・性的虐待の被害者が声をあげる-教会”文化”が変わってきた-弱者保護の大司教(CRUX)

McCarrick case points to shift in culture, child protection experts say

Archbishop Mark Coleridge of Brisbane, president of the Australian Catholic Bishops’ Conference, at the press conference for the 15th annual Anglophone Safeguarding Conference at the Gregorian University in Rome, June 21, 2018. (Credit: Claire Giangravè.)

(2018.6.22 CRUX  

ローマ発―米国の枢機卿が性的虐待で訴えられたとの信頼に足るニュースは、こうした噂が何年も出回っているバチカン関係者の小さな集団には大したショックを与えなかったようだが、多くの信徒にとっては、教会の信仰に対するさらなる打撃となった。

 教会で児童保護の最前線にいる専門家たちによれば、ニューヨーク大司教区が、セオドア・マカリック枢機卿のような、かつては際立った存在を、性的虐待の訴えを受けて追い回す事態は、カトリック教会におけるカルチャーの重要な変化を示している、という。それは、権力を持つ者に責任を課すことをおそれない、という変化だ。

 「それは、(性的被害を告発する)”MeToo”運動と異なるものではありません。文化の中で起きつつあるもの、この文化的な変化のしるしの一つは『人々は声を上げることができる』ということです」とオーストラリア司教協議会議長のマーク・クラリッジ大司教は21日のローマでの、幼児性的虐待など弱者保護のために会議を終えた記者会見で語った。

 この前日、20日には、問題のマカリック枢機卿が司祭として働いていたニューヨーク、ワシントン両大司教区が声明を発表し、同枢機卿に関する50年以上前の「信頼でき、具体的な」性的虐待の訴えを受け、枢機卿の司祭としての活動を禁止したことを明らかにした。訴えた人の中には、ニューヨークの司教座聖堂、聖パトリック・カテドラルで典礼奉仕をしていたかつての少年も含まれている。

 当のマカリック枢機卿は「報告されている虐待行為については全く記憶になく、自分は無実だと信じているが、告発した人の痛み、告発が私たちの信徒に与えた困惑を申し訳なく思う」と語っている。

 一方、クラリッジ大司教は、「大きな変化」の重要な側面は、虐待の被害者たちが進んで話すようになったこと、さらに重要なのは、彼らが信用された、ということ、と指摘し、「誰も説明責任を逃れることはできなくなった」と述べ、これまでは1人の司教の裁量によるものだったが、今、大司教区は(司教の裁量によらずに)この問題を扱うことができるようになった、と付け加えた。「マカリック枢機卿に関して起きたことは、司教の説明責任に焦点を当てており、カトリック教会にとって焦眉の急の問題です」。

児童保護センター(CCP)の所長、ドイツイエズス会ののハンス・ゾルナー師は、マカリックに関する教会の対応は「物事が厳しく扱われるようになりつつあり、対応の徹底が最も高いレベルに達しつつあることを示している」との見方を示し、ニューヨーク大司教区の理事会は「信頼できる、実質的な内容のある申し立てに対応し、教会法の通常の手続きに従って判断ができるようになった。教会の歩みは一歩、一歩、極めて遅いが、次第に一貫したものになり、規定に従って行動するようになってきています」と語った。

  クラリッジ大司教のお膝下のオーストラリアでは、世界のカトリック教会の支配層で最も力のある人々の1人であるジョージ・ペル枢機卿の性的虐待スキャンダルとその裁判で大騒ぎになっているが、フィリップ・ウイルソン大司教も、性的虐待事件の隠蔽で有罪になっている。また、「司祭が告解で聴聞した中身の公開禁止を、児童の性的虐待に関係する告解の内容に限って解除するよう、司祭に求める事ができる」とする法律の制定も検討され、全国で議論になっているが、「提案された法律案は、一言で言えば貧しい公共政策」で、それによって子供たちが一層安全になることがないだけでなく、信教の自由の権利を損なうものだ、と指摘した。大司教によれば、「教会の血を渇望する」動きがあり、「カトリック教会を罰したい、有罪なのはカトリック教会だと見せたい欲求がある」が、それでも、告解の内容の秘匿義務を破ることが現在の問題の答えにならず、「問題を作り出し、誰の助けにもならない」との見方を示した。

 性的虐待が明るみ出て教会に対して怒りが突き付けられているのは、オーストラリアに限ったことではない。世界中の多くの地域でも、チリや、アイルランドを含めて、起きている。教皇フランシスコは8月に、世界家庭集会に出席のためアイルランドを訪問するが、同国では、憲法から堕胎禁止の条項を除くことが国民投票で決まったばかりだ。

 「カトリック教会は、深い不信の中にいる」とするゾルナー所長は「可能な限り首尾一貫した、可能な限り公明正大な対応をする以外に、さらなる性的虐待を避ける道はない」と語る。

 だが、幼児性愛者のフェルナンド・カラディマ神父などの数多くの性的虐待を多くの司教ぐるみで20年にわたって隠蔽し続けてきたあげくに、全司教が教皇に辞任を申し出たチリの場合は違う、とクラリッジ大司教は言う。「適切な対応がずっと遅れていた」。だが、力のない人々に発言の場を提供することは、事態を前に進めるために欠かすことができない、とも大司教は語る。「子供たち、か弱い者たち、神学校でも、修道院でも、声を上げ、それが聞き入れられるようにすることが、極めて重要だ」と。

(「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載します。

 

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2018年6月24日