改・バチカンの”暫定合意”延長方針は、中国政府・共産党の人権弾圧を容認することにならないか?

Top officials optimistic about renewal of Vatican-China deal

 江西省樟树市黄土岗镇の「無原罪の聖母」カトリック教会の聖堂前に翻る中国国旗(2018年撮影=Credit: Thomas Peter/Reuters via CNS.)

(2020.9.16改  カトリック・あい)

 中国国内での司教任命に関するバチカンと中国の暫定合意が2018年9月22日に発表されて3年、月末に期限を迎えるが、バチカンのナンバー・ツー、ピエトロ・パロリン国務長官が14日、カトリック教会内部にさせ異論が出ているこの暫定合意の更新を示唆する発言をした。

 また、15日付けのカトリック系有力メディアLiCAS.newsが、バチカン関係筋の話として伝えるところによると、教皇フランシスコは、すでにこの暫定合意を現在の内容のまま、さらに2年延長することに同意しており、中国側の対応を待っている、という。

 中国政府・共産党はこのところ、国内のカトリック教会を管理・統制下に置く動きを強め、これに抵抗する”地下教会”の司教、司祭、信徒を様々な形で弾圧する動きを強めている。そればかりでなく、香港、新疆ウイグル自治区、チベット自治区などで人権や信教の自由を求める人々を弾圧しているとして、世界の人権団体や国連の人権関係者など国際社会から強い批判を浴びている。

 国務長官はこの春のある会議で、暫定合意に批判的な声に対して、バチカンの狙いは「信教の自由の推進を助け、相手国のカトリック教会共同体の正常化を実現すること」であり、「そのために忍耐強さが必要だ」と強調した。だが、最近の中国政府・共産党の動きをみる限り、暫定合意は”正常化”には程遠く、バチカンの”忍耐強さ”の”証し”としての合意の更新は、そうした中国政府・共産党の動きを容認することになりかねない。

 カトリック教会だけでなく、中国のプロテスタント、イスラム、仏教などの信徒たちへの中国政府・共産党の動きに対して、国際社会の中で強まっている批判、懸念に、教皇フランシスコもバチカンの外交政策者も十分耳を傾け、暫定合意の延長、更新が中国国内のみならず、国際社会に与える影響について慎重に判断する必要があるのではなかろうか。

 

 第二次世界大戦中のナチス・ドイツによるユダヤ教徒大虐殺を、当時の教皇ピオ12世がそれを知りながら、対策を講じなかったとして、戦後70年以上たった今も、非難され続けている。現在のバチカンの中国政府・共産党への対応を見ていると、同じ様なことが繰り返されることにならないか、懸念する見方も、関係者の中に出てきているようだ。

 教皇ヨハネ・パウロ2世は2000年3月にバチカン・聖ペトロ大聖堂での特別ミサで、過去2000年にわたるカトリック教会の過ちを認め、神に赦しを求めたが、教皇の説教の後の7人の高位聖職者による共同祈願で「イスラエルの民に対して犯した罪」についても告白されたものの、第二次大戦中のナチスの大虐殺について具体的に言及することはなく、米国の有力メディアやユダヤ教徒指導者などから「この問題を避けた」と批判された。

 教皇フランシスコはこの問題の解明に前向きな姿勢を見せ、バチカンは今年3月から、第二次大戦中のピオ12世時代の資料を、研究者に対して公開を始めた。

 公開を決めた際、教皇は「教会は歴史を恐れていない」とし、ピオ12世の時代は「きわめて困難な出来事が続いた時代で、人として、そして教会として何が賢明なのか、実に苦しい決断が迫られていた。その決断を、『消極的で寡黙だ』と受け止めた人もいたかも知れない」と語っていたが、中国への対応について、このような”弁明”が繰り返されないように望みたい。

 

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「バチカン、中国双方の意思は”契約”の更新」とバチカン国務長官(CRUX)

(2020.9.15 Crux  SENIOR CORRESPONDENT  Elise Ann Allen)

