2018年頭社説・読売vs朝日

緊張を安定に導く対北戦略を

(2018年1月1日 読売新聞朝刊)

 ◆眠っているカネは政策で動かせ◆

 70年余り続く平和と繁栄を、どう守り抜くのか。周到な戦略と、それを的確に実行する覚悟と行動力が求められる年となろう。

 北朝鮮による緊張が高まっている。広島型原爆の10倍を超える威力の核実験を行い、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射した。核の小型化と弾頭の大気圏再突入の技術があれば、米本土への核攻撃能力を手にすることになる。

 冷戦後、圧倒的な軍事力を持つ米国は、ロシアや中国との「核の均衡」を維持しつつ、世界の安全保障を主導してきた。米国を敵視する北朝鮮は、自国の独裁体制維持を目的に、安定した国際秩序を崩そうとしている。

 ◆戦後最大の「まさか」

 国連制裁と中国を含む各国の独自措置によって、北朝鮮は貿易が制限され、孤立化が進む。米国の軍事的圧力も受けている。それでも北朝鮮の暴走を止められるか、国際社会は確信を持てない。

 「すべての選択肢がテーブルにある」とする米国の軍事力に解決を委ねるのか。逆に北朝鮮が暴発するのか。一触即発の中で、偶発的な衝突もあり得よう。

 朝鮮半島全体に戦闘は広がり得る。北朝鮮の中距離弾道ミサイルが一挙に破壊されなければ、日本へ飛び火する可能性がある。戦後最大の「まさか」に対し、不安感が広がるのは、無理もない。

 脅威を「国難」と位置づける以上、日本政府の責務は重い。自衛隊と米軍の連携を深め、ミサイル防衛を着実に増強すべきだ。万一を想定し、国民や在韓邦人の避難・保護、朝鮮半島からの避難民対策に万全を期すべきである。

 言うまでもなく、目指すのは、戦火の回避と外交を通じた解決である。米国、韓国との緊密な協調の下、北朝鮮経済の生命線を握る中国を動かす手立てを粘り強く追求してもらいたい。

 北朝鮮の核戦力を一部でも残すような中途半端な決着は、将来への禍根となる。

 核拡散防止条約(NPT)に基づく核保有国である米露中英仏以外に、インド、パキスタンが核を開発し、イスラエルも核を保持したとされる。どの国も国際社会の懸念を高めないよう、核の運用で抑制的な姿勢を堅持している。

 北朝鮮は全く異なる。核を恫喝どうかつ外交の道具に使い、数々の国際約束を平気で破ってきた無法国家である。制裁が解かれれば、外貨稼ぎのため、技術を中東やテロ組織に売り渡しかねない。世界的な厄災を招くことになるだろう。

 一方で、冷静に北朝鮮を見る目も持ちたい。国内総生産(GDP)は、国連の推計だと、約160億ドル(1兆8000億円)だ。1人当たりでは、日本の50分の1以下にとどまる。

 金正恩朝鮮労働党委員長は、核戦力強化と経済再建の二兎にとを追う「並進路線」を掲げる。父正日氏の「先軍政治」と異なり、軍備と民生の両立という、困難な道を選んだ。体制の動揺から自壊する可能性は小さいとは言えまい。

 北朝鮮を封じ込めつつ、暴発に追い込まないよう、駆け引きによって核ミサイル計画を放棄するための対話を迫る。それには、国際包囲網の維持が欠かせない。長期戦を覚悟する必要もあろう。

 ◆「キューバ」を教訓に

 1962年、世界を震撼しんかんさせたキューバ危機は、ソ連による核兵器の持ち込みがきっかけだった。ケネディ米大統領は、ソ連に軍事的圧力をかけつつ、フルシチョフ首相と水面下の交渉を粘り強く重ね、核の撤去にこぎつけた。

 核戦争を瀬戸際で回避できたのは、ケネディ氏が外交的解決を目指す姿勢を貫き通したからだ。

 北朝鮮危機を米国主導で乗り切り、地域に安定をもたらすには、トランプ大統領が、衝動的な行動を自制し、しかも、安易な譲歩に応じないことが必須である。

 トランプ氏の言動に予測できない面がある以上、マティス国防長官やマクマスター国家安全保障担当補佐官ら軍事専門家の支えと、日本など同盟国による適切な助言と働きかけが今後も不可欠だ。

