・聖職者による性的虐待は教会相手の「歴史的な裁判になる」とチリ検察当局(CRUX)

 

(2018.7.31 Crux Vatican Correspondent  Inés San Martín)

 ローマ発―チリの教会全体の問題に発展している聖職者による性的虐待・隠ぺい事件の捜査を指揮している検察官が7月29日付けのスペインの新聞El Paísとのインタビューで、性的虐待の証拠を隠ぺいしたり、過小にしようとしたカトリック教会を相手取って「歴史的な裁判」に持ち込む、との方針を明らかにした。

 インタビューに応じたのはエミリアノ・アリアス検事で、教皇フランシスコが5月にチリの司教団に送った書簡の中で「証拠を破壊した聖職者がいることを私たちは知っている」と述べていたことも確認、捜査当局に協力しないというチリの教会の姿勢を「聖堂の地下に、報告されていない『いくつもの死体』を隠している」ようだ、と批判した。

 「性的虐待危機」がチリを揺るがしている。同国の検察当局は先週、2000年に捜査を始めて以来の、司教、司祭、修道士、修道女、一般信徒など指導的立場にある教会関係者158人について事情聴取した捜査記録を保有していることを明らかにした。

 それによると、性的虐待の犠牲者は少なくとも266人に上り、うち178人が性的虐待を受けた当時、児童・幼児としているが、多くの関係者は、性的虐待のおおよそ9割は表に出されておらず、この数字は「氷山の一角」に過ぎない、と見る。チリのカトリック教会内部で明らかになっているのは、37件だが、その数は週を追って増加している。

 アリアス検事は8月21日に、首都サンチャゴの大司教でチリのカトリック教会の指導者と目されるリカルド・エザッティ枢機卿から事情聴取する予定だ。枢機卿は複数の聖職者による性的虐待を隠ぺいした疑いでこれまでも事情を聴かれており、枢機卿がサンチャゴ大司教区の前事務総長オスカル・ムニョス神父が違法な性的行為で訴えられていることを以前から承知していた、と検事は判断している。

 ムニョス神父は昨年暮れに、教会当局に幼児性的虐待をしたことがある旨、申告し、事務総長のポストから外された。その後に、神父が少なくとも自分の甥5人を含む幼児7人を性的に虐待していたことが明らかになっている。神父は、事務総長として、大司教区事務局に対する性的虐待の訴えを受理、記録する業務も担当していた。

 アリアス検事は、この数週間にわたって、国内7か所の教区の文書保管所を家宅捜査して資料を押収しており、2007年以降に出された性的虐待の訴えについて、90件の教会法に基づく調査についての情報も手にしている。「この国の聖職者が報告の義務を負っていないのは事実です。だが、捜査当局と密接に協力するとう義務を負っていないという事実を伏せて、児童・幼児に対する罪を弾劾することはできたのではないか?これでは、まるで、聖堂の地下にたくさんの死体を隠して、教会法上の調査だけをしていたようなものではありませんか」と怒りを隠さない。

 また、捜査の焦点は「このような罪を聖職者たちに重ねさせたカトリック教会の『隠ぺいの文化』」であり、それは必然的に、司教たちに向かう、としたうえで、「幼児や若者たちに対する性的虐待のすべての訴えは誰のところにいくでしょうか。司教です。彼らはそれを通して事実を知っています」と強調した。

 さらに「教会の組織・制度が機能しなかった。被害者たちに対して、十分な注意が払われず、信用されなかったから、調査は進められず、バチカンの所管官庁の教理省に報告する義務も果たされなかった。教会法による裁判制度も不十分です」と指摘、「私たちはチリの聖職者たちが性的虐待の証拠を破壊したことを知っています」と述べた。

 彼は、教皇フランシスコが、5月31日にチリの信徒たちに宛てた手紙によって「性的虐待の隠ぺいに対する捜査の道を開いた」ことも強調した。過去6か月の間に、教皇は、悪名高い幼児性愛者を匿ったとして訴えられたチリの司教たちの弁護者から、そうしたことの自身の過ちを詫びる姿勢に大きく変わった。中心人物のホアン・バロス司教が絡んだ案件を調べるために調査団を現地に送り、彼らから60人以上の関係者を聴取した2300ページに上る報告書を受けた。「教皇が送られた書簡は絶大な効果を持ってた。我が国のトップが、チリ国民の中に隠ぺいと性的虐待の文化をもつ者がいる、とあからさまに言いましたから」。そして、ランガグアとサンチャゴの教区事務局を家宅捜査した結果、アリアス検事はムニョスを逮捕できた。

 また彼は「我々は、歴史的な裁判に持ち込もうとしている。その場で、チリにおける聖職者の年少者に対する性的虐待のかなりの件数は、司教たちが注意深く調べ、対応していれば防げた、ということを立証するのは可能だ」とし、被害者が勇気をもってさらに名乗り出てくれるように訴えた。

 検察当局が捜査中の多くの案件を公表したのを受けて、チリの司教団は臨時総会の招集を決めた。開催は今週中になる模様で、現在の危機について話し合い、性的虐待の被害者も、証言を得るために招いている。先週、司教団が発表した声明によると、臨時総会では「現在の教会の危機の理由と原因を分析し、全国レベルでの対応を明確にし、教区レベルの具体的な対応が話し合われる」としている。チリ司教協議会の事務総長、フェルナンド・ラモス司教は「教会が生きている特別の時」に当たって集まりを持ち、教皇が書簡を司教団に送られたのを受けて、高位聖職者たちは「教皇が我々に課せられ、我々自身も取り組もうとしている課題について識別する方策を描いている」とも述べた。

 教皇は5月31日の書簡で「聖職者による性的虐待の被害者の声を私たちが聴かなかった」ことを、そして、結果として、「速やかな対応しなかった」ことを、深く恥じている、と自ら反省し、カトリック教会はこの問題に対処するため、外部の力を借りる必要がある、と述べ、「この問題を自分たちの力と手段だけで解決するように装うことは、自分たち自身を危険な展開の中に取り込めてしまい、短期間に消滅してしまうでしょう」と警告。

 さらに「私たちが助けてもらうことを受け入れましょう。性的虐待の文化が続くような場所がない社会を作るのを助けましょう」「透明性を確保して、戦略的に、いたわりと保護の文化」を推進するように、キリスト教徒一人ひとりが合わせることを強く求めた。

 そして、「私たちの主な欠点と怠慢の一つは、被害者の声をどの様に聴くかを知らないことです」「このような理由のために、健全で明確な識別の重要な要素を欠いたまま、部分的な結論が作り上げられてしまいました」と批判した。性的虐待と隠ぺいの文化を続けることは「絶対にあってはなりません」としたうえで、「私たちが互いに関わりを持ち、祈り、考え、権威をもって生活する道を生むいたわりの文化を作るために全力を傾けましょう」と教皇は呼びかけている。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。

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2018年8月1日