 イタリアの通信社ANSAによると、バチカンのピエトロ・パロリン国務長官は14日、イタリアのジュゼッペ・コンテ首相も出席した会議に出た際、記者団に対して、中国との合意は「10月」に期限を迎えるが、双方共通の意思は”契約”を更新することだ、と述べた。この会議のテーマは「(注:国家主権の尊重、紛争の平和的解決、人権と諸自由の尊重などを掲げた)ヘルシンキ宣言から45年、(昨年8月に95歳でなくなったバチカンのベテラン外交官)シルべストリー二枢機卿、そして バチカンの東方外交」だった。

 一方、中国も、外務省の趙立堅報道官が10日の定例記者会見で、「期限を迎えるバチカンとの司教任命に関する取り決めを、中国政府はさらに2年延長することを希望しているのか」との記者の質問に、こう答えた。

 中国、バチカン双方の努力のおかげで「暫定合意は、二年前の合意以来、成功裏に実行されてきた… 今年初め以来、新型コロナウイルスの世界的大感染の中で、双方は互いに助け合い、世界の人々の健康を守ることに努め、一連の積極的な意思疎通を通して、相互の信頼と合意を重ねてきた」と語り、中国とバチカンの双方は「親密な意思疎通と協議を維持し、二国間関係の改善を続けるだろう」

 新型コロナウイルスが3月にイタリアを襲った際、中国は他の多くの国々と共に、医師の派遣や医療器材の提供などの援助を実施した。中国の二つの慈善団体もマスクなど保健資材をバチカンの薬局に送っている。これに対し、バチカンは中国の支援を感謝する声明を発表した。

 だが、大感染の中で、バチカンやローマ中の多くの修道会などに食料や医療器材を送った台湾に対しては、そのような感謝の表明をしなかった。欧州の中でバチカンは、台湾と外交関係を持つ唯一の国であるにもかかわらずだ。

 教皇フランシスコの下でバチカンが中国と外交関係を結ぶことを強く希望していることは、以前から知られている。中国国内の司教任命に関する暫定合意は、外交関係樹立への一歩だと多くの関係者に受け取られていた。その一方、新型コロナウイルス大感染の中で、中国と並んで援助の手を差し伸べた台湾に対するバチカンの”沈黙”は、どこまで台湾に対して(注:外交の)扉を開いたままにするのか、を示す明確なサインだった。

 だから、暫定合意の更新についてのパロリンの楽観主義が、バチカンの”東方外交政策”をテーマにした会議の際に、改めて明らかにされたのは、特に驚くことではないだろう。

 東方外交は、もともと1960年代後半の東西ドイツの関係正常化をを指す言葉だったが、時がたつにつれて、教皇パウロ6世の下で、和解と合意を通して東欧の共産主義国との関わりを深めることを意味するようにもなった。教皇フランシスコを含めたその後継者は(在位期間が極めて短かったヨハネ・パウロ1世を除き)皆、中国に同じ基本的な対応をしている。

 14日の会議のテーマに一つとなったシルべストリー二枢機卿は、東西冷戦時代にバチカンの東方教会省の長官を務め、ソ連と西側諸国の緊張緩和にバチカンが関与した際の立役者だった。枢機卿は1975年にヘルシンキで開かれ、ヘルシンキ合意を達成した「全欧安全保障協力会議」に、その準備段階から関わり、合意実現に貢献した。

  司教任命に関する教皇フランシスコと中国の暫定合意を批判する人々は、「カトリック教会と他の宗教、宗派に対して、中国が長年にわたって否定してきたのが「自由」であり、暫定合意は中国に、(注:人権や信教の自由を否定する政策を)抵抗を受けることなく続けることを認めることを意味する」と合意延長に強く反対している。

 だが、バチカンも中国も長い時間をかけて試合をする達人だ。パロリンは、春に開かれた信教の自由に関する会議で、こうした批判に対して、合意を達成する聖座の目的は、「信教の自由を進めるのを助け、相手国のカトリック教会共同体の正常化を実現すること」としたうえで、忍耐強さが必要なことを強調し、「歴史は一日では作られません。歴史は長いプロセスです。私たちは、そうした視点に立たねばならないと思います」と語っている。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2020年9月15日