北朝鮮の核脅威の解決と北東アジアの平和をどう実現するのか ~「日米対話」公開フォーラム 報告(言論NPO)

北朝鮮の核保有は認めず、軍事行動を抑えるため日米で何ができるのか ~「日米対話」非公開会議 報告~

日本側からは宮本雄二氏(元駐中国大使)、西正典氏(元防衛事務次官)、香田洋二(元海上自衛隊艦隊司令官)ら、米国側からはダグラス・パール氏(カーネギー国際平和財団副所長)、マーク・リッパート氏(前駐韓大使)、ジェニー・タウン氏(「38ノース」編集長兼プロデューサー)ら北東情勢と防衛問題に詳しい各氏が顔を揃えました。

北朝鮮の核保有は認めず、米国の軍事行動も抑えることは両立可能か

まず、午前中に非公開会議が行われ、司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志が、「北朝鮮の核保有は認めないが、米国の軍事行動も抑える。この二つの目的を両立させることは可能か。それを可能にするためには何をなすべきか。この連立方程式を解くために本音で議論し、意見のすり合わせをしたい」と挨拶しました。

工藤から問いかけられた難問に対して、日本側からは「東アジアで安全を確保するには、いかに中国を巻き込んで解決するか、日米間での調整が必要になる。両国が意見を合わせて、同じ考え方で対処すれば、それが中国への圧力にもなる」と、これまで北朝鮮の後ろ盾で、先の共産党大会で世界の強国を目指すと宣言した習近平総書記率いる中国の存在を指摘。そして、「本来なら、今回のような対話を政府レベルで進めていくべきだが、北朝鮮に対しての出口戦略として非核化への条件を出し、それを呑まなければ圧力を強化していき、最終的に条件を受けさせるしかない。トランプ大統領に果たして出口戦略があるのか、一番心配している」と、米側に質問を投げかけました。

これに対して米国側からは、様々な意見が出されました。

「制裁をいろいろやっているが、効果が出るのは、半年から一年はかかるのではないか。交渉も現実的にすぐ出来るとは思わない。我々としては、その間に防衛能力を高めるべきで、同盟国である日韓への拡大抑止のため、戦術核とか核戦略を話し合うのも大切だ」。

「米国の出口戦略を考える機運は高まっている。平壌に目を向けてどうするか考えるべきだが、六者協議も再開すべきではないか。オバマ時代も北朝鮮と米国の高官同士は話してきた。米国が高い条件をつけて、対話が出来ないと言われてきたが、そうではない。トラック1.5もトラック2も大事だが、トラック1は重要で、そうした認識のズレやディスコミュニケーションを減らすことが出来る」。

北朝鮮がおとなしくしている裏側には一体何が

また、韓国から北朝鮮を見てきた関係者からは、「北朝鮮を訪れる外国人は減り、制裁によって現金もなくなり、議論に乗ってくるのではないか。市場の問題も深刻で、一般供給システムも弱体化している」と疲弊する北朝鮮の情勢を指摘しました。

これに対し、日本側からは、「中国と北朝鮮の関係は良くない。中国にとって北朝鮮は重荷だった。中国とのパイプ役だった張成沢が殺されて、情報チャネルがなくなってしまった。また、昨春の核実験では韓国から何の情報もなかった。金正恩が潰しに掛かった韓国のネットワークを試したのではないか。そういうことからも、北朝鮮の本音を探る回路を私たちは持っているのか」と北朝鮮とのチャネルの薄さを指摘。さらに、「北朝鮮は、これまで東海岸からミサイルを発射していたのを、最近は西海岸などいろいろな場所に移してどこからでも打っており、中国に対し敵意を見せ始めている。金正恩としては、トランプ大統領の発想、行動はまったく理解出来ず、”トランプは、馬鹿だ。常識人のオレはどうしたらいいのか”とでも思っているのではないか。それが今の静寂を生んでいるのでは」と推測する声が上がりました。

日本の有識者は日韓両国の核武装について反対の声が多数

非公開セッションの最後に工藤は、言論NPOが実施した日本の有識者に行ったアンケートを紹介。「トランプ大統領の北朝鮮核問題への対応を、どう思うか」との問いについて約50%の人が「適切」と返答し、日米同盟がより強固にしたと理解している人は約70%にまで上っています。

