(2024.12.19 Vatican News)
ドイツの名監督ヴィム・ヴェンダースが東京・渋谷の公共トイレを舞台に描いた人間ドラマ、『パーフェクト・デイズ』をバチカンのパウロ会の検察官で映画評論家のグレッグ・アパセル神父(CSP)が、2025年聖年にふさわしい映画として推奨している。
主人公のトイレ清掃員、平山役を役所広司が務め第76回カンヌ国際映画祭で日本人2人目の男優賞を受賞して話題となった映画。2024年の第47回日本アカデミー賞 – 優秀作品賞、最優秀監督賞(ヴィム・ヴェンダース)、最優秀主演男優賞(役所広司)、第17回アジア・フィルム・アワード – 最優秀男優賞(役所広司)も受賞している。東京。日比谷のTOHOシネマズ シャンテで12月25日まで上映しているほか、DVDや一部の動画サイトで閲覧可能だ。=PERFECT DAYS 公式サイト (perfectdays-movie.jp)
以下、アパセル神父の映画評。
教皇フランシスコは、すべてのキリスト教徒に希望の巡礼者となるよう呼びかけておられる。聖年における免罪符付与に関する法令の中で、法王は「希望は『神の救いのご臨在を必要とする人間の心の渇望』を包括する時代の兆しの中で再発見され、希望の兆しとなるべきである」と書かれた。
そこで私は、ヴィム・ヴェンダース監督の2023年の映画『パーフェクト・デイズ』に専心することで、自分自身の希望の巡礼の旅を始めた。私たちは平山が日常的に行っていることを追う。彼は起床し、体を洗い、服を着て、植物に水をやり、東京の公衆トイレを清掃する仕事に向かうために車を運転する。これらは2020年の夏季オリンピックのために建設された芸術的にデザインされた9つのトイレである。 私たちは平山氏とともに、彼を取り巻く世界の素晴らしさを瞑想する。
木々の梢と太陽が作り出す影、太極拳をやるホームレスの男性、母親が見失った子供を無視する母親、一人で昼食を食べている悲しげな若い女性、そして、緻密に仕上げられた仕事に誇りを持つ平山氏。彼は微笑むが、多くを語らない。彼は自分の周りで起こっていることすべてに気づいており、感謝している。ここに希望がある。それは、私たちを取り巻くありふれた日常の中に美を見出すことだ。そして、平山は日々撮影する写真の中にその美を表現している。彼は車を走らせながら、オーティス・レディング、パティ・スミス、ルー・リードなど70年代から80年代の音楽を集めたカセットテープを聴くのが好きだ。そして、仕事が終わると、彼の夜のルーティンが始まる。
平山は自転車で銭湯に行き、体を洗った後は湯船でくつろぐ。静かな部屋で休んだり、防塵マスクを着けた寝たきりの老人に扇風機をあててあげたりもする。顔なじみの店で食事をし、野球観戦をしながら、常に視界に入るスカイツリーを眺める。 寝る前にはウィリアム・フォークナーや、その時読んでいる作家の本を読む。夜は白黒の夢を見る。木々の影が絶えず存在する。時折、子供の手を引く男が現れたり、昔の誰かの顔が現れたりするが、これらの夢は美しく撮影されている。この映画は当初「木漏れ日」というタイトルだった。これは、木々の間から漏れる光の効果を意味する。
平山は休日には洗濯をし、家を掃除し、フィルムを現像して良い写真を保存し、それらを銀色の容器に保管する。その容器には、古本や大切なカセットテープも一緒に入っている。 ある夜、レストランで、そのレストランの優雅な女性経営者が、すべての客に、特に平山に特別な注意を払っていた。歌を歌ってほしいとせがまれて、ついに彼女は承諾し、日本語で「太陽が昇る家」を心に沁みいるように歌った。
数日後、平山は、その女性が男に抱きついて泣いているのを目撃した。その後、その男が平山に近づいてきて尋ねた。「俺たちを見てた? いつもあそこに行ってるんだな。私は彼女の元夫だ。7年前に離婚した。今、私は癌を患っている。化学療法で体が炎症を起こしている。私は彼女に謝らなければならないと思った。彼女にお礼を言いたかった」そして、優しい瞬間、2人の男は互いの影の動きを観察し、まるで少年のように影踏み鬼ごっこをした。平山がカセットで最後に流したのは、ニーナ・シモンの歌う「Feeling Good」だった。歌詞はこうだ。「夜が明けて新しい朝が来た。私は気分がいい」という歌詞とともに、平山が夜明けに向かって車を走らせる。
姪や妹、ホームレスの男性、そして夢との感動的な瞬間など、印象的な場面は他にもたくさんある。この映画は私個人に語りかけてきた。特定の映画を観ているときの自分の居場所や自分自身について、何かがある。それが映画の体験に影響を与えるのだ。 身の回りのことに目を向けてみよう。通り過ぎる時には気づかない人々にも目を向けてみよう。自然にも目を向けてみよう。特に、木々に目を向けてみよう。木々は、光と闇の相互作用の中で、影や模様、陰影を作り出す。木々を通して、自分が世界の中でどのような位置にいるのかを理解し、目の前にある希望を見出そう。
『ベルリン・天使の詩』で初めてその芸術性を評価するようになったヴィム・ヴェンダース監督は、共同脚本家の高崎卓馬、撮影監督のフランツ・ラースティグ、編集者のトニー・フロッシュハマーと共同で素晴らしい映画を制作した。しかし、平山役の役所広司の演技が『パーフェクト・デイズ』を必見の映画にしている。 昨年のカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞した役所広司氏は、この役で実にさまざまな側面を見せている。彼の表情や考えは実に素晴らしく、彼の心の奥底にあるものを私たちに見せてくれる。そして、私たち観客も、自分自身の魂について何かを理解できるのかもしれない。
(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)