・世界銀行が警告「最貧国の雇用問題、かつてなく深刻に」

(2019.3.8 世界銀行 Eニュース)

 西尾昭彦 世界銀行開発金融総局担当副総裁

 世界では、最貧国を中心に、今後10年間で約6億人分の雇用が必要になると予測されています。 南アジア地域だけを見ても、人口動態の変化に伴い毎年1,300万人分以上の雇用を創出する必要があります。サブサハラ・アフリカに至ってはさらに深刻です。人口は南アジアより少ないのに、毎年1,500万人分もの雇用創出が必要になると見られています。

 雇用は、将来だけでなく、いま現在にも関わる問題でもあることから、状況は一層複雑です。貧しい国々では多くの人々が、仕事には就いていても税金を納めておらず、規制のない非正規部門で、低賃金かつ生産性の低い仕事から脱け出せずにいます。 さらに、都市化の流れが進む中、膨大な数の人々が移り住んだ先で新たな仕事を探していますが、質の高い有償の仕事を見つけることができずにいます。市場が求めるスキルを備えていないことがその原因のひとつに挙げられますが、その結果、多くの人が経済に参画できないまま取り残され、自国の成長に貢献できずにいます。

 生産的で意義のある仕事を急増する労働力人口に見合うだけ創出するには、経済成長と共に経済の変革が不可欠です。生産性の低い活動から高い活動への労働者の移行を活気ある民間セクターが主導し、公共政策が支えていく必要があります。経済の変革を加速させるため、各国は充実したインフラとバリューチェーンを通じて各市場との結びつきを確保すると共に、労働者のスキルや企業の能力を構築し、民間投資を促進する環境を整備することが求められます。そしてこの変革は、女性、若者、そして不利な立場にある人々等、誰も取りこぼすことなく、すべての人々に機会をもたらすものでなければなりません。

 世界銀行グループの基金で最貧国を支援する国際開発協会(IDA)は、雇用創出に向けた各国の取組みを支援しています。事実、IDA第18次増資(IDA18:2020年半ばまでの3年間が対象)では、雇用創出と経済の変革を重点課題に掲げ、雇用創出に着目した革新的プロジェクトへの資金提供、様々な金融商品の活用と徹底した分析、雇用がもたらすインパクトを評価・測定する新たなツールの導入を進めています。

 IDA18は、インフラ、グローバル・バリューチェーン、域内統合及びテクノロジーの構築に取り組むプロジェクトを支援しています。 例えば西アフリカでは、数百万の事業や家庭に電力を届けるため、サヘル地域の太陽光発電といった西アフリカ電力系統への支援を通じて、基幹インフラ提供による域内の電力取引を促進しています。コートジボワールでは、自作農をグローバル市場に結び付ける他、農業生産性の向上、雇用創出を支援しています。さらにケニアでは、中小企業の革新性と生産性を高めるため、労働者と企業のキャパシティ・ビルディングを行っています。

 IDA18はまた、経済の変革を実現するための環境改善にも取り組んでいます。 エチオピアの規制改革とインフラ開発に対するIDA18の支援は、投資環境の改善と共に、政府による野心的な改革プログラムに充てられています。バングラデシュでは、雇用に着目した開発政策支援により、貿易と投資環境の改善に向けた改革の実施、労働者保護の強化、女性や若者の雇用機会の改善を支援しています。

 IDAは、民間セクターを雇用と経済的変革の中心と考えており、世界銀行グループの機関で新興市場への海外直接投資の促進に取り組む国際金融公社(IFC)と多数国間投資保証機関(MIGA)と連携を図っています。IDAの民間セクター・ウィンドウ (PSW)は、脆弱国を中心に13件のプロジェクトに1億8,500万ドルをコミットしています。IDAによる支援は、IFC及びMIGAからの6億ドルの支援を可能にした他、民間投資家から8億ドルに上る資金動員に貢献しました。PSWは、融資対象から外れた中小企業(SMEs)に銀行融資を行う際のリスク共有ファシリティや、SMEへの出資、現地通貨での解決策の提供等、画期的な手法を用いてSMEを支援しています。

 さらにIDAは、デジタル・テクノロジーが持つ大きな可能性を認識しており、世界銀行グループの「デジタル・ムーンショット・フォー・アフリカ」イニシアティブを支援しています。これは、2030年までにアフリカのすべての人、企業、政府がデジタル技術を使いこなせるようにするという野心的なイニシアティブです。我々は、官民のパートナーとも協力し、デジタル・インフラ、スキル、プラットフォーム、金融サービスと起業家精神を土台としたデジタル経済の基盤構築に取り組んでいます。

 IDAは、人への投資、つまり各国の人的資本構築に支援を行っています。そのために、雇用と経済的変革という課題の基盤である健康、教育、社会保護制度の構築に力を注いでいます。

 我々の分析では、IDA対象国には共通した課題が存在します。投資と雇用は都市部という一部の範囲に集中してしまっており、全体的な地域開発には支援の必要な場所が多々残されています。例えば、女性や障害者、その他の不利な立場にあるグループを含め、人口の大半は経済活動に参加できていません。 こうした中、IDAは、女性の就労、地域貿易・域内統合、気候変動に対応した都市化とインフラ、ガバナンスの改善、移住等、雇用関連の課題に取り組んでいます。

 雇用と経済の変革は複雑な課題であり、求められる成果を実現するには長期的かつ継続的なコミットメントが不可欠です。 我々は、IDA18を通じて状況を好転させる努力を進める中、2021~23年を対象期間とするIDA19 を見据え、いかにして現在の取組みを最善な形で継続していくかについて検討を始めています。

 その一環として、2019年3月5日、アジスアベバにおいて、国連アフリカ経済委員会(UNECA)と共に、政策立案者や実務者との会議を開き、各国の取り組みや新たに浮上した優先課題について議論を行います。国や地域のリーダーとのパートナーシップを強化しこの課題に連携して立ち向かうことにより、長く続く経済開発に対する集合的インパクトが拡大していきます。

 雇用をめぐる今後10年間の試練は明確かつ極めて大きく、これまでになく大きく将来を左右することになります。 試練を乗り越えることができれば、数億人に質の高い生産的な雇用を創出することができ、各国の今後の経済状況は明るいものとなり、人々が貧困から脱却するための機会を提供することになるでしょう。IDAは実現に向けて全力で取り組んでいきます。

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2019年3月8日