・教皇、カトリック教会のカテキズムへの「環境の罪」の明記を言明(Crux)

(2019.11.15 Crux  Inés San Martín

「刑事裁判と企業ビジネス」をテーマに国際刑事司法協会の会議がローマで開かれたが、教皇フランシスコは15日、会議に出席した法律家たちと会見し、「カトリック教会のカテキズム―要約(コンペンディウム)」に「環境への罪」を明記する考えを明らかにした。

 この中で教皇は「カトリック教会のカテキズムに、環境への罪、つまり私たちの共通の家に対する罪、を明示せねばなりません。それは義務だからです」と述べた。教皇のこの言葉は、アマゾン地域の環境の脅威を主要テーマの一つとした地域シノドス(代表司教会議)の結果を受けたものと思われる。

 さらに教皇は「浪費の文化は、繁栄した社会で広く見られる他の現象と相まって、嫌悪の文化に退化していく深刻な傾向を示しています… このような時代に、ナチズムに典型的な象徴と行動が再びみられるようになっていることは、偶然ではない。それは、ユダヤ人、ジプシー、同性愛者への迫害により、浪費と嫌悪の文化という、あってはならない見本を表徴しているのです」 と述べた。

 そして、最近耳にした何人かの政治家の言葉から、ヒトラーのエンゼルと連想した、と語り、「私たちは、このような退化に妥協しないように、市民社会と教会の両方の場で、警戒を怠らないようにする必要があります」と強調。

 また、教皇は、「偶像崇拝の市場」-絶対的な支配者となった「神格化された市場」がもたらす利益に対して、個々の人々を無防備にさせる市場ーを批判。「他の考慮すべき事柄から切り離された利益最大化の原則は、現在、社会的、経済的負担に苦しめられている人々を激しく痛めつける『排除のモデル』につながり、将来の世代は環境コストを支払うことを強制されることになります」とフランシスは述べた。

 そのうえで、「今日、法律家たちが第一に自問すべきは、このような現象に対して、自分たちの知識で何ができるか、ということです。こうした現象は、民主主義のシステムと人類の発展そのものを危険にさらします… 具体的に言えば、すべての刑事弁護士の現在の課題は、懲罰的な非合理性を封じ込めることです」と語り、大量投獄、刑務所における受刑者の過密、拷問、治安部隊による虐待、社会的な抗議活動の犯罪扱い、予防拘禁の乱用、そして、最も基本的な刑法上の手続きの無視などを実例として挙げた。

 教皇はまた、最も強力な犯罪、特に企業の大規模な犯罪に対する「注意の不足、欠如」を批判し、これらが飢餓、貧困、強制移住、治療可能な疾病による死、環境災害、原住民殺害などをもたらす時、「人道に対する犯罪」である、と指摘した。(注:ニュルンベルク裁判の基本法である国際軍事裁判所憲章で初めて規定され、1998年の国際刑事裁判所ローマ規程において「人道に対する犯罪」として定義された。現在ではジェノサイド戦争犯罪とともに「国際法上の犯罪」を構成する)。

 続けて教皇は、国際金融資本を取り上げ、「財産だけでなく人や環境に対する重大な犯罪の端緒となり、そうした犯罪は『組織犯罪』です」と述べ、国々が抱える過大な債務、地球の天然資源の略奪などについても、国際金融資本に責任がある、とした。

 先日開かれたアマゾン地域シノドスで、参加司教たちは「環境に対する罪」を非難したが、教皇は、これを企業が責任を負わねばならない「ecocide(環境虐殺)」であり、法律家たちは、このような罪が罰せらずに済むことがないようにせねばなりません、と努力を求めた。

 さらに、ecocideは「空気、土壌、水資源の大量汚染、動植物の大規模な破壊、自然災害を引き起こしたり、生態系を破壊したりする、あらゆる行為」を意味すると述べ、「特定の地域の生態系の喪失、破壊を、平和に対する犯罪の (注:侵略、大量虐殺、人道に対する罪、戦争犯罪と並ぶ)五番目の罪とすることを、国際社会が確認すべきです」と言明した。

 また教皇は、現在いくつかの国で、有罪判決を受けた受刑者の数よりも多い、裁判なしに投獄されている人々が収容されている”予防刑務所”が悪用されている問題を取り上げ、「これは、『疑わしきは罰せず』の原則を破る行為です」と強く批判。

 彼はまた、義務遂行のための合法的な手段と主張することで治安部隊の犯罪を正当化するのに当局が使う「暴力に対する非自発的な動機」についても非難し、法律家たちはこうした「懲罰的な煽動」-しばしば人種差別主義者により、社会の片隅に置かれた人々を狙った行為-が暴力や一方的な武力行使を促進しないように働くことが強く求められている、と述べた。

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(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2019年11月16日