・米国の有力人権団体が米政府に対中国制裁を要請、バチカンの”暫定合意”を批判(Crux)

 ワシントン発ー米国の国際信教の自由・米国委員会(USCIRF)が1日、世界の信教の自由侵害状況に関する第20回年次報告書を発表し、信教の自由と人権を著しく侵害している国として、中国を強く非難した。 USCIRFは超党派の米連邦政府委員会で、提言は大統領、国務長官、米連邦議会に提出され、米国の対外政策に大きな影響力をもつ。

 報告書は「チベット人は、母国語のチベット語でない言葉で仏教を学ぶことを強制され、あるいは、自分たちの霊的指導者であるダライ・ラマの写真を持っていることで拘留されている。キリスト教徒はその聖書が中国政府によって書き換えられ、自分の教会は閉鎖、あるいは破壊され、司牧者は投獄されている」。さらに「イスラム教徒、特にウイグル・イスラム教徒は、強制的に強制収容所に送られ、自身の意思に反して、言い表せないような虐待、拷問を受け、当局から信仰を捨てるように強要されている」と現状を指摘している。

 そして、この200ページを超える報告書は、米国と国際社会に対して、このように信教の自由を侵害されている人々を守るために、もっと強い行動をとるように要請。米国務省に対して、ミャンマー、中国、エリトリア、イラン、北朝鮮、パキスタン、サウジアラビア、スーダン、タジキスタン、トルクメニスタンの10か国を「特に懸念すべき国」と再度特定することを求め、さらに、これに、中央アフリカ共和国、ナイジェリア、ロシア、シリア、ウズベキスタン、そしてベトナムの6か国を加えることを提起している。

 さらに具体的な措置として、米国に国際信教の自由担当の大統領顧問のポストを国家安全保障会議のメンバーとして設け、米国議会下院が「国際信教の自由法」の実施状況について聴聞し、「宗教の自由の重大な侵害に絡む当事国の官僚、機関、軍の部署」を特定して制裁措置を強化することを、提言している。

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 中国に関して報告書は、「国民の信教の自由を、特にイスラム教徒に対して侵害している中国の機関に対して、米国が他国と協力して制裁措置をとるべきだ」と主張。バチカンが昨年9月に中国政府と国内の司教任命に関する暫定合意に署名したことを、バチカンが中国当局に国内の司教の任命プロセスをコントロールする手段を与え、「物議をかもしている」と批判した。

 また、「USCIRF委員のジョニー・ムーア氏の個人的見解」と断ったうえで、バチカンと中国の暫定合意は「この一年で信教の自由と関係する最も憂慮すべき出来事のひとつ」と断定。「バチカンは国であり教会だ。バチカンは今、中国に対して、国内のキリスト教共同体社会を悪意に満ちて弾圧するライセンスを与えており、問題解決の道義的、法的に重大な責任を負うことになった」とバチカンの責任を追及している。

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 米国では今年、国際信教の自由法施行20周年を迎えるが報告書はそれに先立って1日には公表することとされていた。報告書の執筆担当者たちは「自身の信仰ゆえに残酷で仮借ない扱いを受けている世代」に深い同情を表明し、「法律が施行されて20年の間、信仰を根拠とした差別、暴力、迫害に終止符を打とうとする不断の努力にもかかわらず、世界中の多数の信仰者、非信仰者が2018年に、自身の信仰ゆえに様々な苦しみを経験し続けている」と訴えた。

 報告書は、4月21日にスリランカで復活祭のミサを捧げていたカトリック信徒など250人以上が自爆テロで、さらに26日にニュージーランドで金曜礼拝に参加していたイスラム教信徒50人がテロ攻撃で、それぞれ殺害された直後の発表となった。先週には、ドイツに本部を置くカトリックの国際支援団体「Aid to the Church in Need」も、「2019年は、キリスト教徒にとって最も残忍極まる年に既になっている」とコメントをだした。

 そして、報告書は「世界中で、信教の自由のために戦っている人々は、そうした虐待を犯し、黙認する政府、非政府の責任者たちに警報を鳴らし続けねばならない」「信仰の自由の侵害者たちは公表されなければならず、罰を逃れさせるのは終わりにせねばならない」と締めくくっている。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載します。

 

 

 

 

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2019年5月2日