・ノートルダム大聖堂火災で鉛400トンが漏出-復興に環境汚染、住民健康被害の影(Crux)


( 2019.8.8 Crux National Correspondent Christopher White

 大聖堂の大火災後に出てきた大きな問題の一つが、15時間にわたる火災で焼け落ちた尖塔と屋根に使われていた有毒な鉛を含んだ煙が大気などに大量に拡散し環境汚染していること、汚染した瓦礫をいかに処理するかである。

 今週初め、パリの保健当局が発表したところによると、鎮火後の健康被害の可能性について広報したのを受けて、申告のあった児童1名の健康状態を経過観察している。火災によって、大聖堂からは400トンを超える鉛が大気中に漏出したとされており、同日までに、近隣の学校の200名近くの児童生徒が検査を受けており、原因が大聖堂火災にあるのかどうかはまだ不明としているものの、6人の児童の体から、血液1リットル当たり25から50マイクログラムの鉛が検出、50マイクログラムを超える鉛が検出された児童もいる。

 火災があった4月15日以来、大聖堂の側になる二つの幼稚園と小学校は、鉛による環境汚染の有無を調査する当局の判断で結果が出るまで閉鎖、他の近隣地域には洗浄措置が行われている。当局は、あくまで万が一に備えての対応としている。

 こうした事態への対応として、大聖堂全体を覆いで封じ込めるべきだ、との意見も出ていたが、市当局は今週初め、その提案を却下した。”美観”ではなく”物理的”な理由からだという。

 封じ込めを支持する地元の労働組合の申し入れに対して、パリのエマヌエル・グレゴワール副市長は6日、フランスのテレビ局の取材に「提案に反対ではないが、実現可能がどうかの問題があります。灰燼の大気への放出を止めるために大聖堂全体を”封印”するのは、技術的にも、財政的にも極めて複雑な判断が必要になる」と説明した。

 米国の疾病管理センターは「特に6歳以下の幼児は鉛の毒性に侵される危険が高い。鉛汚染した手で口やその他の部位をさわるからです」とし、鉛を含んだ塗料の破片、粉塵、土壌などから、(注:ガンの発生や生殖器官、消化器、腎臓、心血管に疾患などの)被害を受ける可能性がある、と警告している。

 世界保健機関は「身体に安全だとされる鉛被害の程度というものは分かっていない」という。フランスのある環境保護団体は先月、「人命を危険にさらし、迅速な対応を取ってこなかった」として、パリ市当局を訴えた。

 復興事業について、マクロン大統領に判断の権限があるが、新法に基づいて設置される委員会が大きな影響力を持つことになる。委員会のメンバーには大聖堂の上位聖職者や司教代理が、パリ大司教の推薦で選ばれることになっている。

 マクロン大統領は、大聖堂の復興はパリ市が主宰する2024年のオリンピックをまでに完了する、と言明しているが、事業を担当する専門家は、完全復興までにはもっと時間が必要だろう、としている。

 世界から集まっている復興支援金は、現時点で個人、企業、団体から9億ドルの確約が寄せられている。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2019年8月9日