・「ミラノ大司教も聖職者の性的虐待を隠ぺい」と被害者たちが訴え(Crux)

(2018.10.3 Crux Author  John L. Allen Jr. and Ines San Martin)

Survivors group charges Milan archbishop with abuse cover-up

Mario Enrico Delpini, named by Pope Francis on July 7 as the new Archbishop of Milan. (Credit: Radiolombardia.)

 イタリアで「 Rete L’Abuso(性的虐待ネットワーク)」として知られるこのグループは、2日の記者会見で、現在ミラノの大司教を務めるマリオ・エンリコ・デルフィーニと訴えることに手加減を加えることはなかった。訴えによれば、デルフィーニがミラノ教区の補佐司教で教区事務総長としてアンジェロ・スコーラ枢機卿の補佐役を務めていた際、性的虐待で有罪となった一人の司祭を隠ぺいした、というものだ。

 デルフィーニは、教区の司祭から、『マウロ・ガリ神父に夜間、彼の居宅で性的虐待を受けた』と被害者の若者から聞いた旨の報告を受けていた。2014年にガリが検察当局から起訴された際の供述で、デルフィーニは、自分がその報告を受けた後、ガリを問題を起こした小教区から他の小教区に移したことを認め、「移動を決めた時に、ガリに若者たちを司牧する責任があることを知っていたか」との審問者の問いに、デルフィーニは「知っていました」と認めた。

 2014年10月24日に行われた審問の記録はRete L’Abusoが入手可能になった。それによると、デルフィーニは問題の神父と電話で話した後、「彼を新たなポストに移すことを決めました。レグナノの小教区に移動させました」と述べている。この供述書にはデルフィーニと警察の捜査担当者が署名している。

 Rete L’Abusoのフランチェスコ・ザナルディ会長は2日、ローマの外人記者クラブで行われた記者会見で、ガリの不適切な行為について、(聖職者の性的虐待問題を扱う)教理省に手紙を送ったのを含めて、何度かバチカンに報告したが、「それにもかかわらず、教皇フランシスコは2017年7月に(性的虐待の事実を隠蔽した)デルフィーニをミラノ大司教に任命したのです」と訴えた。

 ガリの性的虐待の被害者の1人は記者会見に出席した。ガリは2017年9月にイタリアの裁判所で、性的虐待の罪で6年4か月の有罪判決受けている。

 記者会見で、Rete L’Abusoは「被害者たちとその家族たちは、デルフィーニ大司教に対して、筋の通った態度をとり、チリの司教団に倣うよう求め、教皇に対して、彼の辞任を認めるよう願う」との声明を発表した。教皇は3月にチリの司教全員をローマに召喚して、チリ全土に及ぶ聖職者による性的虐待と隠ぺいへの対処を話し合い、それを受けて、司教全員が教皇に辞表を出している。

 2日の会見は、チリの首都サンチャゴに本部を置く性的虐待被害者たちの世界的なネットワーク「Ending Clergy Abuse (ECA)」(18カ国の被害者たちが1月の教皇の訪問の際に設立された)がスポンサーとなって行われたもので、ECA代表は「会見は、聖職者の性的虐待と隠ぺいがイタリアでも起きていることを明確に示すのが狙いです。この問題によって北米、中欧その他の地域で深刻な危機に陥っているのに、この伝統的なカトリック国ではいまだにこの問題が明るみに出ていなかった」と説明。ドイツの性的虐待阻止グループの創設者でECAの設立発起人の1人でもあるマティアス・カッシュも「私たちはイタリアの友人たちを支援していきます。この国では、危機が明るみに出ておらず、私たちは、この問題を表に出したいのです」と語った。

 ザナルディ会長はまた、イタリアのメディアに見られる無関心と聖職者性的虐待に関する記事執筆・掲載の”自己規制”を批判、「この記者会見にも、イタリアのメディアは二つしか参加していない」と嘆いた。また、イタリアでは過去15年間で性的虐待を犯したとして訴えられたケースが、少なくとも300件に上っており、多くの聖職者は何度も性的虐待を働いていることから、被害者の数は、これよりももっと多い、と思われると説明した。

 デルフィーニに関わる問題は、「イタリアにおける”ビガーノ”事件(前駐米大使のカルロ・マリア・ビガーノ大司教が「教皇は米国の前枢機卿セオドール・マカリックによる性的虐待行為で訴えられていることを知りながら、何の行動もとらなかった」と告発、辞任を迫ったこと)」とRete L’Abusoが判断する4つのケースの一つだという。

 他の3件は、①バチカンの敷地内にある聖ピオ10世前期神学校で、少年1人が性的虐待を受けた②ベローナのアントニオ・プロボロ聾学校で、被害者のグループが2014年にバチカンで教皇に謁見した際、過去何十年にもわたって行われた性的虐待についての詳細を書いた手紙を手渡した。教皇の出身国、アルゼンチンのメンドーザの聾学校に派遣されたイタリア人神父が2016年11月に性的虐待を犯した容疑で逮捕されている③ナポリの南部教区のシルベリオ・ムーラ神父は、性的虐待の訴えを受けていたにもかかわらず、他の教会に移動されただけだった。Rete L’Abusoは今年初め、この神父がパビアに移され、そこでシルベリオ・アヴェルサーノと名前を変えていることを知った。ムーラの被害者の1人は教皇に会い、その問題を伝えたが、問題の神父はまたいなくなったーというものだ。

 ザナルディ会長は、性的虐待のスキャンダルに関して教皇フランシスコがどの様に対応してきたかをすべて明らかにするよう求め、教皇に批判的だが、一方で教皇に同情も示す。「彼は何が起きているかを理解しようと努めている80歳を超えたお年寄りです。彼は善意の人。これまで固まって来た教会を動かそうと沢山のことをされています。でも、性的虐待問題が現在のカトリック教会にとって、ある一つの問題ではなく、大きな問題だ、ということを教皇が分かっている、とは思いません」と語る。

 会長はこの事態を赦そうとは思わない。性的虐待問題に関してこれまで教皇がやってきたことは「劇的で悲惨なものです」「彼の『zero tolerance(いかなる違反も許さない)』という方針は紙の上だけ、テレビカメラ向けのものでしかありません」と手厳しい。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載します。

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2018年10月4日