・「中南米に聖職者による未成年性的虐待の”第三の波”」-児童権利保護団体が警告(Crux)

(2019.11.22 Crux Managing Editor Charles Collins)

 ロンドンに拠点を置くChildren Rights International Network(CRIN)は20日、報告書を発表し、「聖職者による性的虐待スキャンダルの『第三の波』がラテンアメリカを襲っている」と警告した。

 報告書は「第三の波:ラテンアメリカのカトリック教会における児童性的虐待の生存者のための正義」と題し、ラテンアメリカのすべての国、および子どもの性犯罪に関する国内法が子どもを適切に保護しているかどうかを精査し、この地域のカトリック教会が危機の程度を隠そうとし続けていることを示す証拠を挙げている。

 この報告書では、聖職者の性的虐待スキャンダルの最初の波はアイルランドと北米で起こり、第二の波はオセアニアと欧州大陸陸ヨーロッパで発生、その「波」が今、ラテンアメリカに及んでいる、といい、CRINの法務、政策責任者のレオ・ラットレッジ氏は「現在、特にカトリック信徒が多数を占める国の多くで、子供の性的虐待に対する教会の説明責任を求める声が高まっている」と述べた。

 報告書によると、ラテンアメリカのカトリック教会は、過去20年間に問題となった米国の教会がしてきたように、性的虐待の被害の訴えと数々の事案を、組織的に抑圧しようとしている。そうした行為には、性的虐待を働いた司祭を他の教区、他の国に異動させることも含まれる。そして今も続けられているのは、被害者とその家族に対して「虐待の事実を表に出さないことを条件に、内密に金を払ってもみ消す」「責任を押し付け、信用を失墜させる」「警察や裁判所に訴えたりしないように、心理的に圧迫する」、そして、新聞、テレビなどメディアに対して「虐待事件を報道しないようにメディアに圧力をかける」などの行為だ。

 聖職者による性的虐待は、ラテンアメリカ地域で広範に認識されているが、とくに、悪名が高いのはチリーオソルノ教区のフアン・バロス司教のケースだ。彼は、同国最悪の未成年性的虐待犯である元神父、フェルナンド・カラディマの犯罪行為を隠蔽したとして訴えられている。この醜聞は、バロスがオソルノ教区長に任命されたことに被害者が抗議の声を上げたことで、マスコミの注目を浴び、昨年1月に教皇フランシスコがこの国を訪問した際にも大きな問題になった。

 ラトレッジ氏は「聖職者に性的虐待された被害者の政府・議会への働きかけが、ラテンアメリカ各国政府に、制度の改革を待つことなく、聖職者の児童への性的虐待そのものとカトリック教会による組織的隠ぺいへの対処を急がせる圧力になっています」と説明している。

 また報告書は、ブラジル、キューバ、エクアドル、ホンジュラスなどの国では聖職者の性的虐待の事例がわずかしか明らかにされておらず、また、アルゼンチン、コスタリカ、パラグアイでは「調査ジャーナリズム」が機能していなかったことも、性的虐待とその隠ぺいが事実上放置される一因だとし、「性的虐待がメディアで取り上げられると、当局に被害を訴える人が増えている」とマスコミの役割の重要さを指摘している。

 「被害が表沙汰にされることで、聖職者の児童性的虐待に関してだけでなく、カトリック教会に関する人々が持っていた諸々のタブーを打ち砕かれ始めている。被害者の集まりが出来、”評判”が損なわれることのなかった教会関係の機関に対しての、被害者救済キャンペーンが始められた。国のレベルで最も活発なのは、『アルゼンチンとチリの聖職者による性的虐待の被害者ネットワーク』で、教会で性的に虐待された人々に助言と支援を行い、各国政府に対して、教会が説明責任を果たし、被害者が司法当局に訴えやすくするための具体的な措置をとるように働きかけを行っている」と報告書は説明している。

 66ページのこの報告書では、この他に、次のような問題を指摘している。

 *聖職者による児童性的虐待に関する公式データは、ラテンアメリカの大半の国に存在しない。利用可能な統計は、ブラジル、グアテマラ、メキシコ、ウルグアイの教会が発表したものだけだ。

 *この地域での聖職者による児童性的虐待は2002年に明らかになり、アルゼンチン、ボリビア、チリ、コロンビアでは表面化した事案が2017年以降、急激に増加した。しかし、世界の他の地域に比べると、明らかになった件数はまだ少ない。調査したすべての国で、性的虐待をした司祭の有罪判決がでているが、明らかにされるのはまれだ。

 *調査対象のラテンアメリカ19か国のうち、児童の性的虐待の制限に関する法律を廃止したのは、6か国に過ぎない。司法権が及ぶ10の分野で、時効は子供たちが18歳になるまで働かない。これらの国のうち、三つの国では、被害の訴えがあるまで時効は開始されない。

 *ラテンアメリカの大半の国では、児童に対する(売春などによる)性的搾取と性的虐待を犯罪としている。だが、状況次第で子供たちに不公平な保護をしている国もある。例えば、10代のレイプ被害者は、相手を罪に問うために暴力や脅しがあったことを立証しなければならないが、10歳未満の場合は、その必要がない。また、加害者が、被害者と結婚した場合、訴追を回避できる国もある。

 *アルゼンチン、メキシコ、ペルーの刑法は、権力の地位の濫用を、有罪の要件、あるいは刑を重くする根拠としている。これらの国の法律では「聖職者」あるいは「児童と宗教的な関係を持っていること」を例示している。

 報告書は、地域の教会に説明責任を果たさせるのに有用な措置を提言している。それは、カトリック教会における児童性虐待に対する調査を公的なものとして、国が支援することだ。「ラテンアメリカの国では、欧州、北米、およびオセアニアのいくつかの国のように、聖職者による性的虐待について公的な調査を行っていない。調査によって、被害の実態が把握できる」と強調し、児童保護の法律や政策、慣行を改善するための機関の措置を設け、虐待被害者への補償とカウンセリングを提供する救済制度の創設につなげる必要がある、と指摘。

 そして、ラテンアメリカの国々は、このような取り組みと無縁ではない。独裁政権が猛威を振るった1970年代、’80年代、  90年代に起きた人権蹂躙を調査する委員会が作られ、問題に取り組んだ実績がある。「これらの調査委員会は、児童虐待に関するものとは非常に異なる文脈で登場したが、大規模で体系的な人権侵害に対応するツールとして使用されており、真実を明らかにし、説明責任を果たし、被害を補償する、という目的において変わることがない」としている。

 この報告書について、国連子どもの権利委員会の元副議長で、国際的な被害者組織「聖職者による性的虐待を終わらせる-グローバル正義プロジェクト」の創設メンバーであるエクアドルのサラ・オビエド氏は「『カトリック教会に対して、性犯罪者を司法当局に引き渡させ、隠蔽を続けた責任をとらせ、性的虐待の被害者の権利を支持するようにする』という、私たちがこれまで数限りなく訴えてきた目標の達成にとても役立つ内容です」と評価している。

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2019年11月23日