・「バチカン改革に”フランシスコ効果”…憲章発表は9月以降に」-教皇側近の枢機卿語る(Crux)

(2019.7.6 Crux Rome Bureau Chief  Inés San Martín)

  ローマ発 – インド・ボンベイ教区長のオズワルド・グラシアス枢機卿は教皇の最側近の助言者の一人だ。バチカン憲章の改定作業を進める枢機卿顧問会議のメンバーで、2月に開かれた未成年者保護に関する全世界司教協議会会長会議の四人の取りまとめ役の一人でもあった。その枢機卿が3日、Cruxのインタビューに応じ、世界のカトリック教会の”中央政府”であるバチカンの組織改革には”フランシスコ”効果が発現し、「福音宣教」「奉仕」「慈善」が改革の三つの柱になるだろう、と見通しを述べた。

 バチカン組織改革の使徒憲章のほか、教皇のインド訪問の可能性などのテーマにも言及した枢機卿のインタビューは次の通り。

Crux: 先週、ローマで枢機卿顧問会議に出席されたが、何が主要テーマになったのですか?

グラシアス枢機卿: いくつかの会議がありました。私は未成年者保護について英語使用の会議に出た。バチカンの国務省での(注:聖職者による性的虐待問題についての)2月の全世界司教協議会会長会議のフォローアップの会合にも出席しました。

C: 教皇はこのほど、2月の会議を受けた、未成年保護についての自発教令を二つ出されました。次のフォローアップ会合はいつになるのでしょうか?

枢機卿:すでに何回か会合を持っています。年末までにはフォローアップの最終的な議論の取りまとめができると期待しています。その結果として、教会法をいくらか変えるかもしれません。また、教皇の自発教令に新たな内容を加えることも希望しています。未成年者保護に関して、加害者が二度と繰り返さないようにすることへの言及はありますが、司祭、信徒、家庭の教育を通して、安全で被害に遭わないようなな環境を作る慣行を推進することもひつようです。それについて配慮が必要です。まだまだ多くの課題があります。多くの対策が取られてはいますが。

C: 新しい使徒憲章が「夏の前」に発表されることはなくなったようですが、いつ発表されるのでしょうか?

枢機卿:「6月に発表される」という希望的観測がありました。原案はできていますが、全世界と教皇庁の意見を聴いています。まだ目を通すことができていない意見もたくさんあります。グループでの作業は進んでおり、明日もフォローアップのためのスカイプを使った会議をします。憲章は、9月までに…遅くとも12月までには発表できるようにしたいですね。

C: 原案にはまだ埋められていない箇所がある、というのは本当ですか。報道官とか未成年保護の委員会の役割などで。

枢機卿:原案は出来ています。だが、箇所によっては追加提案が出されており、検討しています。教皇庁とのかかわりをどの程度までにするか、もっと独自性を高めるのか、というような問題。例えば、報道官の役割についてです。教皇の報道官なのか、それとも教皇庁の報道官なのか。なぜなら、一方はもっと堅固であり、一方はもっと関与の度を増すことになるからです。

C: この使徒憲章に盛り込まれる新たなポイントは何でしょうか。

枢機卿:重要なポイントの一つは教皇庁が教皇を助けるとともに、司教協議会を助けることです。教皇庁は教皇によって選任されますが、どの人も助けねばなりません。したがって、教会法で改められる必要があります。なぜなら、教皇庁は常に教皇を助けてきましたが、現在では教皇と他の司教たち、普遍教会を助けることになるでしょう。これが主な変更の一つです。他の主な変更は、司教協議会に中心的な場を与えること。司法的な立場にいくらかの疑問が残りますが、効果的な機能を果たしているし、世界の現在の状況からも、活動の場があります。Synodality(共働性)と collegiality(合議制)も課題として出てきていますが、重要なポイントは教皇と司教たちの奉仕にあります。

C:教皇庁が司教協議会に仕えることになる、というのは何を意味するのですか?

枢機卿:教皇庁が仕えること、司教協議会と共にあり、助けることを、協議会が分かるようにしたい、というのが教皇のお考えです。教皇庁は素晴らしい仕事をしているし、教皇庁の働き無くして、教区は機能しないでしょう。考え方は変わっていますが、法律によって強められる必要があります。かつては、五年毎でないと教皇庁と話しをすることができませんでしたが、今は電話やメールなどを使って、もっと話しやすくなっています。

 福音の宣教(注:の教皇庁における体制強化)も主要課題です。福音宣教は教会の核心的な要素であり、教会の最優先事項です。その次が教理省、それから教会の社会奉仕、周辺の人々に手を差し伸べること、です。医療福祉関係の部局を部署へ昇格させることを希望しています。バチカン組織改革で示そうとしているメッセージは福音宣教、奉仕、慈善に焦点が絞られています。これが、教皇庁における”フランシスコ効果”なのです。

C: 憲章の内容についての提案の中には教会法の改正を求めるものもあるようですが、教会法について検討することになるのですか?

