・地下教会弾圧、ウイグル人イスラム教徒迫害… 教皇は対中政策を見直すか-機上会見に注目(LaCroix)

(2019.11.12 LaCroix  Michael Sainsbury)

  バチカンは中国政府と同国内のカトリック司教任命について昨年9月に暫定合意したが、中国当局はその後、プロテスタントも含めたキリスト教徒とイスラム教徒への弾圧を、習近平主席の「宗教の中国化」方針の下で、一層強めており、バチカンは、暫定合意を見直す必要に迫られている、と言える。

 教皇は19日から26日にかけてタイと日本を訪問するが、この問題は、恒例の機上会見で最大のテーマとなるだろう。記者団から、この問題について質問が出ない、ということは考えられず、過去の実績から、教皇もお答えになる、とみられる。アジア、特に中国本土、香港、そして台湾の信徒たちは、教皇が今回の旅行中に明確な姿勢を打ち出すことを希望している。

 バチカンと中国政府との合意に向けた交渉は、これまで何年にもわたって続けられ、バチカンは、積極的な歩み寄りを見せた。具体的には、中国共産党統一戦線工作部の管理・監督下にある中国天主愛国協会(CCPA)と中国カトリック司教会議が一方的に認め、教皇が否認していた”司教”7人を、教皇が昨年9月の暫定合意で、司教として任命したのだ。

 だが、中国側は、同工作部の管理・監督に従わず、CCPAにも加盟しないいわゆる”地下教会”に属し、教皇が任命していた約30人の司教のうち、わずか2人を今年8月に公認し、その後の追加公認をしていない。

 我々の得た情報では、バチカンの交渉担当者が、バチカンが認めた教区と中国が認めた教区の統合を含めた細部の詰めに懸命に取り組んできたということだ。これは、司教任命にも影響する。バチカンによる中国への教区設置は、1940年代に中国共産党が国民党との戦いに勝ち、政権を樹立する以前のことだ。それ以来、何億人もの人々が関係する大規模な人口移動が起きており、バチカンにとって、中国が決めた教区との統合は容易だろう。

 こうした教区の問題や司教の任命はそれほど難しいことではないが、それよりはるかに困難なのは、これまで続いてきた中国当局の管理・監督下にあるCCPA系教会と”地下教会”の分立の解消だ。

 教皇は両教会の一致を推奨する一方で、地下教会の司教、司祭のCCPAへの加盟の諾否についての判断は、各自の良心に委ねる、との方針も示している。各種の報道では、聖職者たちが良心の判断によって地下教会にとどまることを決断した、と伝えられており、地下教会の聖職者をCCPAに取り込み、”地下教会”をなくす、という、中国側の思惑通りには、ことが進んでいない。

 昨年9月の暫定合意以来、中国政府・共産党と各地方政府、特に、首都・北京を囲む形で、キリスト教徒が最も多く居住する河北省政府は、習近平主席が主導する「宗教の中国化」を熱心に進めている。

 宗教の国有化は、英国女王・エリザベス二世を頂く英国国教会の前例があるが、今や政府・党の統制・管理下にあるキリスト教会には中国旗が掲げられ、その下には毛沢東と習近平の顔写真が置かれている。このような教会の姿が、霊的生活と国家を明確に分けて考える地下教会の聖職者、信徒たちが、地下教会にとどまることを選択した理由であり、(注:事態を楽観視し、”教会一致”を推奨してきた)バチカン内部に大きなとまどいをもたらしている。

 中国政府・共産党はまた、様々な規制を実施しており、特に、財産法の厳格適用や、未成年の信徒たちのミサ典礼、夏季学校、そのたの教会活動への参加禁止などの措置を取っている。これは教会の負委員宣教活動の核心に弾丸を打ち込むようなもの、将来の信徒、教会指導者を縮減するのが狙いだ。

 教会の壁に独裁者の写真が飾られる程度のことで心配になるなら、このような未成年者の教会活動を禁止する脅しを目の当たりにすれば、バチカンの人々は怒り狂っていいはずだ。特に貧しい地域の教区に複数の規制を課し、法律の枠にはめることを狙っている。

 何人かの司祭は投獄されているとみられている。当局は、政府・党にとって問題人物とされた司祭を定期的に拘束したり、宗教的な儀式に参加できないような措置を続けている。聖書やキリスト教関係の図書はインターネットで購入できないようにされている。

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 中国政府・共産党は、バチカンと司教任命について合意することで、国内に1000万人から1200万人いるとされるカトリック教徒に強力な統制をかけることを狙っていた。CCPA加盟の教会と地下教会の信徒の数は、正確には把握できていないが、大まかに言って、半々とされている。

 また、中国政府・共産党は、これを足掛かりに、欧州で唯一の台湾政府承認国であるバチカンが、中国承認に乗り換えることを期待していた。だが、中国の専制独裁指導者を背景にした香港政府と市民とな激しい対立が、台湾の人々にも強い警戒心をもたらし、台湾と中国本土の”統一”は中国政府・共産党の大いなる願望にとどまっている。

 こうした中でバチカンが、台湾の”羊の群れ”を捨て、中国政府・共産党の願望を満たすことに手を貸すような、国際的に不名誉な行為をするとは、考え難い。

 加えて、新疆ウイグル自治区でのウイグル人イスラム教徒に対する中国政府・共産党の扱いには、言いようのない恐ろしさがある。100万とも200万ともいわれる人々が捕まえられ、信仰を捨てさせるために強制収容所に入れられている。最近の報道では、収容所内で150人が死亡した、と言われている。実際の人数はもっと多いに違いない。組織的な拷問や強姦がされていることも報告されているが、その数字は分からない。このことで、習近平は、アドルフ・ヒトラー、ユセフ・スターリンとともに、強制収容所による大領虐殺のクラブの特別会員に名を連ねることになった。

 このようなウイグル人イスラム教徒に対する扱いと同様の措置が、”勅令”に従わないキリスト教徒に対してとられることは、今のところ、可能性の範囲を越えていない。だが、この問題について、教皇フランシスコと、北京との交渉の企画者であるピエトロ・パロリン国務長官は、全てのキリスト教徒の良心にもとずいて、バチカンと中国の関係をさらに前に進めることができるかどうか、真剣に思いめぐらす必要がある。

 恐らくは、この問題についての彼らの類まれな洞察が、あと一週間か何日かのうちに示されることになるだろう。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。

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2019年11月14日