・欧米は本当に香港市民の人権を守る準備が出来たのか?

 米議会上院と英国外務省が中国共産党を批判した。BitterWinterはこの新たな動きについて、 John Patterson (HK Watchのジョン・パターソン、2047 HK Monitorのエドワード・チンの両氏から話を聞いた。

Students protest in Hong Kong(Studio Incendo – CC BY 2.0)

 自由と民主主義を求める平和的デモ参加者に対する警察の暴力は毎日エスカレートしているが、19日に米議会上院が全会一致で香港の人権を保護する法案「香港人権と民主主義法」(提案者シェロッド・ブラウン上院議員)を可決した。

 この法案は当初、超党派の「中国に関する米国議会執行委員会」が提案し、米議会下院が10月15日に承認した後、上院が11月19日に修正案を可決。下院に戻されてゴーサインが出れば、トランプ大統領が署名し、法律として発効する。

 法案はこれまでの米国の香港問題に対する沈黙を破った。

 中国共産党政府が管理する香港政庁に対して「国際法の下での義務を守ること」「香港の人々が高度な自立と過度の干渉なしで香港を治めることを認め、香港の有権者は、公平公正な選挙権を行使することで、最高行政官と香港立法評議会のすべてのメンバーを選ぶ権利を確認すること」「来年までに、香港立法評議会のすべてのメンバーに対する開かれた直接的な民主的選挙を行うこと」を要求。

 さらに、中国本土と香港の広東語を話す人々が容易にアクセスできる広東語の国際放送の継続を含む、報道の自由とジャーナリズムの独立を支援することを明確にしている。

 法案が成立すると、「マイク・ポンペオ国務長官は、香港が世界金融センターとしての地位を支持する米国の配慮を満たす自治権を保持していることを少なくとも年に一度、証明しなければならなくなる」と、ロイター通信は解説している。法案には、香港市民の「人権」が侵害された場合、責任者に対する制裁措置も規定している。

 また、米議会上院は同じ19日に、催涙ガス、唐辛子スプレー、ゴム弾、スタンガンを含む香港警察が使用する武器およびその他の品目の商業輸出を禁止する法案も満場一致で可決した。

 その数時間後、英国のドミニク・ラーブ外相は、サイモン・チェン氏の事件について非難声明を発表した。同氏は、これまで2年にわたって香港の英国領事館で貿易および投資担当官として働いてきたが、8月に中国本土を旅行中に逮捕され、15日間拘留、拷問を受けた。

 このような米英の動きは、香港における専制国家的な人権弾圧に、西側が突然目覚めた、という印象を与えるかもしれない。時間がたてば分かるが、それは間違っているかもしれない。だが、英国には、1997年に中国共産党政府に香港を引き渡す前に約束したように、香港市民を支援する道徳的および法的義務がある。「サイモン・チェンは私たちのチームの大切なメンバーでした」とラーブ外相は述べた。「私たちは中国の拘留中に彼が受けた虐待にショックを受け、愕然としました。これは拷問に相当する行為だ」と非難し、「国際的な義務に違反して、サイモンの残忍で不名誉な扱いをした中国に怒りを伝えるため、我が国の北京駐在大使を召喚した。中国当局が責任者を調査し、説明責任を果たすことを、我が国が期待していることを明確にしました」と言明した。

 中国共産党政府が黙秘を続けるのは難しいかもしれない。

 英国に拠点を置き、香港市民の基本的人権の侵害を監視している民間組織「香港ウォッチ(HKW)」のマネージングディレクター、ジョニー・パターソン氏は、「チェン氏に対する中国当局のやり方は、言語道断」と考えている。中国共産党が流した偽情報を批判してBitterWinterの取材に応じ、「英国領事館のスタッフがこのように扱われたことは、まったく心外です。彼は「英国海外市民(British National Overseas、BNO)」のパスポート所持者。つまり中国国家安全保障局の尋問者によって拷問を受けたのは、英国国民です。英国政府が今、行動することが重要です」と語った。

 だが、BNOパスポートの問題は諸刃の剣にもなる。中国への 返還まで、希望する香港人は申請して登録すればBNOに登録できた。BNOは英国本土に永住できないなどの制約はあるが、ビザなしで行ける国の数が英国本土のパスポート並みに多いといった特徴がある。返還後の香港には中国の国籍法が適用され、香港在住の「民族的に」中国人である香港人は、中国国籍を持つとみなされているが、返還前に登録していた人はBNOを維持することもできる。だが、返還時の英国と中国の約束が無視されるにつれて、BNOパスポートの効力も疑問視されてきているのだ。

 香港のヘッジファンドのマネージャーで、香港の民主化を求める金融業界、法曹界、および大学の専門家グループ2047 HK Monitorのメーンオーガナイザーでもあるエドワード・チン氏はBitterWinterの取材に対して、「サイモン・チェン氏は身体的および精神的に拷問されました。このことが明らかにしているのは、中国の近代化が進む中で、分野によっては依然として非常に弱体で、国際的な水準を下回っているということです。人権の尊重はそうした分野の一つ。米議会上院での人権と民主主義法の可決は良いスタートです。それが香港の親北京の行政官僚に対する抑止力として使われ、香港の町と市民が襲われ、虐待されている今、国際的な動きをもたらすことを期待したい」と語っている。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日8言語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。編集長のマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)は教皇庁立グレゴリアン大学で学んだ宗教研究で著名な学者。ー「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載します。

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2019年11月23日