・バチカン財政、2023年決算で赤字の増加は抑えられたが、長期的な悪化に懸念(CRUX)

(2024.7.29 Crux Staff)

 ローマ発 – イタリアのマスコミによるバチカンの財政状況に関する新たな分析結果には、バチカン財政にとって良いニュースと悪いニュースの両方が混在しており、膨れ上がる赤字を抑える取り組みが比較的成功している一方で、回復不可能に見える長期的な悪化も示唆している。

 イタリアで最も広く読まれている日刊紙La Repubblicaが26日付けで報道したバチカンの最新の財務データによると、バチカンの年間運営赤字は、2023年に約540万ドル(約8億2000万円)増加と、増え方が過去数年よりも低くなった。これは、支出削減とバチカンの資産価値の評価を市場の水準に修正したことによるもの、と同紙は説明している。支出削減策には、雇用と契約に関する新たな制限、商業的に賃貸されているバチカンの資産の一部で徴収される家賃の引き上げや、その他の資産の売却に向けた取り組みなどが含まれている。

 同紙の記事は、ドイツのラインハルト・マルクス枢機卿が率いるバチカンの財務評議会がこのほど承認した、2023年の財務諸表をもとにしたもので、2023年の赤字は9000万ドル(約140億円)を超え、収入は12億5000万ドル(約1910億円)、支出は13億4000万(約2050億円)だった。収入は3000万ドル(約46億円)増えたが、インフレの影響で支出は3600万ドル(約55億円)と収入を上回る増え方となった。

 La Repubblicaによると、教皇の慈善活動を支援する聖ペトロ使徒座献金など教皇基金による収入は2023年に5250万ドル(約80億3000万円)ドルに上り、前年の4720万ドル(約72億2000万円)を上回った。だが、この基金の献金による純利益は、2023年にバチカンを財政支援するために約9800万ドル(約150億円)が引き出されたことで相殺された。

 さらに、基金からの収入の長期的な傾向は明らかに下降している。Repubblicaの分析によると、募金は2015年から2019年にかけて全体で23%減少しており、さらに減少する見込みだ。この減少は、ロンドンの高級百貨店ハロッズの元倉庫の4億ドル(約610億円)の買収が中止され、イタリアのアンジェロ・ベッチウ枢機卿を含む9桁の詐欺罪で有罪判決を受けたなどの金融スキャンダルに関連している可能性がある。教皇基金は、現教皇の人気に関する”国民投票”と見なされることもあるため、教皇フランシスコをめぐるさまざまな論争も影響している可能性がある。

聖ペトロ使徒座献金が、富裕国の信者減少を主因に減り続けている

 しかし、もっと根本的な点として、ほとんどの評論家は、聖ペトロ使徒座献金など教皇基金の収入の大半が裕福な国々から来ていることが、減少の主因だと考えている。裕福な国々では、カトリック教徒の人口が減り続けており、したがってカトリック教徒の献金も何十年も減少を続けている。

 労働力の高齢化と年金債務の増大という将来にわたる問題を考えると、バチカン財政の収入の減少は、バチカンの財務関係者にとって特に心配なことだ。また、世界中から持ち込まれる仕事と複雑さが急速に増加している中で、歳出コストの上昇と収入の減少は、最終的にバチカンは職員を削減するか、職員給与を削減するか、あるいはその両方を余儀なくされる可能性がある、と懸念されている。

 バチカンの財務評議会が承認したとされる財務諸表は、教皇庁に関するもので、バチカン市国政府(バチカン美術館からの収入など、物理的な領土の管理に責任を持つ)とバチカン銀行(IOR)の両方が除外されている。IORは2023年に3320万ドル(約50億8000万円)の収入をあげ、59億ドル(約9000億円)の顧客からの預かり資産を持っているが、今後数年間、市国またはIORからの収入がバチカンの広範な赤字を相殺するのに十分である可能性は低い、と考えられており、現時点では損失がどのように維持されるかは不明だ。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2024年7月30日