・言論NPO東京会議のG7首脳会議に向けたメッセージ

(2018 / 03 / 11 言論NPO)「東京会議2018」公開フォーラムの最後に、「北朝鮮の核保有を容認するいかなる声にも賛同しない」など5項目からなる「カナダでのG7首脳会議に向けた緊急メッセージ」が言論NPO代表の工藤泰志より発表され、今年のG7首脳会議議長国であるカナダのナディア・ブルジェー・在日カナダ大使館首席公使に手交されました。

カナダでのG7首脳会議に向けたメッセージ

 世界を代表する10のシンクタンクが、東京に再び集まったのは、自由や民主主義、法の支配、人権の尊重という、戦後世界を支えた共有された価値、規範が動揺し、リベラルな世界秩序が不安定化し、それがどこに向かうのか、未だに見えない状況が続いているからである。そうした局面だからこそ、自由と民主主義、そして多国間主義の価値に基づく世界を目指して、10カ国のシンクタンクが力を合わせなくてはならないと考えた。
米国の現政権は依然、アメリカ第一主義であり、多国間主義に伴う国際協力や自由貿易の前途に不安を与えている。権威主義的な傾向を強める国も存在する。国際社会は、難民、地球環境、感染症、大量破壊兵器の拡散など国際協力無くして解決できない喫緊の課題にも対応しなければならない。
この二日間、私たちは議論し、多くの点で共通の理解を得た。

 一つは、自由と民主主義が持つ今日的な重要性である。
個人の自由や権利を守りながら、世界の利益を各国内のより多くの人に包摂的につなげることは、人類の使命であり、人類の財産となる。グローバリゼーションと技術の急速な進歩は、世界の共通利益でありながら、雇用の不安や格差の拡大という課題を生み出している。そうした時だからこそ、個人の自由と平等、多様性を尊重する民主主義の今日的な意義を問い直し、その促進に努めるべきである。
もう一つは、世界はもはや自国第一主義や、ゼロサムでお互いに悪影響のある重商主義的な勢力拡大の過去に戻ることは許されないということである。
世界の相互発展のためには多国間主義に基づく国際協力、自由でルールに基づく開放された経済こそが必要であり、その中でグローバリゼーションと国内の利益を調和させる努力が今、各国政府に求められている。

    私たちが今年6月にカナダで行われるG7首脳会談に向け、議長がメッセージを出すことにしたのは、G7こそがこの自由と多国間主義、そして民主主義という規範を尊重し守るための実効性のある強いメッセージを世界に発信し、その実現のけん引役になるべきと考えるからである。
もちろん、これらの規範を支えることを、政府に期待するだけでは不十分である。知識層やジャーナリズム、そして市民と力を合わせて、今直面する自由と民主主義の試練に真剣に立ち向かい、行動すべきである。
この「東京会議」に集まった10カ国のシンクタンクは各組織の規定の範囲内で議論に参加することで合意している。
この立ち位置から私たちは、以下の5点に焦点を当てた。

 第一に、G7各国は、自由と民主主義、法の支配および人権の尊重という共通価値の重要性を再認識し、その下での結束をさらに強化すべきである。
さらにG7は、多国間主義に基づく国際協力の枠組みを守り、国連や様々な国際組織がこれまで築き上げてきた国際秩序を維持する根源的な役割を積極的に支えながら、同時に規範に基づく国際秩序を追求すべきである。

 第二に、G7各国は、保護主義的な行動が報復的な行動を招くなど、世界経済、国際秩序に取り返しのつかない影響をもたらしかねないことを重視し、公平な競争条件や質の高いルールに基づく自由貿易をさらに発展させる努力を行うとともに、あらゆる形態の保護主義には対抗する姿勢を示すべきである。

 第三に、G7各国は、グローバリゼーションが、世界全体の包摂的な成長や持続可能な成長につなげるために、当面の主要国の金融政策の動向などにも注意しながら、成長の促進と分配の両面で足並みを揃える必要がある。我々は新たな大きな変革を伴う技術革新が、できる限り健全な社会に貢献できるよう、努力しなければならない。

 第四に、北朝鮮の核開発は世界の平和やNPT体制への決定的な脅威であるとの認識の下に、北朝鮮の非核化と平和的解決に向け、G7は結束して取り組む必要がある。米朝首脳会談の動きを歓迎するのはその目的のためであり、北朝鮮の核保有を容認するいかなる声にも賛同はしない。

 第五に、G7各国は、ルールに基づいた世界のリベラル秩序を維持し、持続的で包摂的な世界の発展を作り出すためにも、世界の利益と国内利益を、バランスを持って考えられる強靭な民主主義を作り上げることが重要である。規範を守り、課題に真摯に立ち向かう政府の不断の取り組みは、市民社会との対話を通してより多くの人の支持に支えられるべきものである。

カナダ政府が設定する5つのテーマ

 「緊急メッセージ」を受け取ったナディア・ブルジェー・在日カナダ大使館首席公使は、同国のジャスティン・トルドー首相が今年のG7サミットにおいて設定しようとしている5つのテーマについて説明。

 まずその一番目として、「すべての人々にとっての成長に資する投資」を挙げ、「長期的な視点から『包摂的成長』を実現するためにはどうすべきかを考えなければならない」と語り、『これはG7にとっての義務である』とその重要性を強調しました。

 二番目として、「将来の雇用に備える」ことを挙げ、グローバリゼーションに伴う雇用構造の変化や、人工知能(AI)に代表される革新的技術が台頭する中で雇用をどう守るのか。とりわけ、教育や職業訓練などを通じた対応整備の必要性を指摘しました。

 三番目としては「女性の社会進出」を挙げ、これは一番目の包摂的成長にも関わる重要テーマであるし、実際にカナダ自身も非常に力を入れている課題であると説明しました。

 四番目には、「海洋環境」を挙げました。人類が共に繁栄していく上では、共通の資産である海洋の保全が不可欠であり、新たな環境管理手法を考える必要があると述べました。

 そして最後の五番目として、「より平和で安全な世界の実現」を提示。「平和と安全」はすべての人々にとって恩恵をもたらすものである以上、国際紛争がます
ます複雑化する今日の状況においては、「G7こそが意思を統一してコミットしていかなければならない」と強調。そしてその際には、民主主義や基本的人権の尊重、ルールベースの世界秩序の維持といった既存の価値や規範を強く意識しながらのコミットメントにならなければならないと指摘しました。

 ブルジェー氏は最後に、そうしたカナダ政府の方針とも合致する今回の「緊急メッセージ」に対して感謝の意を示すと同時に、「本国に持ち帰って必ず活用する」と確約しました。

 シンクタンクの英知を結集すれば、どんな困難な課題解決も可能

 その後、閉会挨拶に登壇した言論NPO理事の近藤誠一氏(近藤外交・文化研究所、元文化庁長官)は、「人類は現在、かつてないほどの大きなチャレンジを受けており、多くの人々が不安にさらされている」と切り出した上で、そうした状況の中では依然としてG7には世界秩序の維持のために強いコミットメントが求められると語りました。

 しかし同時に、「もはや国家だけではすべて解決できる時代ではない」とし、非政府の役割の重要性を強調。そして、「今日の議論を聞いて、シンクタンクの英知を結集していけば、いかなる課題に対しても答えを導き出せると確信した」とこの「東京会議2018」の成功を力強く宣言し、4時間半にわたって繰り広げられた白熱した議論を締めくくりました。

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2018年3月13日