・全米司教協議会、2月の全世界会議に虐待対策具体策を提示へ(Crux)

(2018.11.15 Crux National Correspondent Christopher White)

  米ボルチモア発-ボルチモアで開かれていた全米カトリック司教協議会の総会が14日、最大の課題として注目されていた「聖職者による性的虐待への教会としての緊急行動」について何の決定もないまま閉幕した。

 司教協議会会長のダニエル・ディナルド枢機卿は、閉幕に当たって、危機に対する対応について「できる限り早い時期にできる限り強力な行動をとる」ことを誓い、米国司教団の教皇フランシスコに対する忠誠を改めて確認した。

「私はこの会合をいささかの失望をもって始めたが、希望をもって終えた」と枢機卿は語った。総会では当初、性的虐待問題への対応の一環として、米国の司教たちの説明責任について新たな基準を投票によって決める予定だったが、直前の11日になって、バチカンから来年2月21日から24日に予定する性的虐待に関する全世界司教協議会会長会議の後に延ばすように、との要請を受けていた。

 枢機卿は3日間にわたる総会の締めくくりに、(注:性的虐待をした司祭への対応で責任を問われている)セオドール・マカリック前枢機卿に関する捜査は「継続する」として、司教たちによる性的虐待や対応の誤りについての報告のテンポを緩めるととともに、司教たちの説明責任を明確にする独立した一般信徒主導の手段を検討する、と言明した。

 さらに、「教皇フランシスコの主導の下に、来年2月に世界の教会の代表が行う対話が、私たちの教会から性的虐待の悪を根絶するのを助けてくれることを確信しています」と述べ、「そうして、私たちの米国での努力が世界的なものとなり、世界の見方が私たちを助けてくれるでしょう」と期待を表明した。

 だが、こうした枢機卿の確信に満ちた締めくくりの言葉にもかかわらず、総会最終日の討議は司教たちの間に困惑と不満が噴出した。それは、一言で言えば「マカリック」だった。

 これまで米国の司教たちは、前の枢機卿でワシントン大司教だった人物が、どうして、少なくとも一人は未成年だった神学生たちを性的に虐待している中で教会での位を上げていったのか、についての答えを出そうと繰り返し議論してきた。そして議論の中で、ビガーノ前駐米バチカン大使・大司教の訴え(注:教皇フランシスコはマカリックの行状を知っていながら、適切な措置を取らなかった、とし、教皇に辞任を迫ったこと)を信じる司教たちと、世界のいくつかの国の司教団がしたのと同様に教皇を支持し、米国教会の不一致を遺憾とする司教たちの間で対立が表面化した。

 テキサス州フォートワースのマイケル・オルソン司教は議場で熱意溢れるスピーチをし、全米司教協議会がマカリック自身を総会に公式に出席させない措置と取らなかったこと、教皇フランシスコに対する公式の支持表明をしなかったことを非難した。

 この直後に、彼はCruxに「私たちは、教皇フランシスコがペトロの権威を受け継ぐ教会統治者であり、ビガーノ大司教の教皇辞任要求は恥ずべき行為であることを再確認する必要があります。大司教の教皇への書簡が真実であるなしにかかわらず、彼が教皇に教皇座を放棄するよう求めたことは恥です。カトリックの一致を害するものです」と述べた。さらに「私たちは兄弟の司教として、教皇フランシスコをペトロの後継者として支持する必要があります」「私たちは、彼が十字架を負うのを助け、この問題の大きさと私たちが絶対になすべき事を知るように助ける必要があります」と訴えた。

  オレゴン州ベーカーのリアム・カリー司教も、ジョン・レイの未成年者虐待に関する報告のような、司教たちによる虐待の隠蔽に関する包括的な調査を提案し、オルソン司教にならって、全米司教協議会としてマカリックを公式に非難する必要性を強調。「前米司教協議会として、私たちは、仲間の1人のとった恥ずべき行為と距離を置く公式の措置をとっていないのです」と批判した。

 また、アリゾナ州フェニックスのトーマス・オルムステッド司教、バージニア州リッチモンドのバリー・クネスタウト司教のように、現在の米国の教会の状況を、人工的な受胎調節を禁じた教皇回勅「フマネ・ビテ」に反対するカトリック神学者、司祭、一般信徒たちの異議申し立てと引き比べ、教会の指導性とともに完全な一致と教会の教え全てについての確認を呼び掛ける意見も出された。

 総会最終日の午後の30分以上にわたる議論の後で、司教たちは「バチカンに対し、マカリックに関する教会法上、民法上の見解について文書を出すよう”督促”する」というランシングのアール・ボイア司教の提案を否決した。

 議論の多くは、バチカンがすでに先月、同様のことをすることを誓約する声明を出している、という事実を巡るものだったが、ディナルド枢機卿は最終声明で、司教たちは「様々な調査が公正で時宜を得た形で取りまとめられること」を支持し、先月のバチカンの誓約に感謝を表明した、と述べた。

 総会後に、ジェファソン氏のショーン・マックナイト司教はCruxに、総会前の彼の教区での6回におよぶ聴聞会で分かったことは、マカリック問題が米国の教会にとって最大の懸念だ、ということだった、としたうえで、「今総会の結論についての最大の不満は、マカリックがもたらしている事態について前進が見られなかったことです」と語った。

  総会をまとめようと、ディナルド枢機卿は、総会の開会あいさつで司教たちに意識変革を求めた現駐米バチカン大使のクリストフ・ピエール大司教の言葉をこのように引用した。「いかに優れた、欠くことのできない統治あるいは管理・監督であっても、それだけで、キリストにおいて受けた崇高な呼びかけに従って、弱い私たちが生きることができるようにする仕組みは、存在しません」。

 来年2月の全世界司教協議会会長会議では、ディナルド枢機卿が米国の司教団を代表して出席することになるが、「全米司教協議会は今週から、会議に提案する内容を具体的に固めていくつもりです」と決意を述べた。

 これまでの検討過程で、司教たちが説明責任を果たすための新たな仕組みについて2つの案が出ている。全米で一つの一般信徒による委員会を設置する原案と、今週の討議で浮上してきた新たな提案-主要都市の司教たちの監督下に各地に設置する審査委員会の全国網を整備する案だ。

  マックナイト司教はCruxに「今回の総会の結果を見ると、来年2月の全世界会議が、米国で私たちが必要としているようなものを提供できるのか、できないのか、懸念が強まってきた」と言う。彼は、ディナルド枢機卿がローマから帰国するのを受けて、3月に司教会議を開くという、ブレーズ・キューピック枢機卿の提案に賛意を示し、「3月の会議で、さらに具体的に、深い前進がみられるようにせねばならないでしょう」と述べた。

 総会が当初、自身が考えていたものとは程遠い結果になったものの、ディナルド枢機卿は楽観的な見方で閉幕のあいさつを終えた。「私たちは、できるだけ早い時期に、できるだけ強力な行動をとることを約束して、この場を離れます」「世界の教会との霊的な交わりにおいて、そうします。世界の教会と力を合わせて前進することは、米国の教会をより強くし、世界の教会をより強くするでしょう」と。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載します。

このエントリーをはてなブックマークに追加
2018年11月16日