(2022.8.5 Vatican News)
バチカンの経済、財政を担当する財務事務局のホアン・ゲレーロ長官が5日、記者会見し、バチカンの2021年度連結財務諸表を発表。赤字額が、当初見込みの赤字額3300万ユーロ(約45億円)から300万ユーロ(約4億円)にとどまったことと明らかにするとともに、「財政健全化は進んだが、経費を賄うために、さらにいくつかの保有資産を売却する必要があり、”犠牲”を払う時はまだ終わっていない」と説明した。
さらに「これからも極めて不確実が時期が待ち受けており、バチカンはなお、経済、財政面で様々な構造的な問題に対処していかねばならない」と教区。
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記者会見での一問一答は以下の通り。
長官:まず、対象範囲の変更です。バチカン市国とIOR(バチカン銀行)を除く聖座全体の財務諸表を対象とするようにしました。これにより、聖座の全体的な経済状況の透明化、可視化へ一歩前進を意味します。その道のりは遠く、まだ続きます。それと、2021年7月に経済評議会が重要な変更を行い、連結財務諸表が聖座の経済的現実をよりよく反映するようになっています。
教皇庁だけを対象にしたこれまでの連結財務諸表では、聖座の財政の35%しか見ることができませんでした。今回の新しい財務諸表では対象を大幅に拡大し、対象事業体の数を見ても、前年度の60事業体から92事業体に増加。総資産額も2020年度の22億ユーロ(約3030億円)から2021年度はは39億ユーロ(約5380億円)。負債総額は8億ユーロ(約1100億円)から23億ユーロ(3170億円)。純資産は14億ユーロ(約1930億円)から16億ユーロ(約2200億円)。総収入は2億4800万ユーロ(約340億円)から10億9300万ユーロ(約1500億円)、総支出は3億1500万ユーロ(約430億円)から10億9600万ユーロ(約1510億円)となり、差し引きの赤字は300万ユーロとなりました。
Q: 2021年度の連結財務諸表を見ての評価は?
長官:まず申し上げたい”良いニュース”は、新方式の財務諸表と旧方式の財務諸表のいずれても、予想よりも結果がよいことです。新方式で見ると、3340万ユーロの赤字が予想されていたのが、実際には300万ユーロの赤字にとどまりました。業務赤字は5600万ユーロと予測されていたのが、実際には7770万ユーロでしたが、これは、医療研究センターCasa Sollievo della Sofferenzaの赤字が予測では対象となっていなかったためで、実際には赤字は減っています。
旧方式の教皇庁の収支計算書を、予算と比べると、4960万ユーロの赤字の予想が2880万ユーロの黒字(予想よりも7840万ユーロ好転)になっています。
Q: 教皇庁の会計の黒字化の原因は何でしょう?
長官:予算と比べると、収入は2180万ユーロ増える一方で、支出は2640万ユーロ減りました。収入の増加は、金融市場や為替市場の動向の影響もあります。
Q:では、この財務諸表の結果をどう思われますか?
長官:私たちは黒字かどうかよりも、聖座の活動が持続できるようにすることを重視しています。11億ユーロの予算規模に対して300万ユーロの赤字はそれほど多くありません。実質的に収支が均等していると言ってもいいし、懸念を引き起こす数字のようには見えません。そうは言っても、詳細に分析すると、改善すべき点がいくつか見えてきます。市場動向の影響を受ける金融収支が悪化すれば、業務赤字は増えてしまうのが現状です。
Q: あなたは過去数年間、””mission budget(福音宣教の使命を果たすための予算)”について多くのことを主張してきました。教皇庁の中でこのような意識は高まっているのでしょうか?
長官:教皇庁のすべての機関は、教皇の使命遂行を助けるために、献身的にそれぞれの役割を実行し、困難な財政状況の中にあって、歳出抑制に努め、使命の果たすことを強く認識していると思います。教皇庁は、旧方式の連結財務諸表で前年度実績との比較を可能にする組織ですが、全体を把握するには不十分です。
教皇の使命遂行にとって問題なのは資金不足です。2021年度の教皇庁(聖ペトロ事業予算を除く)の赤字は1000万ユーロで、2020年度の赤字額よりも5600万ユーロ減りました。これは朗報です。教皇庁が経費を削減し、最も支出抑制が可能な分野で犠牲を払ったことも朗報ですが、経常利益はまだ減り続けています。教皇庁は1400万ユーロ以上稼ぎ、4200万ユーロを支出しました。経常支出が1500万ユーロ減って近年の最低水準を更新したことは評価すべきですが、それだけでは不十分です。経常収益も1400万ユーロ減り、これも最低水準を更新しています。
経費を減らすだけでは十分な使命遂行はできない。福音宣教の使命遂行を損なわずに、経費をこれ以上減らせない時が来ます。ですから収益を増やす方策にも取り組んでいます。聖座は毎年、事業を確保するために資産を売却しています。
Q: 教皇庁の赤字が減っているのに、なぜ聖座の資産売却をする目るのですか?
