・命を守るのはキリストの弟子としての使命-妊娠中絶合法化・国民投票可決でアイルランド教会

(2018.5.27 Crux 

  アイルランドの国民投票で26日、妊娠中絶の合法化が多数を占る結果が出たが、これを受けて、同国のカトリック教会の指導的立場にある大司教二人が27日会見し、教皇フランシスコから授かった”キリストの弟子として使命”(マタイ福音書28章19節三章)に沿った「命をつなぐ目」をしっかりと持ち続けるように、信徒たちに求めた。

 北アイルランド・アーマー教区長のエイモン・マーチン大司教は三位一体の祝日の27日、アイルランド南東部、クノックの聖母出現の聖堂で記念ミサを捧げ、その中の説教で、教皇フランシスコの使徒的勧告「福音の喜び」を取り上げ、「宣教とカギとなる司牧は、『自分たちはいつもこうやっている』というような自己満足の態度を捨てることにあります-福音を伝えることに勇敢で、創造的であるように一人ひとりを招いているのです」と教皇の言葉を引用した。

そして、「金曜日の国民投票の結果は、私たちがアイルランドの新たらしい時代、変化した文化の中に生きていることを、改めて示しています」と述べ、「カトリック教会にとって、それはまさに、宣教の時、新たな福音宣教の時なのです」と強調した。

 国民投票では、投票総数の66パーセントを上回る有権者が人工妊娠中絶の合法化を支持した。このことは、この国におけるカトリック教会の影響力が消滅しつつあるサインだ、とする見方が広まっている。

 マーチン大司教は「国民投票で反対票を投じた方々と同じように、私は、アイルランド憲法から胎児の生きる権利を消し去る選択がされたことを、深く悲んでいます。この国は、妊娠中絶の自由化が立法化される背戸際に置かれることになったのです」「私が強く懸念するのは、この投票結果が『すべての人間の命が平等である』『生まれてからも、生まれる前も、すべての人間には生来の価値と尊厳がある』という社会の基本原則を阻害しかねない意味を持つことです」と指摘した。

 だが、この結果を見て、私たちカトリック教徒は意気消沈することがあってはならず、「今こそ私たちが活動する時、信じる時。福音を伝え、福音の真実を教える、私たちの時なのです」と訴え、教皇フランシスコの最新の使徒的勧告「 Gaudete et Exsultate」から引用して、人の命の聖性を説き続けるように、会衆に強く求めた。「罪のない胎児を守るために、明確な、強い、そして熱烈な意思を持たねばなりません。危機に瀕しているのは人の命の尊厳、それは常に聖なるものであり、成長にいかなる段階においても、互いに対する愛を求めています」。

 教皇フランシスコは、今年8月に、家庭のための世界大会出席のため、アイルランドを訪問するが、今回の国民投票の結果は、訪問を通じて大きな関心事項となるとみられる。

 27日にアイルランド中東部、メイヌースの聖パトリック神学校で助祭叙階式を主催したタブリン教区長のディルムッド・マーチン大司教も、説教の中で教皇フランシスコの著作から引用して、堕胎への反対も含む「pro-life(生命尊重)派」であることの意味に注意を促すとともに、さらにその先に話しを進めた。

 大司教は「私たちがイエスの真の弟子たちとして生きることのできる唯一の道は、愛において彼に応え、どこにいても愛の風土を創ることにあります」「国民投票を結果が出た後、アイルランドの教会は、命を支持する決意を新たにしなければならない。教会は『pro-life』であること-言葉、声明、宣言だけではなく、行いにおいて『pro-life』であるこ-が求められています。成長のあらゆる段階での人間の命に対するイエスの愛を込めたいたわりを映した教会であることが必要です」と述べ、さらに「愛を込めたいたわりには、大きな課題に直面し、出産という困難な選択に迫られる女性たちを助けるための支援も含まれます」と説明。

 さらに「『Pro-life 』は暴力で命が脅かされている人に寄り添うこと、経済的な困窮、ホームレス、社会から無視された状態に置かれ、まともな暮らしができなくなっている人に寄り添うことを意味します。私たちのすべての暮らしの中で貧しい人々への特別な愛-イエスに従う人のしるし-を、徹底的に見つめなおすことも意味するのです」と述べ、「明日の教会を作り直すことは、その起源の根本的な再発見にあります」と強調した。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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アイルランド中絶容認 賛成派が66・4%で勝利

 有権者数は約336万人。投票率は64・1%で、国内40選挙区のうち北部の1選挙区を除いて全域で賛成が上回った。

 バラッカー氏は「静かな革命が起きた。アイルランドの歴史的な日となった」と声明を発表、「(中絶のために)女性が1人で海外に行くことも、恥と思うことも、孤独を感じることもない」と述べた。選挙戦では国内で女性が医師の指導や処置を受けられる環境づくりが重要だと訴えた。

 公共放送RTEによると、中絶を容認する法案は最終的には議会の承認が必要となるが、主要政党の党首は賛成を支持しており反発は少ないとみられる。

 カトリック教徒が多数を占め西欧で最も保守的とされるアイルランドでは、1995年の国民投票で離婚を、2015年の国民投票では同性婚を合法化。昨年6月に同性愛者を公言するバラッカー氏が首相に就任するなど、近年は社会の変化が急速に進んでいる。

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2018年5月28日