 米国とは、首脳間に加え、閣僚や事務レベル、米軍と自衛隊の制服組同士の関係も深めたい。東アジア情勢が劇的に変わらない限り、日米同盟は、日本の外交・安保政策の基軸であり続ける。

 憂慮すべきは、米国第一主義を掲げるトランプ政権の内向き姿勢が国際関係に及ぼす影響だ。

 環太平洋経済連携協定(TPP)を脱退した米国が、2国間で貿易不均衡を強引に解消しようとすれば、相手国の反発で相互の貿易や投資は縮小しかねない。

 米国が繁栄を維持するには、関係国と協調し、多国間の経済秩序を支えるしかない。そうトランプ氏に伝えていく必要がある。

 富強路線を突き進む中国との外交は、微妙なかじ取りが要る。

 無用な対立は、日中双方の得にも、東アジアの安定にもつながらない。信頼醸成のためには、日本が中国の動向を見据えつつ、必要に応じて注文をつける方が、迂遠うえんに見えても有効な手段である。

 ◆中国との信頼醸成図れ

 巨大経済圏構想「一帯一路」が排他的にならないよう、日本が協力することは、戦略的な観点から理解できる。中国が、途上国支援の経験やノウハウが豊富な日本と手を結ぶメリットは明らかだ。

 対中交渉には、国力の裏打ちが欠かせない。日本が防衛力と経済力を保持することで、中国への発言力が増す。米国や豪州、インドなど、価値観を共有する国々と足並みをそろえて主張すれば、中国も無視することはできまい。

 中国が包囲網と警戒しないよう国際連携の利点を訴えたい。

 80年代の日中蜜月は、最高指導者トウ小平氏と日本の政財界人らの太いパイプの賜物たまものだった。両国の力関係が様変わりし、かつての状態には戻れないが、権力基盤を固めた習近平国家主席と直接話し合う重要性は変わらない。

 まずは、中断している両国首脳の相互往来に、道筋をつけるべきである。会談を重ねて立場の相違を埋め、互恵のための妥協点を探ってもらいたい。

 国内経済に目を転じれば、良い指標は数多い。雇用と株式市場は絶好調で、多くの企業の収益は上り調子だ。一方で、家計と企業にはカネが積み上がっている。

 家計が保有する現金は、1年間で5兆円増えて83兆円となった。預貯金と合わせると25兆円多い943兆円だ。金融資産全体で83兆円増の1845兆円に達する。

 家計と、金融を除く民間企業の金融資産を合計すれば、3000兆円超という途方もない額だ。

 個人は消費を控え、企業も従業員の待遇改善や設備投資を抑えている。これでは、賃上げが消費を押し上げ、さらに賃金アップにつながる好循環は実現しない。

 安倍首相が最優先の公約とするデフレ脱却を果たすには、個人と企業の節約マインドを変えねばならない。旧来の常識にとらわれず、眠っているカネを動かす大胆な政策を展開すべきだ。

 ◆国民負担議論の好機

 日銀の異次元の緩和は、当初2年間がメドだったが、ずるずる延びて5年になる。日銀は発行済み国債の4割以上を保有する。マイナス金利は、金融機関の経営に重くのしかかっている。

 このまま続けて問題ないのか。今春の総裁人事を前に、政府・日銀は金融政策を総括すべきだ。

 多くの国民の間には、少子高齢化に伴う、将来への不安感が蔓延まんえんしている。それは、若年層ほど切実である。医療・介護・年金制度の長期的な安定こそが、政府が旗を振る「人生100年時代」を安心して迎える前提となる。

 社会保障の給付増に合わせ、消費税は、2019年10月に10%とした後、さらなる引き上げが必至だ。新たな「社会保障と税の一体改革」の策定が急務である。

 この6年間、衆参両院選が計5回行われた。選挙に勝つため、与党は消費増税を2度延期し、バラマキ色の強い政策を掲げた。

 財政健全化の先送りは、もう許されない。国政選挙の予定がない今年は、国民負担を議論する好機だ。秋の自民党総裁選で3選を目指す首相と挑戦者は、社会保障と財政の安定策を競ってほしい。

 政治に求められるのは、国民の不安を取り除くとともに、未来への展望を開くことである。

 

来たるべき民主主義 より長い時間軸の政治を

(2018年1月1日 朝日新聞朝刊)

