・「バチカンが巨額の損失を出して裁判がらみの資産売却」と英紙報道ーバチカン改革が問われている(Crux)

(2021.11.9 Crux Editor  John L. Allen Jr.)

 ローマ–バチカンを巡る今週の”新聞ダネ”の最有力候補が火曜日(9日)に登場した。英経済紙Financial Timesが9日付けで、ロンドンの不動産取引市場の専門家の話として伝えた「バチカンが、ロンドンの高級住宅地区チェルシーに保有する不動産を”格安”で売却している」というものだ。

 同紙によると、この不動産へのバチカンの投資額は4億ドル(約440億円)とされているが、売却額は2億7000万ドルで、差し引き1億3000万ドル(約143億円)の損失になる計算だ。

 その専門家は「ロンドンの不動産取引で損失が発生するのは難しいのは、よく知られたこと」であり、「彼ら(バチカン)がどうやって、このような損失を出したのか理解できない」と述べている、という。

 バチカンの ロンドンにおける”大失態”は、現在、バチカンの裁判所で進められている「世紀の裁判」のに直接関係している。つまり、バチカンの前列聖省長官で元国務次官のアンジェロ・ベッチウ枢機卿、バチカン官僚といくつかの企業関係者あわせて10人が、この不動産を巡る不正取引などで刑事告発されている裁判だ。

 この裁判は現在難航している。バチカンの検察側は、当初、プライバシー権を理由に、裁判所による「証人の画像と音声が録音されたDVD」の提出命令を拒否。裁判所側はこれを受け入れず、結局、今週になって、膨大な記録が入った52枚のDVDを提出した。この提出資料は被告弁護側も利用できるが、”捜査の都合上”という理由で、38件が削除されており、被告弁護側の反発を招いている。

 次回公判は17日に予定されているが、裁判が軌道に乗るかどうか重要なものになるが、問題の一つは、カトリック教会全体に大きな影響を与えかねない事案にもかかわらず、この裁判で扱われている国際的な金融取引について、専門家以外には理解不能な専門用語が乱発されていることだ。

 教皇フランシスコは2013年に着座されて以来、バチカン改革に精力的に取り組んでおられ、それは財務・金融面での改革のみならず広い範囲に及んでおり、ロンドンを舞台とした巨額不動産不正取引問題の欧米でのマスコミ報道は行き過ぎではないか、との見方もあるかも知れない。だが、教皇は目指しておられるバチカン改革は、”権力”や”特権”を振り回す”バチカン文化”を、”奉仕”の精神に改めることであり、それは、現在の裁判が公正に行われ、疑惑が一掃される以上のことが必要になるのだ。

教皇のバチカン改革は、財務・金融とコミュニケーションの2つの分野で始められた。一日の終わりに、どちらも実質的に変化していないように見えるとき、それは教皇が目指す目標が達成可能なのが疑問が頭をもたげるだろう。 ”バチカン文化”を根底から改めたいのであれば、”商売”に既得権を持つ”古参の有力者”から、文化の支配権を取り上げる必要がある。言い換えれば、それは“金力”を取り上げることー一般社会と同じように、バチカンでも「お金がものを言う」からだ。

 バチカンでの巨額不動産不正取引事件の裁判は、バチカンにおいて、説明責任と透明性を基礎に置く新たな日が始まったことを大々的にうたう教皇の改革プロセスの一里塚になるはずだった。しかし、現状を見る限り、それからはほど遠い状態だ。特に、この裁判で、罪を認め捜査に協力することで起訴を逃れる者がいるなど、ベッチウと他の被告が公正な扱いを受けていないという印象を与えてしまっている。

 裁判がどのように決着するか、その判断をするのは時期尚早だ。だが、私たちカトリック教会に関わる全員が注意を払う時期としては、今はふさわしい。なぜなら、この裁判の行方に、私たちが大きな利害関係を持っているからだ。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2021年11月10日