長官:確かに教皇庁の決算に聖ペトロ事業の決算などを含めれば黒字額は2880万ユーロです。一方で、聖座は、毎年平均2000万ユーロから2500万ユーロの資産を削減しています。理由は、決算に未実現利益が含まれており、私たちが受け取る多額の寄付・献金は特定の事業に回されることにあります。他の目的に使用することはできません。つまり、特定の事業体の支出を他のすべての事業体の収益と相殺することができないのです。経済的報酬を得ない奉仕事業を実行する部署が多くあり、その事業は常に赤字ですし、そうでなければなりません。
私たちは”ビジネス”をしているわけではない。資産収益と内部拠出金は福音宣教の費用を賄うものではありません。だからこそ、教皇の慈善活動と使命、そして教区の貢献に資金を提供する聖ペトロ事業の助けが不可欠です。毎年の寄付、そして聖座が生み出すことができる資金だけでは、収入のない団体のすべての費用を賄うことができず、聖座は毎年2000万ユーロから2500万ユーロの資産売却に苦しまねばならないのです。
Q: 新しい連結財務諸表には、イタリアの病院2つが含まれています。カトリックの医療はどのように機能していますか?
長官:カトリックの医療活動自体が、イタリアで困難な時期を過ごしています。ご指摘の通り、連結財務諸表には2つの病院が含まれています。一つは Bambin Gesù病院。予算規模は教皇庁よりも大きいが、経営は順調で、経済的に健康な病院です。近年では、新型コロナウイルスの大感染による危機に、うまく対処しています。もう一つはCasa Sollievo della Sofferenza病院で、財政危機に対処し、活動継続に問題が起こらないように緊急の措置が必要です。
この二つの事業体は、すべての資産と負債を明確に表示し、より現実的な貸借対照表を作ることができました。つまり、私たちは聖座によって契約されたすべての義務を認識することができた、ということです。
問: 連結財務諸表から浮かび上がるもう一つの問題は、バチカンの職員のための年金基金と離職後給付のの問題ですが?
長官:年金問題はほとんどの国で問題になっています。私たちの年金基金も例外ではありません。ただ、バチカンの年金は、その規模が小さいことを考えると、多くの近隣諸国よりも、資金的に豊かで安全です。雇用後給付に対する年金基金の純負債を財務諸表に初めて含めましたが、2019年の保険数理評価によると6億3140万ユーロ。将来の年金の支払い義務を果たすためには、まだ十分な額ではなく、私たちが実際に余裕がある以上のことを約束していることは否定できません。抜本的な措置を導入する時間的余裕はまだありますが、早急に手を付けねばならないのは事実です。財務諸表には離職後給付に対する基金の純負債も初めて含まれており、保険数理評価によると、純資産は1億7120万ユーロです。
Q:どのような対応を考えているのですか?
長官:将来のある時点では、現在の予算配分では対処できない可能性がある。つまり、この予見可能な状況が起こらないように、より多くの資金を年金基金に配分するか、支出(年金の支払い額)を抑制するかのどちらかです。
これまで、二度にわたって年金基金への配分を増やしましが、これは暫定的な対応に過ぎず、長期的には、今の体制のままでは、予定されるバチカン職員への年金支払いのための基金が十分に確保できない、という構造的な問題を解決できない。
Q:将来のバチカン財政は?
長官:私たちは、とても不確実な時代に入っています。私たちは、危機に対処するための選択肢をあまり多くは持っていません。(一国の政府のような)財政政策も金融政策も取ることができませんし、収入の大部分について采配を振るうこともできない。構造的な問題を超えて、戦争、インフレ、物資の不足、金融の不確実性など、世界情勢は、私たちに新たな課題と機会を生み出しています。
バチカン財政にとって”犠牲の時”が終わったとは言えません。2022年度は特に困難な年であり、2023年度も同様です。今、私たちは2023年度の予算案の策定時期を迎えています。新型コロナの感染が財政にもたらす圧力は減りましたが、あまり陽気に構えられません。
Q: 財務事務局の人的体制をどうお考えですか?
長官:私たちは今後数年間の作業計画を持っており、新しいディレクターは9月に就任する予定で、改善策を導入できることを願っていますが、職場環境の改善、職員の動機づけ、昇進制度、教会への教皇庁による奉仕との一体性などを進めるには時間がかかります。
バチカン改革の使徒憲章、教会に仕えることの意味についての示唆と提案に満ちています。教皇庁での奉仕は単なる”仕事”ではありません。それは使命です。まだやるべきことがたくさんあります。