そうした感情を反映しているのか、「日本の核武装の是非」については、8割が反対としているものの、約2割の人が賛成しています。一方、”ソウルを火の海にする”とまで北朝鮮から脅迫を受けている隣国・韓国の核武装に賛成する人は約13%。この数字を上回る賛成の声は何を意味しているのでしょうか。「核保有への態度がぐらつくと、NPT(核拡散防止条約)体制に影響をあたえ、日米同盟も北東アジアで十分な効果を発揮出来なくなるのではないか」と、日本で増えつつある自国防衛のための核武装を危惧する声が挙がりました。さらに、日本が核武装することで、日本は手を汚していいのか、また自分自身の身を切ることになる覚悟があるのか、という防衛関係者の発言もありました。

米朝間で最悪の事態を警告する参加者も存在

また、別の参加者は、「非核化、非軍事の連立方程式が解ければ、ノーベル平和賞、物理学賞が貰える、それくらい難しい問題だ」と語り、「もちろん軍事行動には反対だが、もし攻撃するなら小さいコストで強く、短く攻撃し、そして引く。そうしないとアフガニスタン、イラクの時のように北朝鮮は地下に潜り、戦いは長期化するだろう」と、あってはならない最悪の事熊に対し警告する参加者もいました。

こうして忌憚ない意見交換を経て、日米対話は午後からの公開フォーラムに移りました。

2017 / 10 / 31(言論NPO)

[ 日米対話| 北朝鮮の核脅威の解決と北東アジアの平和 ]公開フォーラム 報告

午前の非公開会議を経て、午後からは公開フォーラムが行われました。ここでは、北朝鮮から核保有を排除するために米国はどのようなシナリオを描いているのか、米国の軍事行動を避けることはできるのか、そのために何が必要か、日米韓でどんな協力ができるのか、などを中心に議論が展開されました。

 今回の日米対話には、米国側から6氏、日本側から5氏の外交・安全保障の専門家、自衛隊関係者が参加して行われました。

 参加者は以下の通り。日本=工藤泰志(言論NPO代表)香田洋二(元海上自衛隊艦隊司令官)德地秀士(元防衛審議官)西正典(元防衛事務次官)宮本雄二(元駐中国大使、宮本アジア研究所代表)
米国=ダグラス・パール(カーネギー国際平和基金副会長)マーク・リッパート(前駐韓大使)ジム・ショフ(カーネギー国際平和基金日本部長)ブルース・クリングナー(ヘリテージ財団シニアフェロー)ジェニー・タウン(ジョンズホプキンス米韓研究所副所長、「38ノース」編集長)シブリー・テルハミ(メリーランド大学クリティカルイシュー世論調査ディレクター)

北朝鮮の核保有を認めないこと、軍事行動を避けるという連立方程式の解はあるのか

 公開フォーラムの主催者挨拶に立った言論NPO代表の工藤泰志は、「11月5日にはトランプ大統領が来日し、政府外交も動いていく中で、民間で出来ることは限られているが、議論するだけでなく、課題解決に向けたアプローチを私たちはしていきたい」と今回の対話にかける意気込みを説明。さらに工藤は、「同盟国として日米協力は必要だが、加えて多国間のチャネルも作ろうとしている。そうした中では目標を共有すべきだ。そこで、私たちは二つの目標を立てることにした。一つは、北朝鮮の核の保有は認めないこと、もう一つは、軍事行動は避けること。この連立方程式の答えは描けるのか」と語り、今回の対話を通じてそうした連立方程式の答えやその端緒が出て来ることに期待を寄せました。

 続いて挨拶に立った宮本氏は、「東アジアは風雲急を告げている。2012年の尖閣諸島問題で日中が対峙したのに次いで、北朝鮮が核兵器国家に向かって緊張が高まっている。だからこそ、中長期的な平和安全メカニズムを構想すべきだ。その要になるのが日米関係の意思疎通で、共通の手段が最も重要だ。北朝鮮の問題は山積みだが、問題を解決することの難しさは当たり前のこと。難しさに負けて戦争への道を開くのか、回避する道はあるのか、核兵器国家として認めるのか、そこではどんな戦略環境が待っているのか。戦後、安穏としてきた日本に安全保障問題が突きつけられている」と、100人近く集まった聴衆に呼びかけました。

