・装備不足”で最前線に出された医師、看護婦に、当局が”かん口令”(BW)

(2020.4.1 Bitter Winter 沈心然記者)

 命をかけて新型コロナウイルスの感染者を治療している中国の医師と看護師など医療スタッフが、中国政府の宣伝にまで参加するよう強要されている。ウイルス感染が始まってから、中国当局は検閲と遮断を通じて不都合な情報の拡散を防いできた。

 だが、明らかな事実は、新型ウイルスの危険性を警告する内部告発者などが取り締りを受ける一方で、様々な宣伝・隠ぺい工作で真相を隠した中国の政策のために、全世界が危険に陥っていることだ。情報だけでも適時に中国内外の医療関係者と共有されたなら、中国を含む世界の数多くの人命を救うことができたはずなのに。

 最前線で新型ウイルスの感染と戦い、今も戦っている医師と看護師など医療関係者。彼らや家族たちから、新型ウイルス感染の実態を隠そうとする当局の宣伝に自分たちがどのように利用されているのかについて、BitterWinterには大量の情報が寄せられている。

*共産党と口裏を合わせる

 「武漢市に派遣された当時、全ての医療スタッフは、『党の指示に従い、情報を漏洩しない』ことを誓う秘密の誓約書に署名しなければなりませんでした」- 北京の病院の勤務医である妻が武漢に派遣された、という男性が語った。彼女は、同僚が「武漢市のある病院で、1日に100人を超える人が死亡して死化粧(しにげしょう)が施された」と話しているのを偶然、耳にしたが、中国のマスコミの報道に、そのような話が全く出てこなかった、という。

 また他の北京の病院の医療スタッフによれば、病院の全職員が「政府の許可なしには、どんなインタビューにも応じない、伝染病に関する情報は口外しない」とする誓約書に署名させられた。「例えば、病院で新型ウイルスの感染者が10人が確認されても、”官営”の”報道機関が『2件』と言えば、私たちも『感染事例は2件』と語らねばなりません。中国共産党と口裏を合わせて、同じ内容を言わなければならないのです」とBitterWinter に話した。

 さらに、「共産党は、真実が知らされたら、自分たちのイメージが打撃を受けると恐れているのです。党が公表しない情報は、流布できません。事実をそのまま話したら、いつどのように処罰を受けるかもしれないのです」と付け加えた。

 中国南東部の浙江省の商業の中心地で、湖北省以外で新型ウイルスの感染が最もひどかった温州市の医療スタッフも、同様に、沈黙を強要された。その一人は語った。「1月末に病院長から、『これからは外部の取材に絶対応じないように』と言われました」「多くの同僚が、いかなる情報も口外しない、という誓約書にも強制的に署名させられた。当局は、社会不安が引き起こされるのを恐れているようです。武漢市に派遣された医師と看護師は、全員が署名しなければならなかった、ということです」。

*当局への信頼は底を突いている

 2月18日に中国共産党政治法律委員会は、新型ウイルスに関する情宣活動の指針を発表した。「恐れ抱かず、私欲なしに献身する」という新型ウイルスの感染との戦いの最前線の労働者の話を通じて、「勤勉と誠実を一層、奨励し、士気を高め、社会の前向きな活力を高揚させる」とする一方、「涙がこぼれるように人間的な話を入れた、より暖かくて肯定的な便りを伝える」ことに努める、という内容だった。

 この指針発表を受けて、中国の官製報道機関は、「武漢市の勤務を志願した共産党党員の医療スタッフ」の現地からの便りを絶えず報道し始めた。BitterWinterの取材に応じた人々は「そのような報道は常に不正確で、共産党のイメージ維持のために操作されたりもしている」と指摘する。

 「『武漢市の勤務を志願するという共産党員』に関する報道が、いつも事実であるというわけではない。武漢市での勤務が『くじ引き』で決められる事例も多いのです」と温州市のある病院医療スタッフが説明した。「上司の命令なので、誰がが武漢市に行かなければなりませんよ。自ら志願する人は少数に過ぎません」「当局が外に言っている話とは違い、感染防護服が不足しているにもかかわらず、派遣命令が下ります。拒否も出来ません。拒否すれば、それが記録に残され、将来、良い働き口を得るのが難しくなる」。

 中国南東部の江西省九江市の医療スタッフによれば、彼らは休憩を取りに家に戻ることもできず、適切な防護服も無しで仕事をせねばならない、という。

  (写真は防護服の代わりに「雨具」を着て、病院の受け継に座る看護師)

 新型ウイルスと死闘する医師と看護師は、当局ー正しい情報を意図的に隠し、偽ニュースだけを撒き散らすーに対する信頼を、もはや失っているようだ。

 温州市の他の医療スタッフによると、感染防護服が不足しており、使い捨てのはずのものを繰り返し消毒して使用しなければならない。

 「そのような”防護服”に何の効果があるというのでしょう… 武漢市で働いているかなりの数の医師と看護師には、春節も、食事として提供されたのはラーメンと卵パンだけでした。ある病院長は『それでも自分たちには食べ物もある』と言い、報道では『全ての病院に防護服と食べ物が充分』と伝えられていました。情報が遮断されることを目の当たりにして、どうすれば安心して仕事ができますか?」。

(BitterWinter韓国語版より・翻訳「カトリック・あい」高橋哲夫)

*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日5言語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。

 編集長のマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)は教皇庁立グレゴリアン大学で学んだ宗教研究で著名な学者。ー「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載します。

 

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2020年4月2日