・新型コロナウイルスは、増加傾向にある飢餓を封じるための努力を蝕んでいる(国連WFP)

 バングラデシユ、コックスバザールのウヒヤで食料支給を受け取る子ども。新型コロナウイルスは飢餓を減少させようとする労力を台無しにするリスクを含みます。(Photo: WFP/Saikat Mojumder)

 2020年に入り、紛争による暴力と気候変動の影響により、世界中で飢えと栄養不良に苛まれる人々は既に増加しつつありました。今日、8億もの人々が慢性的な栄養不良に直面し、1億人以上の人々が生きるための食料支援を必要としています。新型コロナウイルスはこれらの悪化を抑制するための人道支援団体や食料安全保障のための組織の努力を損なう危険性をはらんでいます。

 元国際食料政策研究所(IFPRI)のシェンゲン・ファン局長は次のように書いています“新型コロナウイルスは保健上の危機です。もし適切な措置が取られない場合、食料危機をも招く恐れがあります。”

 最近の全ての大量感染~エボラ出血熱、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)~は食料安全に対し、直接的かつ間接的な両面で負の打撃をあたえました。専門家は、新型コロナウイルスによる同様の悪影響の傾向や性質について次のように述べています:

 

1. 新型コロナウイルスは貧困が蔓延し脆弱な医療インフラに苦しむ国に重大な脅威をもたらします

 新型コロナウイルスは多額の開発赤字、限られた政府の能力、そして重要なこととして貧弱な医療インフラを持つ国の既に脆弱性を抱える人々に、相当な危険をもたらします。新型コロナウイルスがサハラ以南の周辺国に到達するまで時間を要してはいるものの、多くの専門家がその脅威が差し迫っていると認めています(あるいは検査能力の欠如を鑑みると報告が控えめになっている可能性もあります)。2020年3月16日の時点で、アフリカ大陸の25カ国により感染の確定例が報告されています。2月初旬以降、大陸での検査能力は2カ国から39カ国に増加しましたが、医療インフラはまだ不足しています。

 「我々の最大の懸念は、より貧弱な医療システムを持つ国でウイルスが拡散してしまう可能性にあります。」世界保健機構(WHO)のテドロス・アダノム事務局長が述べています。他にも難民の人々における危険性も重大なリスクがあります。今日において避難民は暴力、紛争そして迫害により、第二次世界大戦以降もっともその数を増やしています。祖国を離れた多くの人々がキャンプに身を寄せています。難民の人々は互いに近距離で生活をしており、適切な医療施設を持たない故に新型コロナウイルスへの感染リスクが特に高いものとなっています。

シリアの母と子ども。現地は今も続く紛争の中で新型コロナウイルスの悪影響が非常に心配される。Photo: WFP/Alan Ali

2. 新型コロナウイルスは安定したセーフティーネットを持たない国に重大な脅威をもたらします

 セーフティーネットシステムは新型コロナウイルスによる経済及び栄養面での悪影響を食い止めるためには極めて重要なライフラインになります。しかしながら多くの開発途上国ではその穴を埋めるためのセーフティーネットシステムが欠如しています。事実、低所得国に居住する2割未満の人々しかどんな形にしても社会保障を受けることができず、さらに少ない割合の者しか食料のセーフティーネットを享受していません。

南スーダンの通りの様子。既に極めて危険な人道危機を新型コロナウイルスが脅かす可能性がある。Photo: WFP/Boris Heger

3. 新型コロナウイルスは慢性または急性の飢餓や栄養不良に苦しむ人々にとり、特に致命的と判明する可能性があります

 アフリカの12億人もの人々が地球上でもっとも高い割合の栄養不足に直面しており、これは世界の20パーセント超の人口にその影響が及んでいることになります。新型コロナウイルスは老齢者または既に疾病を抱える人たちにとって致命的であると判明しています。これは栄養不良を患う人にも同様であると考えられます。

 アルジャジーラによる最近のインタビューでは、北朝鮮におけるウイルスの感染拡大の可能性について韓国の延世大学の国際医療センターのジョン・リントン博士がこう答えています「もし(新型コロナウイルスが)北朝鮮に入った場合、既に多くの根幹的な欠落と医療の欠如を抱える同国では死亡率が極めて高くなる恐れがあります。一般的な国民が栄養不良に苦しむ中にあって、状況は中国の時よりも非常に悪化する可能性があります。」

 一例として、エボラ出血熱に罹患した場合の患者の生存率は、医療従事者がいう「病前栄養状態」またはウイルスに感染した人々の栄養状態の基準値に、影響を受けたと考えられています。

