・米ペンシルバニア州で70年以上にわたり児童1000人以上が司祭から性的虐待(TABLET)

(2018.8.14 Tablet  Michael Sean Winters)

 米ペンシルバニア州で過去70年以上の間に、何百人もの小児性愛者の司祭から1000人を超える子供たちが性的虐待を受けていたことが、14日、同州のジョシュ・シャピロ司法長官が発表した調査報告書で明らかになった。

 報告書は同州の6つの司教区の聖職者による小児性的虐待について、信頼に足る301の事案に関して、2年にわたる調査結果をまとめたもの。先日異例の引責辞任をしたセオドール・マカリック枢機卿の問題が米国の教会に深刻な打撃を与える中で、今回の884ページにわたる報告書の発表は、2002年にボストンで始まって全米で明るみになった聖職者による性的虐待問題が改めて全米レベルの問題となってきたことを示している。

 シャピロ長官はこの報告書発表に当たって、聖職者による性的虐待の被害者たちとともに記者会見に臨み、最初に、被害者たちが自身が受けた性的虐待と心理的、身体的、感情的な後遺症などの影響について証言するビデオを記者団に見せた。続いて、性的虐待と教会指導者たちによる隠ぺいについて具体的に詳述し、さらに、州司法省の被疑事実の判断を忌避する申し立てや否定する動きが、報告書のとりまとめを遅延させた、と述べた。同州最高裁判所が報告書に名前が書かれた人物から出された訴えを審査中であることから、いくつかの箇所が最終版で修正される、という。

 長官によると、調査の過程で、州大陪審は50万件にわたる教会の内部文書を検討した。1000人以上の子供たちが性的虐待の被害に遭っていることが確認されが、それにもかかわらず、教会の責任者たちが「被害者たちについて完全な無視の姿勢」をとっていると言明した。報告書には、性的虐待をした司祭として、ピッツバーグ教区で99人を含めて合計301名が実名で挙げられており、それぞれの教区について、性的虐待の嫌悪すべき実例を示したが、その中には、若い女性を強姦して妊娠させた司祭が、堕胎の費用を払った、というものもある。さらに長官はジェームス・ティムリン司教が被害者ではなく、強姦した本人に送った同情の手紙を読み上げた。

 この報告書には、フィラデルフィア大司教区とアルトーナ‐ジョンズタウン教区は対象となっていないが、それは、先に出された大陪審報告に書かれているからだ。

 ペンシルバニア家庭支援同名のアンジェラ・リドル会長は、報告書の発表を受けて、次のように語った。「大陪審の調査結果は、加害者の司祭たちとカトリック教会の上層部による酷く非難されるべき振る舞いを、改めて確認しました。子供たちへの相次ぐ性的虐待は、そのようなことを加害者たちに可能にし、守られるような環境の中で行われ、犯罪行為が明らかになった時でさえも、罪も無い子供たちの手当てよりも、教会組織を守ることを優先させたのです」と。

 この報告書の発表に先立って、保守系のグループが、報告書は1988年から2006年までピッツバーグ司教を務めたドナルド・ワール枢機卿の評価を損なう可能性がある、と指摘していた。

 枢機卿は、1988年にアンソニー・チポラ神父を司祭の職務から外して以来、聖職者による性的虐待に対して厳しい姿勢をとっていることで知られている。バチカン聖職者省からのこの問題の神父を職務に戻すようにとの命令を拒否し、バチカンの最高裁判所に提訴した。提訴が却下された後、枢機卿は再審を求め、同最高裁から、最終的に彼の判断を支持する判決を引き出した。枢機卿は1988年から、聖職者による性的虐待に関する教会の捜査当局に対する報告義務などの措置導入を推進し、2002年に米国司教団が採択した「児童保護のためのダラス憲章」実現の力となった。

 報告書は、教会法の要請に従って、同枢機卿が、聖職を解かれた人々の健康保険料と生計費を負担し続けている、と批判。一方で、前エリー教区長のドナルド・トラウトマン司教について、聖職者のこうした犯罪について、バチカン当局には真実を明らかにしながら、捜査当局と被害者家族に対しては意図的に隠していた、と非難し、他の司教たちにも、性的虐待の隠蔽に努めた罪、故アンソニー・べヴィラクア名義枢機卿を含む多くの司教たちについては、教会での司牧で子供たちに危険が及ぶ恐れがあると知りながら、問題の司祭たちにそのまま職務を続けさせた罪があるとしている。

 ワール枢機卿は、報告書を受けて出した声明の中で「報告書は私のとった行動のいくつかについて批判しているようだが、私が心を尽くし、性的虐待の被害者のことを思い、性的虐待が今後繰り返されないように努めてきたことを、この報告書が確認してくれた、と信じている」と強調した。

 シャピロ長官はまた会見で、性的虐待罪の時効をなくすよう勧告するとともに、カトリック教会に対する民事訴訟の規制を緩和するよう主張した。同州大陪審も、教会に出された小児性的虐待の訴えを警察当局に報告する義務を明確化し、情報秘匿の取り決めを警察当局との情報のやり取りに拡大するのを禁ずる新法の制定を求めている。(「カトリック・あい」注・フィラデルフィアでは、2016年に性的虐待罪の事項を無くす法律制定の動きがあった際、当時のチャールズ・チャプット大司教が教区の信徒たちに制定に反対するよう強く働きかけ、それもあって制定が見送られた経緯がある。)

 (翻訳・「カトリック・あい」南條俊二)

(Tabletはイギリスのイエズス会が発行する世界的権威のカトリック誌です。「カトリック・あい」は許可を得て翻訳、掲載しています。 “The Tablet: The International Catholic News Weekly. Reproduced with permission of the Publisher”   The Tablet ‘s website address http://www.thetablet.co.uk)

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2018年8月16日