・バチカンの”世紀の裁判”で、教皇の”参謀”‐国務長官代理が弁護側の重要証人に(Crux)

(2023.1.28 Crux  Editor  John L. Allen Jr.)

 ローマ – バチカン最高裁判所長官は26日、バチカンの4億ドルに上るロンドンの不動産取引をめぐる「世紀の裁判」にとって、決定的な舞台転換の可能性のある判断を下した。弁護側証人として、バチカンの国務長官代理で事実上の”教皇首席補佐官”、エドガル・ ペーニャ・ パラ大司教を喚問することに決めたのだ。

 同裁判所はまた、バチカン銀行(正式名称「宗教事業協会」)のジャン=バプティスト・ド・フランス総裁も喚問する方針を決めたが、ピエトロ・パロリン国務長官にも証言させるように、との弁護団の求めに対しては、ペーニャ・パラ大司教の証言の結果を見て判断するとして、判断を留保した。ペーニャ・パラ大司教とド・フランス総裁はいずれも、裁判の核心である、バチカンがロンドンに保有していた4億ドルに上る不動産の処分の問題に関して証言することが予定されている。

 26日に行われた審問は、2021年7月に公判が始まって以来45回目となったが、元国務長官代理のアンジェロ・ベッチュウ枢機卿を含む10人の被告が出廷した。

 今後の公判でのペーニャ・パラ大司教の証言が注目されるのは、検察側の重要証人となっているアルベルト・ペルラスカ師の証言の信頼性を崩す可能性があるからだ。ペルラスカ師は、2009 年から 2019 年までの 10 年間、バチカン国務省の行政事務責任者であり、事実上、財務を担当していた。

 バチカンの検察当局が、バチカンのロンドンにおける不動産取引に関して、バチカンが最終的に約1億4000万ドルの損失を計上したことについて捜査を開始した際、ペルラスカをその主要関係者としていた。2021年半ばになって、ペルラスカはこの事件の内部告発者となることを“志願”し、ベッチュウ枢機卿はじめバチカン国務省の財務関係の元の上司や同僚たちに不利な証言を始めた。

 具体的には、昨年11月の公判で、自分は、イタリアの悪徳金融業者とベッチュウ枢機卿が結託して起こした不正取引の犠牲者だ、とし、「ベッチュウは、裁判で自分に容疑がかかっていることを私にさせた。私は、共犯者でも協力者でも、支持者でもない」と証言している。

 これに対して、イタリアのマスコミは、2021年8月に、バチカンの捜査当局のために、ベッチュウの後任の国務長官代理ペーニャ・パラが準備した秘密の覚書をすっぱ抜いた。バチカンは、その覚書の信憑性について肯定も否定もしていないが、その中で、ペーニャ・パラは、ペルラスカを国務省の組織上の主要ポストの人物であり、財務問題について上位の者に決定を急ぐよう圧力をかけ、また決定した案件の遂行を強要することをしていた、とし、具体的に、ロンドンの不動産取引について「早急に売買契約に署名しないと、大金を失う恐れがある」「それ以外の選択肢はない」「心配しなくていい。うまくいく」、そして「これは形式的な手続きに過ぎない」と圧力をかけた、としている。

 さらに”決定的”なのは、この覚書でペーニャ・パラは、ペルラスカ自身が「この問題が、国務長官あるいは教皇の注意を惹く前」に取引を認める2つの重要書類に署名した、としていることだ。

 バチカン内部の機密漏洩の罪で有罪となっているPRコンサルタントから、ペルラスカが間接的な“指導”を受けていたことが先に発覚したことで、ペルラスカの証言の信頼性はすでに揺らいでいるが、 ペーニャ・パラが公判でこの覚書の内容を確認した場合、その信頼性はさらに大きう揺らぐ可能性がある。

 バチカン経済委員会の元メンバーであるフランチェスカ・チャウキについては、裁判所は26日、再証言の必要はない、とした。彼女は1月13日の公判に、ペルラスカの長年の友人で、イタリア情報部の分析官であるジェノベッファ・チフェリと共に出廷し、二人がペルラスカに検察側に提供した録音の準備についてアドバイスしたと証言している。 だが、この二人の証言は、ほぼすべての点で互いに矛盾しており、どこまで真実を語っているのが判断は不可能だった。裁判官は、二人の証言をこれ以上聴いても役に立つことはない、と判断した。

 また、ベッチュウ枢機卿は、自分の弟が運営するオジェリ教区の慈善団体にバチカンの資金を不法に注ぎ込んだ罪で起訴され、公判が始まっているが、裁判所は、その証人として、サルデーニャ・オジェリ教区の現教区長とその前任者を喚問することを決めている。

 26日の審問では、2020 年 12 月に亡くなったオジェリの元司教、セルジオ ・ピントが残した私的文書で、ベッチュウと他のバチカン当局者がオジェリ教区に「深刻な干渉」をしていると非難する言葉を残していたことが取り上げられ、ベッチュウに発言が求められた。ベッチュウは、「そのような圧力をかけたことはない」と抗弁。「ある個人的な事件が心変わりをさせるまで、ピント司教は不満をいったい持っていなかった」と述べた。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2023年1月30日