・トランプ政権の立役者、バノン氏がローマで会見、バチカンの中国との暫定合意を批判(Crux)

(2019.4.1 Crux   Elise Harris and John L. Allen Jr. )

 ローマ発-あなたが、教皇フランシスコの、聖職者による性的虐待危機への対応にとどまらず、共産中国と司教の指名に関する合意、大衆迎合主義と愛国主義的動きに対する連続的な批判、移民の権利への熱烈な支持、など、あらゆる分野での振る舞いに苛立ちを感じている保守派のカトリック信徒だとしよう。仮にそうであるとすると、あなたは程度の差こそあれ、トランプ政権の立役者であるスティーブ・バノン前米大統領上級顧問と同じ船に乗っていることになる。そして彼はあなたに提案がある-ユダヤ教とキリスト教の文明を守る”剣闘士”となる目的を掲げた研究所のために一年を使わないか、と。

 バノン氏が3月30日、Crux とのインタビューで明らかにしたところによると、研究所は、イタリア中部にあるシトー修道会所有の大修道院施設を使って、試験的プログラムを今秋始める。2020年に予定する正式開所の時点では約100人の学生と追加の教官をそろえる、といい、「”剣闘士”の理想は”一点張り”であるということだ。”剣闘士”は技術や身体、あるいは勇気についてのものではない。最大の特徴は、素晴らしい”一点張り”だ」と説明した。研究の狙いは、「なぜこの文明が、文化が特別なのか」「何が特別にしているのか」について教え込むことー雑音と対決的な文化の中で、その伝統的遺産を守る能力をもって、旧約聖書とそのユダヤ教のルーツ、そして律法に関するすべてから、近代に至るすべてのことまで理解するようにすること、と強調した。研究所の設立、運営資金については、今のところバノン氏の私財によるが、「何人かの優れたカトリック信徒が資金を提供してくれようとしている」という。

 

   *聖職者による性的虐待問題で破産寸前の全米のカトリック教会に必要な対応

 また、この研究所が対象とするのは、教皇の抱えている課題にただ対応するだけでなく、教皇が批判を受けている3つの分野ー聖職者による性的虐待、中国問題、大衆迎合主義への姿勢ーも扱う、とした。関連して、「アメリカの全カトリック教会は、劇的な介入を受けることなく、組織犯罪組織の規制を目的としたRICO法(米国の刑法及び刑事訴訟法の関係条項)の下で訴追され、今後10年の間に、破産管財人のもとに置かれることになり得る」と警告。

 「(教会が)涙の結末を迎えようとしているのは明白だ」とし、「当局は教会を暴徒のように扱おうとしている… RICO法は資産を速やかに差し押さえ、換金し、誰にでも与えることができる。犠牲者たちとその弁護士の努力は徒労に終わる」。そうした事態を避けるために、資格を持った一般信徒が教会に代わって資産保護の交渉を行えるような調停委員会の設置、を提唱した。「いまやほとんど破産寸前の状態だ。教会は、専門家、一般信徒、適正な評価をし、財政的に制御不能にならないように交渉などで対応できる人物を必要としている」。

 驚くべきことに、米国でもっとも極端に政治的な人物の一人(注:バノン氏)が、そうした努力は政治と関係なく行われるべきだ、と主張した。「こうした動きは、保守派、伝統主義者、ラテン語ミサを主張するカトリック信者から最も進歩派に至る幅広い層によってなされねばならない。教会の”政治”は脇に置いて、共に力を合わせ、聖職者たち、高位聖職者を助け、共に働かねばならない」と述べた。

 また、バノン氏は最近表に出た高位聖職者との個人的かかわりに触れた。それは、前枢機卿で現在は広範囲の性的虐待と不適切行為で裁かれている前司祭であるセオドア・マカリックと、ペンシルバニア州大陪審報告で性的虐待問題への対応が批判されワシントン教区長を辞任したドナルド・ワール枢機卿で、「大統領執務室に2人を連れて行ったのは私だ。ワシントン教区長の枢機卿が新任の大統領に会うのは慣例になっており、ワール枢機卿がそうだったが、マカリックと2人でトランプ大統領に会うことを希望した。私が大統領の日程にそれを入れる立場にあり、2人を執務室で大統領に合わせ、大統領が彼らにあいさつし、1時間ほど歓談した」という。

   *バチカンと中国の合意批判ー1億のカトリック信者裏切る行為、暫定合意公表せずは国際条約違反

 中国問題について、バノン氏は、教皇フランシスコが道を誤っている、と強調。「教皇と国務長官は、中国共産党と合意に署名したのだ。中国共産党は中国国民ではない… 中国共産党は習近平・国家主席とその取り巻きの過激な構造を持っている、統制を最優先する全体主義独裁体制であり、宗教の破壊を基本としている」と警告し、「この合意には、バチカンと中国共産党の完全な外交関係樹立の狙いがある-香港を、台湾を、1億人のカトリック信者を 裏切る行為だ。そのようなことはできない」と強く批判した。

 そして、昨年9月に署名された中国国内の司教たちの選任についての暫定合意の具体的内容が未だに公表されていないことに不満を表明し、「外交関係に関するウィーン条約」の署名者として、外交関係において密約を禁じた条約の規定を守る義務がある、と指摘した。

 バノン氏は、国外追放されている中国の資産家の支援を受けて、一億ドルの基金で「法の支配」を設立し、基金をバチカンが合意の全容を明らかにする求める訴訟の資金に充当することを明らかにした。「彼らは外交上の密約を禁止した国際条約の署名者だ。彼らが署名した内容を守れないのは、きわめて明白だ」と言明し、本来、「訴訟」よりも「説得」が望ましいが、(注:説得が利かないなら)裁判は、国連本部のあるニューヨークで起こすことになるだろう、と述べた。

 

   *「大衆迎合主義批判」を批判

 世界の政治における大衆迎合主義の風潮の高まりー米国のトランプからイタリアのマッテオ・サルビーニ、ブラジル新大統領のジャイール・メシアス・ボルソナーロに代表される-については、教皇は非難をやめるべきだ、と主張。「教皇と彼の取り巻きの人々がしていることは、悪い奴らだ、と決めつけることだ。こうしたことから、全ての問題が起きてくる。災難をもたらすだけだ。やめなければならないと思う」と語った。

 最後にバノン氏は、以前から、自身の前のボスであるトランプ大統領と教皇フランシスコにある共通点があると思っていた、とし、「彼とトランプは同じレベルにある… 彼は毎日、ニュースを発信し、とても世事に長けている。どのようにしたらヘッドラインを飾ることができるかを、とてもよくわきまえている。彼らはとても似ている…ミツアナグマ(注:「見かけに比べて男らしい」か?)だ。

 そしてフランシスコは「闘士だ。たくさんのことでとても感動している」と最後に高い評価を述べた。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載します。Cruxのニュースはグーグルで「Crux」と検索するとご覧になれます。

 

 

 

 

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2019年4月2日