 続いて、日米5氏が議論に向けて問題提起を行いました。

無秩序の時代を迎えているからこそ、日米関係をより前進させるいい機会

 まず、パール氏は、「トランプ大統領が来日する中で、中国は共産党大会を終えて習近平総書記の力が強まり、朝鮮半島ではICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射が行われるのでは、と懸念が高まっている。またISIS(イスラム国)は崩壊し、今、世界は無秩序の時代を迎えている」と指摘。さらにアジア各国がで中国の挑戦を受けているとした上で、「海上での日中船舶の衝突を防がなければならず、経済は弱まってもロシアは軍の配備を広げている。こうした状況で、新しいコンセプトが大事なのではないか。19世紀の中国は14カ国と国境を接していたが、どこの国とも同盟したくなかった。中国が関係を持つのは投資目的であり、中国が強国を目指しても、安定的政権である日米にとっては、より前進出来るいい機会ではないか」との認識を示しました。

米国がとり得る手段とは

 前駐韓大使だったリッパート氏は、マティス米国防長官の「北朝鮮の核を認めず、交渉のテーブルにつかせることが目標だ」との発言を紹介し、「強力な北朝鮮政策を持つには米韓、日米同盟が連携すべきであって、この三極体制で強い圧力を加えるべきだ」と北朝鮮を交渉につかせるというベクトルは合っていると主張。しかし、南北対話、六者協議などすべての交渉を拒否し、まったく交渉に関心を見せない金正恩についてリッパート氏は、「北朝鮮と関係のあったパキスタンの核が、保有を事実上認められたので、そのような形を望んでいるのでは」との可能性を指摘するも、「その最終目標は何もわからない」と北朝鮮に関しては推測の域を出ない曖昧な表現に終始しました。その上で、米国が取りうる手段として、「封じ込めて、交渉へのプログラムに連れ出し、それがだめなら攻撃」と三段階のプランを紹介しました。

北朝鮮を孤立化させると、地下にもぐりさらに悪国になってしまう

 一方、北朝鮮を監視衛星でウオッチし、マスコミに流している「38ノース」のタウン編集長は、「トランプ大統領はこの脅威を喫緊のものとし、問題を解決することで自分の名声が上がることも考えている。北朝鮮は1990年代から見れば、経済も強くなり、核ミサイル開発の技術も向上してきた。今は米・北朝鮮とも、お互いプッシュし合ってエスカレートしている状況だ」と指摘。そして、余りに北朝鮮を孤立させると、もっと地下に潜り、更に悪人になってしまうのではないかとの危惧を示しました。加えてタウン氏は、「北朝鮮は他国の通貨と容易に交換が可能な通貨であるハードカレンシーを入手したいだろうが、北朝鮮がどんな制裁を受けても国家崩壊しないのは、苦しむことに耐えるのを得意にしているからだ。北朝鮮が苦しいのは、米や国際社会が制裁をやっているのが原因で、北朝鮮が悪いのではない、という論理なのだ」と、冷静な見方でした。

米国の調査から、トランプ大統領自身が国家を分断していること、また軍事行動に対して受け入れる米国民が増えてきていることが明らかに

 言論NPOと共に世論調査をやってきたメリーランド大学のテルハニ氏は、これまで米国で行われた様々な調査結果を紹介しました。

 それによるとトランプ大統領絡みの返答では、共和、民主両党支持者の間で意見が大きく分かれ、大統領候補時代の米国を見るようだとの見解を紹介しました。具体的には、「北朝鮮問題でのトランプ大統領の手腕に期待しますか」という質問に対して、共和党員の83%が「イエス」と答え、逆に民主党員の93%は「ノー」と返答していること、「世界で最も嫌いな指導者は」という設問には、民主党員の52%がトランプ大統領(共和党員は5%)を挙げ、金正恩(共和党員の23%が嫌い)をも超えて大きくリード、大統領自身の存在が国家を分断していることがわかります。また、「平和解決が失敗に終わった場合、軍事行動を支持するか」との質問では、2003年には47%が支持していたが、今年の調査では58%と半数を超えるまで支持を延ばし、軍事行動に対してより受け入れやすくなっている米国民の存在を指摘するのでした。