  現在の安倍政権になって6回目の新年を迎えた。近年まれな長期政権である。

 しかし、与えられた豊富な時間を大切に使い、政策を着実に積み上げてきただろうか。

 正味5年の在任で、例えば、社会保障と税という痛みを伴う難題に正面から取り組んだとはいえまい。持論の憲法改正も、狙いを定める条項が次々変わり、迷走してきた感が深い。

 原因の一つは、国政選挙を実に頻繁に行ったことにある。

 ■場当たり的政権運営

 政権を奪還した2012年12月の衆院選まで含めて数えると合計5回。ほぼ年に1回の勘定だ。3年に一度の参院選が2回あり、14年と昨年はいずれも強引な衆院解散に打って出た。

 選挙に向け、政策の看板も次から次へと掛け替えてきた。

 誠に慌ただしい。

 長期政権にもかかわらず、なのか、長期政権を狙ったがゆえに、なのか。皮肉なことに、安倍政権がよって立つ「時間軸」は、極めて短いのである。

 それは日本政治の多年の弊ともいえるが、度が過ぎれば民主主義の健全さが失われる。

 学界、経済界、労働界の有志の集まり「日本アカデメイア」などは昨年12月、「先進民主政はどこへ向かうのか?」と題するシンポジウムを催した。

 ポピュリズムの広がりや既成政党の退潮といった欧米各国の現状が論じられる中、日本について指摘されたのは、やはり場当たり的な政権運営のあり方だった。

 「政権維持が自己目的化し、長期的見通しや政権担当期間を通じてのプログラムがない」(飯尾潤政策研究大学院大学教授)

 その結果、何が起こるか。

 シンポでは、財政再建地球温暖化対策といった政策課題を解決する難しさが挙げられた。

 長い時間軸の中で取り組まなければならないテーマである。今さえよければという姿勢では、まだ生まれていない将来世代に大きなツケが回る。

 ■シルバー民主主義?

 短期志向になりがちな政治の一つの側面を表現するのが、「シルバー民主主義」という言葉だろう。

 日本では有権者に占める高齢者の割合が高く、しかも、若い世代に比べて投票率が高い。その大きな影響力を、政治の側は気にせざるをえない。

 結果として、社会保障が高齢者優遇に傾けば、世代間の格差は広がる。長期的には財政を圧迫し、将来世代に禍根を残す。

 ところが、興味深いデータがある。亀田達也・東京大教授(実験社会科学)と同大大学院生の齋藤美松(よしまつ)さんが昨年夏、東京都文京区の有権者2千人を対象にアンケートをした。

 日本の財政赤字や地球温暖化といった「持続可能性」に関わる問題への関心は、高齢層の方が高かった。生まれていない「将来世代の代弁者」の役割を積極的に担う意欲についても、同じ傾向だった。

 老人は子どもや大学生に比べ、近視眼的な判断をしにくいという先行研究にも触れつつ、亀田教授は「今の世代と将来世代との間の公平を実現する上で、高齢者の果たしうる役割はありそうだ」と話す。

 だとすれば、政治がシルバー民主主義化するとしても、それはお年寄りのわがままというより、政治の側がいい顔をした結果にすぎない可能性がある。

 目先の利益にかまける政治、時間軸の短い政治の弊害だろうか。

 ■われらの子孫のため

 民意の「変化」を敏感に追う政治家に対し、政策の「継続」と一貫性にこだわる官僚。そんな役割分担は、官邸主導が進む中であやふやになった。

 民主主義の時間軸を長くする方策を新たに考えなければならない。様々なアイデアが既に出ている。

 財政再建でいえば、独立した第三者機関を置き、党派性のない客観的な専門家に財政規律を厳しくチェックさせる、といった提案がある。

 若い人の声をもっと国会に届けるため、世代別の代表を送り込める選挙制度を取り入れてみては、という意見もある。

 国政選挙が年中行事化しないよう、内閣の解散権を制限すべしという主張は、最近の憲法論議の中で高まりつつある。

 「来たるべき世代に対する」国の責任を明記するのは、ドイツの憲法に当たる基本法だ。1994年の改正で、環境保護を国家の目標として掲げた。

 こうした条項を日本国憲法は持たないが、将来への関心を欠いているわけではない。

 前文には「われらとわれらの子孫のために……自由のもたらす恵沢を確保し」とある。

 11条は「基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる」とうたう。

 先を見据えよ。憲法は、そう語っているように思われる。

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2018年1月1日