枢機卿:いくつかの点でそうせねばならないでしょう。憲章が教会法と矛盾したものになることはできませんから。

C: これまでにそのようなことがありますか?

枢機卿:とてもやっかいなことなので、ありません。ですが、教皇はこのように言えますー私たちはこうした規範を変えようとしている、規範は変えられねばならないでしょう、と。長い時間がかかっていますが、そうされるでしょう。私たちが長い時間をかけている理由の一つは、憲章の原案を作り始める前に、教皇庁のすべての部署と面接したことにあります。以前に彼らと話し合ったことについて、これほど多くの意見が出るとは、思っていませんでした。でも、彼らは、そのことを考え続けていたようなのです!

C: 話題を変えましょう。教皇はインドを訪問されるのですか?

枢機卿:私たちは、ご訪問を希望しています。教皇も希望されています。インド政府とご訪問について交渉してもいました。教皇は一国の代表であり、相手国からの公式招待が必要だからです。インドの総選挙が先月終わったので、訪問の時期と訪問先について、政府と話し合わねばなりません。総選挙の前に、首相は私に、教皇の訪問は可能だ、と語っていましたが、適当な時期を決める必要があります。

C: インド以外の国々からは、モディ政権が再選されたことで、少数派の宗教者たちへの嫌悪が高まり、過激派の動きが強まるのではないか、と懸念する声が出ていますが。キリスト教会への影響について心配されていないのですか?

枢機卿:心配していない、とは言えません。でも、現政権は私たちの政府であり、ともに働かねばなりません。私のただ一つの心配は、現政権にとって事実上、野党勢力がいない、ということです。どのような国でも、それはいいことではない。チェック・アンド・バランスが必要です。でもカトリック教会の人口はインドの総人口のわずか2パーセントです。野党勢力にはなれません。私たちは政権と連絡を取っており、うまく一緒の働けそうです。インドはヒンズー教徒が多数を占めている国であり、そのことは受け入れねばなりません。

C: でも、どの宗教に属していようと、国民の皆が安全でなければなりませんね?

枢機卿:その通りです。政権はすべての国民を受容する必要がある。そう希望しています。

C: 7月1日に、インドのある裁判所がこのような判断を出しました。それは、警察当局は聖職者による虐待を隠蔽したという訴えーせねばならないことをしたと言うーを受理して捜査するのを止めねばならない、というものです。いかなる時も、その結果は異なるものとなり得る、と思いますか?あなたがやれることは、もっとあったのではありませんか?

枢機卿: きわめて明確なのは、私たちがすべきことをやった、ということです。以前の判決でも、裁判官は、5年以上にわたって扱った方法に異議申し立てはなかった、そして突然、結論に達した、と述べました。だが、十分な証拠書類があります。その日の午後、私は被害者に面接し、直後に、補佐司教に警察に行くように言って、空港へ向かいました。補佐司教は翌日、そうしてくれました。教会が隠ぺいにかかわったという悪いイメージを持たれるのを心配しています。全くそのようなことはないのです。

C: 聖職者による性的虐待に関する2月の全世界司教協議会会長会議の結果がインドにもたらした影響はどうでしょう?

枢機卿: インドの司教たちは自分たちの責任を意識していると思いますし、インドの教会の規範があります。問題が起きた時に対応できる人材がどの教区にも十分にはいないとしてもです。ですから、私は、いくつかの教区については、そうした問題が起きた時に対応できる人を他教区から融通するようにしていますし、複数のために働ける委員会もあります。たくさんの問題を抱えているわけではありませんが、疑いもなく問題があることは知っています。どの国でも、カトリック教会は血の出る思いをしているのです。いつも、もっとすべきことがありますが、インドの教会には、政府が行動する前からガイドラインがありました。そのガイドラインをバチカンが認めるのにいくらか時間がかかりましたが。

C: オリッサ州カンダマルでの大虐殺-100人以上が殺害され、約5万人が近隣の森に被災した21世紀初期最悪のキリスト教徒迫害事件-の犠牲者たちを殉教者とする宣言のその後の扱いは?

枢機卿:ボンベイの私自身の専門家たちとともに、第一歩を踏み出す助けをする申し出をしました。ですが、正直に申し上げて、その後あまり進んでいません。バチカンの列聖省の担当者とは話をしました。彼らは殉教者だということが私の頭にあるからです。しかし、バチカンとインド国内には、現地の状況からタイミングを気にする声もある。でも、少なくとも列聖にむけた作業は進めるべきだし、その用意は出来ています。私は、被害者たち、親族や婦人たちと話をしています。彼らの話から、間違いなく殉教者だと思います。取り組みを進める必要のあることを思い出させてくださって、感謝します。

C: 他におっしゃりたいことは?

枢機卿: インドのためにいつもお祈りください。私たちには、世界とカトリック教会に差し上げるものがたくさんあります。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2019年7月7日