 残された少ない時間でどういう方針を取っていくのか、早急に議論を進める必要がある

 日本側の西氏は、「北朝鮮の核問題は1990年代初めから起きて、私たちは四半世紀もこの問題とともに暮らしてきた。その間、一番驚いたのは、在日米軍が問題に対処しても、日本は何も出来ないということだった」とそのもどかしさを紹介。その後、2015年に日米ガイドライン(防衛協力の指針)改訂になり、安保法制も成立し国内整備が進んできたものの、「この25年の間に北朝鮮の核ミサイル開発はほとんど完成の域に達し、そのメリットは北朝鮮にあった」と、これまでの経過を回顧しました。「しかし、ここで潮目が変わるかもしれない」と、西氏は聴衆に語りかけます。

 「中国が禁輸に乗り出し、米国も独自の制裁をしている。北朝鮮が次の段階に進むには時間がかかり、今回の時間のメリットは我々の側にあるのではないか。ロシアが北朝鮮に寄っていく中で、日本も準備が必要だ。米はICBMを心配しているが、日本はすでにミサイルで狙われており、日米でミサイルの意味は違ってくる。半年、一年、残された時間でどういう方針を採ったらいいか、議論を進めていく必要がある。そうした中でも日米関係がコア(核)になるので、何を、どういう風に考えるか」と問題を提起し、あまり時間がないことを指摘する西氏でした。

 5氏の問題提起に引き続き、フリーディスカッションに入りました。

米国は今、北朝鮮問題をどう考えているのか

 まず、アメリカ国内、特にワシントンの北朝鮮問題に関する論調が話題になると、パール氏は例えば、北朝鮮に対する経済制裁強化については、上院では98対0、下院では419対1で可決されたというように、他の政治課題では共和・民主両党で全く合意が形成されていないにもかかわらず、ここではコンセンサスができていることを紹介。

一方で、どこまで北朝鮮の能力増強を許すか、朝鮮半島の将来をどう考えるか、中国の役割などといった長期的な問題点では、「ビッグピクチャー」はまだ描かれておらず、まだ議論の余地があるとしました。

 米国側の司会を務めたショフ氏も、特に軍事力の行使については、「議論はまだ初期の段階」と説明。短期的な課題としては偶発的衝突を避けるなど、解決を急ぐべきこともあるが、ICBMによる本土への攻撃など米国への脅威が差し迫っているわけではないので、長期的な視点が必要であると語りました。

核保有国化をいかにして阻止するか

 タウン氏は、交渉のやり方自体を見直すことの必要性を示唆。そこでは、北朝鮮との交渉はこれまで25年間の交渉では時期によっては全く対話に応じなかったかと思えば、一転して合意に至ったりしたこともあるなど、行ったり来たりで持続性がなかったと振り返りました。そして、金正恩総書記の対応は先代の金正日氏よりもさらに読めないものであり、「交渉はしても良いと考えているはずだが、北朝鮮も力を付けてきているので簡単にはいかないはず」とし、「核保有国として認めてはならないが、現実的オプションも考えるべき」と述べました。

 宮本氏は、北朝鮮の核保有を止めるための手段は限られているとの認識を示した上で、「しかし、ここで国際社会が一体となってプレッシャーをかけ続けていかないと、さらに北朝鮮は核開発を進めてしまう」と語り、選択肢が乏しい中でも現状でできる限りの対応をしていくことの必要性を説きました。その上で宮本氏は、タウン氏に対し、北朝鮮の非核化の可能性を尋ねました。

 これに対しタウン氏は、交渉自体がスタートできず、対話のための関係づくりができない難しさがあるとしつつ、「長期的な合意は可能」であり、「米国も国際社会も朝鮮半島非核化という大原則を断念してはならない」としました。

 宮本氏は、北朝鮮が核保有国となることは、日韓が常に核による恫喝にさらされることになるため、自国の安全を確保するために、場合によっては核武装を検討する必要が出てくるなど、これまでとは全く異なる安全保障戦略の選択を迫られることになると指摘。そして、日韓が核武装するようなことになれば他にも核武装をする国々が出てきて核不拡散体制が崩壊するため、したがって、とにかくまず北朝鮮の核保有を阻止するための対応が最優先だと主張しました。そして、国際社会の一致した対応が不可欠であるが、経済制裁が本格化した今こそが一致結束の好機だと述べ、そうしてこの経済制裁を対北朝鮮政策全体のプログラムの中に位置付けつつ、非核化への道筋を描いていくべきと主張しました。

