(2021.5.17 Vatican News staff writer )
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中国政府・共産党が、香港における民主主義、人権を守ろうとする運動を武力で抑えつけ、諸宗教も中国本土同様、共産党の管理・監督下に置こうとする動きを強める中で、いかに香港のカトリック教会、信徒をまとめ、信教の自由、人権を守ろうとするか、注目される。
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周神父は、1959年8月7日、香港生まれ。米ミネソタ大学で心理学修士号を取得した後、1984年9月27日にイエズス会に入会し、アイルランドで会士としての修練を積み、1988年から1993年まで香港で神学研究、1994年7月に司祭に叙階された。また米シカゴのロヨラ大学で組織開発の修士号、ハーバード大学で人間発達と心理学の博士号を取得した。
2007年以降、香港の2つのイエズス会の単科大学と九龍華仁書院の管理者、香港大学の名誉助教授とイエズス会の養成担当などを務め、イエズス会香港管区の教育委員長、カトリック香港教区の教育理事会の理事なども務めてきた。2018年1月にイエズス会管区長に就任した。昨年には、香港の男子修道会協会の副会長になっている。
(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)
(参考)
【香港教区長の早すぎる死-後任人事が教皇にとっての”踏み絵”に(CRUX)】
(2019.1.7 Crux Managing Editor Charles Collins)
(ニュース解説)
「危機」という漢字は、危険を示す「危」と機会を示す「機」で出来ている。香港教区長のMichael Yeung Ming-cheung司教が1月3日、73歳で亡くなったのを聞いて、すぐ頭に浮かんだのは、1997年に香港が英国から中国に返還されて初めて、教区長のポストが空いた、ということだった。
Yeung司教の死は、バチカンと中国の関係が岐路に立つ最中に起きた-彼の後任の選択は、北京の共産党当局と1300万人といわれる中国のカトリック信徒によって注視されるのだ。
昨年9月22日にバチカンと中国政府は、司教任命に関する”暫定合意”に署名し、中国政府によって指名された8人の司教が公認された。大方の報道によれば、この合意-詳細は未だに公表されていない-は、バチカンは中国政府に司教を提案することを認め、その提案に対して教皇には拒否権しか認められず、しかも拒否権の行使をしないように様々な圧力を受ける、というものだ。
バチカンの中国政府との交渉の狙いは、1950年に共産党政権が「中国天主愛国協会」(いわゆる”地上教会”)を設立し、国内のカトリック信徒がバチカンから独立するように監視を始めて以来続いてきた、中国のカトリック教会の地上教会と地下教会の分裂状態を終わらせることにあった。教皇に忠誠を誓い、共産党政権の監督・支配を拒む地下教会の中国本土における信徒数は、地上教会とほぼ同数と、それぞれが主張している。
”暫定合意”の署名が伝えられた時、中国の多くのカトリック信徒は、「合意は、何十年も迫害に遭い続けた”地下教会”を裏切るものであり、北京政府への屈服だ」と非難の声をあげた。批判する人々は「教皇が認めた司教たちはカトリック教会よりも中国共産党に忠実だ」と指摘し、さらに「教皇が認めた司教8人のうち少なくとも2人は”秘密の家族”を持っている(注:つまりカトリックの司教・司祭が禁じられている結婚をし、子供をもうけている)」と糾弾している。
しかも、”暫定合意”が署名されても、中国当局は、このようなカトリック信徒たちの懸念を軽減するようなことは何もしていない。それどころか、「反カトリック教会キャンペーン」を強め、愛国協会への加盟を拒む司祭たちを逮捕し、司教たちを拘留し、修道院の建物を破壊し、未成年者のミサ聖祭など宗教行事への参加を禁じる政令を公布している。
このような弾圧は、中国のあらゆる宗教活動に対する共産党による規制強化に努める習近平主席の方針に沿ったものだ。だが、こうした中国側の振る舞いに対して、バチカンは、”暫定合意”が損なわれないように、と沈黙を続けている。
