123人を列聖して今週で20周年を迎えることを取り上げ、「彼らは、自らの良心に従って、信仰を守る為に危険を冒す世界中の多くの勇気ある男女たちの、模範となった」と述べた。

*バチカン外務局長「信教の自由守る対話でカトリック教会は”羅針盤”に」

 バチカン国務省のギャラガー外務局長は、ここ数十年で「国際の平和と安全の問題において宗教が果たす重要な役割についての認識が高まっている」と述べ、信教の自由を尊重することは、「人類の共通善」を促進するという点で「必須条件」だ、と強調した。

 その一方で、バチカンは、公的および私的領域における宗教の自由を制限する、いわゆる「新右翼」」などの傾向について懸念を強めている、とした。

 それは「主として西欧の国々で見られる、宗教の信じる生き方と矛盾する法律について、従来以上に一般化した傾向… 物理的な迫害の形によるものだけでなく、政治的な矯正と呼ばれるイデオロギー的傾向が従来よりも顕著になっている… それは、寛容と差別の名のもとに、自分たちの立場を受け入れない人々を非難するのを容易にしている」とし、これらの法律を発動する人々は、「自分自身、忍耐力に欠け、差別的だ」と断言した。

 また外務局長は、バチカンは、信教の自由についての議論や討論において「活動的であり続ける」と述べ、カトリック教会はこの問題に関する対話において「道徳的な羅針盤」になることができる、と強調した。

*バチカン国務長官「信教の自由に関する根本的誤解を解く障害は”不寛容”」

 バチカンのパロリン国務長官は、シンポジウムの閉会あいさつで、「信教の自由と良心の自由は人間性の『固有の部分』として重要であり、そこでは、人それぞれが神から『良いことをする』ように召されている」と述べた。

 そして、良心に対する新たな数々の侵犯の理由の一部は-そうするのが、過酷な行為を強制しようとするテロリストの政治体制であろうと、『政治的イデオロギーでぶつかる人々を黙らせ』ようとする『政治的には正しい、不寛容な人々』であろうと-、『恐怖とイデオロギー』によって突き動かされた『信教の自由に関する根本的な誤解』がもとになっている」と指摘。

 さらに、「過激な主観主義」と「誇張された個人主義」が、そうした誤解の根本原因になっている、と批判。「こうした現状、そして、異なる信条を表明する人たちの間で対話の機会が減っている中で、私たちがもっと不寛容について真剣に考えるべきだ」と語り、同意しない能力は健全な社会のしるし、と強調した。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2020年10月1日