 香田氏は、「北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止できないことがどのような事態をもたらすのか」について語りました。香田氏は、北朝鮮はICBMで米国を抑止することができると考えているが、これはすなわち、日米安保を無力化することにつながり、さらには、インド、オーストラリアも含めた日米のインド洋、アジア太平洋戦略にとっても大きな障害となることを指摘。そのため、「核・ミサイル開発は絶対に阻止しなければならない」と強調。そのためには、交渉や圧力も重要であるが、これらが機能しなかった場合を常に考慮し、「最後のオプションとして軍事攻撃のことは考えておかなければならない」と主張しました。

日米同盟と拡大抑止

 德地氏は、米国の拡大抑止の信頼性について、冷戦時代を引き合いに、「当時、米国と日本はソ連の戦略を把握していたかというと必ずしもそうではなかった」とした上で、それでも実際に拡大抑止は機能していたと振り返りました。したがって、「北朝鮮の戦略が分からないとしても、冷戦時と同様に拡大抑止は機能するだろう」との見通しを示しつつ、それでも不確定要素があるのであれば、それをできる限り取り除く努力をしていくべきと語りました。また、取るべき戦略はcontainment(封じ込め)であり、そこでは中国の役割が重要なのは確かであるが、「これは民主主義体制と権威主義体制の対峙である以上、権威主義側の中国に頼らず、やはり米国との協力を中心とすべき」と主張しました。

 クリングナー氏は、米国の拡大抑止の信頼性については「やや疑問がある」としつつも、同盟国の間では、「米国はロサンゼルスを危機にさらしてまで東京やソウルを守るのか。北朝鮮からの核攻撃を恐れ、同盟国である日本や韓国に対する防衛を躊躇するのではないか」という「デカップリング(切り離し)」に対する懸念が高まっていることに対しては、日韓両国に多くの米兵・軍属がいることを指摘し、「米国は同盟国のため、また自由と平和を守るために今後もコミットメントを続けていく」と述べました。

 西氏は、仮に米国がコミットメントに失敗した場合、世界中から「約束を守らない国」との烙印を押されることになるため、必ずコミットメントはしていくと予測。その上で、コミットメントには米国の負担が大きいため、「こちら(日韓など同盟国)側が負担を減らすべくどうサポートするか」が課題になるとし、米国のコミットメントを疑う前になすべきことがあると喝破しました。

中国をどう巻き込むか

 パール氏は、北朝鮮の「レジーム・チェンジ」の可能性について言及しつつ、「これは中国にとって非常に心地良くない言葉だ」と指摘。ティラーソン国務長官も言っているように、「中国の面子」をつぶさないように配慮すること、そして、これから北東アジアで起こるであろうパワー・トランジションに伴うバランス・オブ・パワーの変容を踏まえながら、中国も巻き込んで「大きなピクチャーを描くための議論が必要だ」と述べました。

 宮本氏は、これまでの中国の対北朝鮮政策は妥協の産物であったと振り返った上で、しかし賈慶国・北京大学教授が論文”Time to prepare for the worst in North Korea”で示したように、中国も朝鮮半島で軍事衝突が勃発する事態となった場合を想定して準備を始めていると分析。中国がこのように積極姿勢に転じたことを「西側も最大限に利用していくべき」と主張しました。

 リッパート氏は、米大統領と中国の国家主席がまず話をすることが北朝鮮問題を解決していく上では理想的なスタートポイントであるとしつつ、それはなかなか理想通りにはいかないため、「マルチラテラリズムによって対応していくしかない」と述べました。そこでは、六者協議とは異なるもっと柔軟性のあるフォーマットが必要であると同時に、そこでミサイル防衛や抑止力の議論が出ると中国は枠組みに対して懐疑的になってしまうと注意を促しました。その上で、枠組みのコアメンバーとなる日本と韓国が、それぞれ中国との関係を改善し、チャネルを回復していくことが中国を巻き込んでいく上で重要なポイントになると指摘しました。

 西氏は、日本の姿勢として中国から見て「いやな日本」になるべきと主張。すなわち、「後に日本が核武装するくらいなら、ここで北朝鮮を抑えておいた方がましだ」と計算するように仕向けることで、中国を国際連携の場に引き出すべきだと語りました。