バチカンの中国との交渉で、香港は特別重要なケースだ-この英国の元植民地は、英国の統治下で保障されていた信教の自由を含む諸々の自由を住民に与える基本法によって統治されている。香港の司教たちは、中国政府の干渉を受けることなく、教皇によって任命されている。
だが、それにもかかわらず、バチカンは香港での司教任命に慎重なやり方をしてきた。香港が1997年に英国から中国に返還されてから、直接に司教を任命することをせず、まず、補佐司教として任命し、司教が務める教区長のポストが空いた時に、自動的にその後任の司教となる、というやり方をしてきたのだ。こうすることで、教区長が空席となったときに中国政府がバチカンにかける可能性のある圧力を軽減し、新司教には教区長のポストに就く時になるものだということを、中国政府に認識せるようにしてきたのだ。
今回のYeung司教の死去に伴って生じた危険は、中国共産党当局が、この元英国領で、新司教を作る力を行使しようとするかも知れない、ということだ。
香港のカトリック信徒数は40万人にのぼるが、全人口の5パーセントでしかない。だが、カトリック信徒たちは英国による統治以来、卓越した役割を演じてきた-教育、住宅、医療健康、その他の社会サービスを提供している。香港の民主主義運動でも活発に活動しているが、中国政府が背後についた行政府にも格別に大きな影響力をもつ-香港特別行政区行政長官の林鄭 月娥(りんてい げつが、キャリー・ラム)はカトリック信徒であり、三人の前任者たちの1人もそうだった。
その独特の性格から、香港教区長は通常、”中国のカトリック教徒の声を事実上代弁する存在”とされてきた。英国から中国へ返還されて以来の三人の司教たちは全員が枢機卿になっているが、そのうちの1人、86歳になる陳日君枢機卿は、”暫定合意”に対する最も歯に衣を着せぬ批判者だ。
香港の新教区長・司教として、最も可能性のあるのは、香港生まれの現役の2人-マカオのLee、それに香港の補佐司教、Joseph Haである。Leeは属人教区Opus Deiの会員で、”暫定合意”の強力な支持者だが、”政治”への関与は避ける傾向にある。これに対して、フランシスコ会の会員であるJoseph Haは、香港の民主活動家たちの支持者で、香港教区の正義と平和委員会の指導者でもあり、中国の共産党政権の不興を買うような政策をしばしば主張している。
もっとも、このような二人の違いは大げさにするものではない-Leeは共産党政権の”使徒”ではないし、Haも、中国当局に嫌がられる陳枢機卿のような激しい批判者ではない。だが、中国のカトリック信徒たちは、香港教区長・司教の後任人事を、中国における信教の自由の実現に、バチカンが前向きに取り組むかどうかの証しとなる、と見ている。
もし教皇がHa、あるいは同様の考え方を持つ人物を選べば、中国の信徒たち、特に香港の信徒たちは「教皇が我々の思いを聴いてくれている」と受け取るだろうし、「ほとんどの切り札を持っている」と自信を深める中国との交渉で、バチカンが何枚かのエースを確保することになるだろう。
だがもし、この人事で「中国政府に屈した」という見方をされれば、教皇は、地下教会の信徒たちをさらに見放す危険を冒すことになり得る-地下教会の多くの信徒たちは”暫定合意”と共産党の支持を得た司教たちを受け入れることを、躊躇している。
陳枢機卿はすでに、中国に新たな分裂が起きる可能性を示唆している-地下教会の信徒の中に、中国政府とバチカンの両方への忠誠を拒否する者が出る可能性だ。
香港の暫定教区長は「11日にYeung司教の葬儀が終わるまでは、正式の新教区長が選ばれることはないでしょう」と語っている。教皇は人事を早期に行うと見られている。ポストが長く空いたままであればあるほど、中国政府による人事への関与が強まる、と見られるからだ。
(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)
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