・「米国で性的虐待を訴えられた聖職者50人以上が海外で活動」-この問題も解消めど立たず(CRUX)

(2020.3.9 Crux

 ニューヨーク発ー米国で性的虐待の疑いを持たれた司祭の50人以上が、海外で未成年者と関わる仕事を含めた宣教活動を続けている…。新型コロナウイルスの感染拡大の先行きはいまだに不透明だが、世界中に拡大している聖職者による未成年者性的虐待問題も解決のめどが立たないようだ。

 米国の非営利・独立系の調査報道機関ProPublicaと有力日刊紙Houston Chronicleが先週、共同発表した調査結果で明らかにしたもので、米国で性的虐待をしたとして訴えられた司祭約6000人の全米52の司教区の資料を分析・追跡調査した結果、ナイジェリア、アイルランド、フィリピン、メキシコなど、米国以外で新たな司牧に就いている司祭が51人に上っていることが分かった、という。また、問題司祭のうち40人はテキサス州を含む米国南部、メキシコとの国境沿いで司牧に当たっていた者で、訴えを受けた後、少なくとも21人がメキシコでの司牧を再開している。

 ProPublicaは、2018年にペンシルバニア州大陪審が「過去70年間に300人以上の司祭が1,000人以上に性的虐待をしていた」との内容の調査結果を発表して以来、これをもとに分析・追跡調査を進めてきた。「全米で、これまでに5,800人を超える問題聖職者の実名が公表され、これまでの聖職者による虐待を否定、隠ぺいして教会の長い歴史から、透明性に向けた最も包括的な一歩が記されている」 と述べている。

 だが、ペンシルバニア州大陪審が報告書を発表したのを受けて、数多くの教区が急いで自らの調査報告を公けにしたものの、その多くが不正確さや不完全さを、問題司祭たちが国外で司牧を続けるのを許されたのかどうか明記していないことも含めて、批判されてきた。今回の調査結果は、米国の多数の教区が、問題聖職者の公的名簿を公表する一方で、9000万人のカトリック信徒がいる隣国メキシコの教区は公表をしていない、と指摘している。

 先週、メキシコの司教協議会は、自国の聖職者の性的虐待危機に対処するために予定されていたバチカンからの代表派遣が、延期された、と発表した。延期の理由は公式説明では、「新型コロナウイルスのイタリアにおける感染の急拡大」だが、複数の関係者の間には、一昨年のチリへの派遣でカトリック教会の長年にわたる虐待と隠ぺいを明るみに出した”実績”をもつチャールズ・シクルナ大司教らの受け入れに、メキシコ側が難色を示した、との見方が出ている。

 また今回の調査結果は、メキシコで司牧活動を続けた問題司祭のうち、「性的虐待で訴えられた後も、簡単に国境を行き来し、教会によって”治療”に出された後も、新しいポストを確保した者がいる。他の者たちは、何十年も前に国境の南の教会に落ち着き、米国での訴追制限の期限が切れた段階で、説教と幼児の祝福をしている」と指摘した。

 1月にProPublicaがこの調査結果について最初の報道をした際、性的虐待の被害者の一部と監視団体は、訴えを受けている聖職者の世界規模のデータベース、とくに、海外で宣教する司祭ち、世界各国を頻繁に訪れる修道会司祭たちの動きを明らかにするものを作成するように、教会関係者に求めている。。

 当時、「司教の説明責任を求める会」代表のテレンス・マッキーナン氏は、Cruxの取材に対して、「現存するリストの多くは不完全であり、聖職者たちのこれまでの足取りも含めて、改善する必要がある」と語り、「理想と現実にはいくつものギャップがあります。ProPublicaが行ったことは、そうしたギャップを埋めるために、教区に強い圧力をかけることになる」と期待している。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2020年3月10日