イエメン・サナアにあるWFPが運営する栄養クリニックにて栄養強化食品を食べる女の子。5年に及ぶ紛争状態にあるという事は、同国におけるインフラが新型コロナウイルスの大流行を制御するには不十分であることを示唆しています。Photo: WFP/Mohammed Awadh

4. 新型コロナウイルスにより食料サプライチェーンの破綻、食料不足そして食料価格の高騰が引き起こされる可能性があります

 現在のところ、ウイルスの感染地域または世界的に見ても、新型コロナウイルスによる食料供給や主食となる食料価格への直接的な悪影響は見られません。SARSやMARSの中国における大流行時には、十分な備蓄在庫と物流の流れを継続するために講じられた手法により地域的には市場と価格への影響は最低限にとどまりました。しかしサハラ以南のアフリカ諸国においてはその限りではありません。

 一例として、2014年のエボラ出血熱の大流行で、感染の影響をうけた西アフリカ諸国においては主食食品の価格が劇的な上昇を示しました。さらに、2007–2008年の食料価格の高騰は輸出制限、市場の憶測そしてパニック的な行動がその期間の世界的な急激な食料価格の上昇の原因たると明らかにされており~今日であってもその対抗策は十分ではありません。

 多くの開発途上国では数百万もの家庭で、通常でも収入の半分以上を食料品に費やしています。

 需要を満たすため過大に輸入に頼るサハラ以南の国などでは特に、国境封鎖に際しサプライチェーンの破綻による相当なリスクに直面します。最後に、途上国の経済に最終的に最も悪影響を与えるのは、疾病、そして肥料やそのほかの重要な農資材など非食料品のサプライチェーンの破綻により、農家が休耕したまま土地を離れる(または作付けや収穫の遅れに直面する)ことです。

5. 新型コロナウイルスが世界経済の停滞または不況を引き起こし、極度の貧困と飢餓を更に悪化させるでしょう

 経済協力開発機構(OECD)は今年度の世界経済のGDP成長予想を大幅に修正し、市場における新型コロナウイルスとその影響を2008年の「リーマンショック以来の世界経済の危機」と位置付けています。報告書「世界の食料安全保障と栄養の現状(“SOFI”)」の最新版からもわかるように、経済停退は貧困と食料安全にとって最も大きく影響します。「2008–2009年の景気後退に続く不安定な経済復興と、多くの国で引き続き起こった経済不振が、飢餓と栄養不良終息のための努力を無駄にしました。」「飢餓は主に経済的に減速または縮小している中所得の国々で増加をみせています。」とSOFIの著者は記しています。

 経済衰退、貧困そして食料の安全問題はしばしば相互関係にあります。新型コロナウイルスとの闘いのために人道的および開発リソースが割かれる場合、世界の食料安全保障のための活動はさらなるリスクに直面することになります。

イエメン、ホデイダにて栄養不良にある生後4カ月の乳児につきそうWFPの栄養専門家のトラスト・マランボさん。新型コロナウイルスは慢性的または急性の飢餓や栄養不良にある人々に対し特に危険性を持つと判明するでしょう。Photo: WFP/Annabel Symington

国連WFPの取り組み

 国連WFPは世界最大の飢餓撲滅組織であり、紛争、気候危機による影響、その他の災害に苦しむ人々へ食料支援を行うために、地球上でも最も厳しい場所においても支援活動を行っています。WFPは新型コロナウイルスによる被害にさらされる可能性が最もあり、闘うには最小限の資源しか持ち合わせていない人々のために支援を行います。国連WFP事務局長のデイビッド・ビーズリーが本部のあるイタリア、ローマでの新型コロナウイルスのもたらした影響に関してインタビューで語ったように:「我々WFPは83ヵ国に拠点を持ち、内戦や紛争状態にある中でも人々の生命を守り続けています。WFPの本部はいかなる理由があっても灯を落としてはなりません。」

 WFPは私たちの助けを必要とする8600万人の人々のために食料支援を継続し、必要とあれば規模を拡大させ支援を届けるため全力で取り組んでいます。2012年そして2018年のエボラ出血熱の大流行の時のように、WFPはその比類のないロジスティクスの専門性と現場での対応力により世界の食料供給と価格を綿密に監視し、優先業務のために食料ストックを事前配備することで影響力を発揮し続け、サプライチェーンの専門性を以てWHOと各国政府を支援します。

 この危機的事態に、国連WFPが支援活動を続けることができますよう、ご協力何卒よろしくお願い致します。

*ご寄付はこちらから⇒https://www.jawfp.org/oneshot?btn=NRCOV

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2020年4月10日