 一方、香田氏は、中国は北朝鮮をめぐって大きな利害関係があり、自らの国益上譲れないものがあること、経済制裁の是非に関しても国内で対立があることなどを指摘し、中国にはあまり期待できないため、こちらが期待した対応を取らなかったからといって失望すべきではないと述べました。そして、それよりも「中国ができないことを他の国々がどうカバーするか」という視点が必要だと説きました。

制裁をどう実効性のあるものにするか

 パール氏は、経済制裁の効果については、抜け穴も多いため「楽観的ではない」し、そもそも「制裁だけで問題が解決するわけではない」と前置きしつつ、それでも「核・ミサイル開発に直結するような貿易は断固阻止しなければならない」と語りました。特に、北朝鮮がミサイル燃料の原材料を中国から輸入しているというアメリカの研究機関のリサーチ結果を紹介し、そうした取り引きは徹底的に取り締まらなければならないとしました。また、北朝鮮が企業名の偽装など様々な巧妙な手口で制裁を回避しているため、それに対する対応も不可欠と述べました。

 宮本氏も、現時点では制裁をしっかりと実施していくための国際的な体制が整っていないとし、まず体制整備を求めました。その上で、最も制裁逸脱を見破ることに長けているのは、米国であるとし、CIA(米中央情報局)の予算拡充による対応強化を提言。さらに、中国企業による制裁潜脱が多いことに関しては、「実は中国政府もそうした企業の取引の実態は把握できていない」と指摘。そこで、自身の中国大使時代の経験から、トップが号令をかければしっかり現場が動くという中国社会の特性を生かすべく、「トランプ大統領は折に触れて習近平国家主席に電話をしているが、その機を捉えて対応徹底を要請する。そして、習主席が発破をかければ現場は動かざるを得なくなり、制裁の網の目もより細かくなるのではないか」とのアイディアを披露しました。

北朝鮮の沈黙は何を意味するのか

 9月以降、北朝鮮が核・ミサイル開発で目立った動きを見せていないことに話が及ぶと、香田氏は、北朝鮮はこれまで自らの核・ミサイルが米国を射程に収めたことによって、米国は恐怖に慄き、抑止に成功したと思っていたが、トランプ大統領のツイッターを見るとむしろ逆効果だったと思い始め、これ以上米国の怒りを買うことに躊躇し始めているのではないかと指摘。もっとも、「このまま引き下がることはない。今は戦略の立て直しのために時間を稼いでいるのではないか」とも指摘しました。

 タウン氏も、今の北朝鮮の沈黙から何らかの政治的なメッセージを読み取ることは妥当ではないとし、「技術レベルを一段上に上げるための準備に時間がかかっているのではないか」との見方を示しました。

信頼に基づく「五者協議」を

 その後、会場からの質疑応答を経て、ショフ氏は議論の総括としてまず、関係各国が意志を統一し、対話を深めていくことの重要性を再認識したとコメント。また、北朝鮮の核・ミサイル技術のさらなる高度化まで時間的猶予は少ないものの、「即時に危機が起こるわけではない」として拙速な対応を戒めるとともに、「全地域的な対応が必要」としました。そこでは時に、米中の役割が重要であるとして、「五者協議」を提案。中国も北朝鮮問題に本腰を入れて取り組み始めた今ならこうしたマルチの枠組みも有効になるとの見方を示しました。

 もっとも、そこで重要になるのは「相互信頼」であると主張。例えば、日本にとってのミサイル防衛のように、いかに自国にとって不可欠なオプションであっても、信頼がないまま進めれば、他国からは軍事的なエスカレーションとして見做されてしまうと指摘。その結果として五者のまとまりを欠くことは北朝鮮を利することになると説き、「だからこそ五者協議の枠組みの中で信頼関係を構築すべきだ。特に、日米韓の間では様々な安保協力を通じてすでに基礎は出来ているからそこを足掛かりとすべき」と語りました。そうした取り組みを地道に続け、「世界が北朝鮮を問題視している」というメッセージを伝わるようにすべきだとして、三時間にも及んだ対話を締めくくりました。

このエントリーをはてなブックマークに追加
2017年10月31日