・教皇、「既婚司祭」「女性助祭」の論争回避。可能性は排除せずー新使徒的勧告で(Crux)

 

Pope ducks debates over married priests, women deacons in Amazon doc

Pope Francis meets indigenous people from the Amazonian region during the second week of the Synod of Bishops for the Amazon at the Vatican Oct. 17, 2019. (Credit: CNS.)

ニューヨーク発-アマゾンに関する教皇フランシスコの使徒的勧告は、アマゾン地域とそこに住む人々の扱われ方に激しい怒りを示す一方で、明確化が期待されていた二つの論点ー既婚司祭と女性助祭の是非ーに踏み込むことを避けた。

 使徒的勧告「Querida Amazonia(最愛のアマゾン)」は、昨年10月に教皇が招集したアマゾン地域シノドスの結果をもとに、教皇がまとめた。章立ての社会的、文化的、生態学的、教会的の四つの偉大な夢を通して、全世界にアマゾンに対する「愛情と関心」を呼び起こすことを、教皇は望んでいると語っている。

 

*最短の勧告、アマゾン地域シノドス最終文書の精読を推奨

 フランシスコが教皇就任以来7年の間に発出した勧告の中で、最も短い32ページの文書は、アマゾン地域シノドスの最終文書「アマゾン:教会と統合生態学の新しい道」への答えとして役立つことを意図しているとし、「最終文書と別のものに置き換えるものでも、複製するものでもない」と念を押す一方、この最終文書は、この地域に住み、「苦しみを経験」し、「この地をこよなく愛する」人々の成果であるがゆえに、十分に読むように求めている。

*既婚男性の司祭叙階へ将来の可能性を残した

 制約を持たない自由な教皇の言葉遣いは、シノドス最終文書が概説した「優れた実績を上げている終身助祭」の既婚男性のアマゾン地域での司祭叙階について、勧告で直接、言及しなかったものの、その可能性を将来に残しているように見える。勧告では、信徒たちが一年に一度か二度しか司祭に会うことのできない地域で、定期的に秘跡、とくに聖体祭儀と告解を受けることを確実にするために「あらゆる努力が必要」と控えめに述べているだけではあるが。

 米国の一部の司教たちが今月10日にバチカンで教皇と会見したが、同席したソルトレークシティのオスカー・ソリス司教によれば、その時の会話の中で、教皇が司教たちにこう聞いたというー「既婚男性の司祭叙階の実現を信じていなかったが、(注:司祭不足の為に)聖体の秘跡に与れない人たちに、あなた方はどう対応しようとしていますか?」。

 ソリス司教はCatholic News Serviceとのインタビューで、教皇は、「(注:秘跡の恵みに多くの信徒が与れないような)遠隔地域で既婚男性を司祭に、女性を助祭に、叙階する問題は、今後、議論し、識別する問題」と考えている印象を受けた、と語った。

 また、アマゾン地域シノドスの事務局長を務めたマイケル・ツェルニー枢機卿は、12日の L’Osservatore Romanoとのインタビューで、「既婚男性の司祭叙階は、東方教会で既に以前から認められているように、認められる可能性はなお存在している」とする一方で、「必要なのは、教会共同体における新たな生き方、宣教の新たな推進力、新たな信徒の奉仕、継続的な生成、大胆さと創造性… 大きな課題は、信仰と福音宣教の刷新です」と述べた。

*一般信徒のリーダーシップに強く期待

 教皇はこの勧告で、司祭の重要性を強調する一方、一般信徒のリーダーシップを強く求めている。「アマゾン地域の教会には、その特性から、権威を備え、言語、文化、霊的体験、さまざまな場所での共同生活の仕方に精通し、聖霊が全ての人に与える多様な賜物にも心を開く、成熟した信徒のリーダーがしっかりと存在することが求められています」と指摘。「アマゾン地域の課題は、あらゆるレベルで特別な努力を教会に求めています。これは、信徒の活発で、幅広い積極的な関与を通してのみ可能です」と強調している。

 教皇はこの勧告の脚注で、教会法を引用する形で、聖職者の不足への対処として、司教が「教区の司牧活動への参加を、助祭、司祭でない人、あるいは人々の共同体に委ねる」ことができるとするのは、可能だ、としている。

*司祭不足の中での女性の役割を高く評価

 教会活動における女性の役割について教皇は、「司祭が信徒たちの所に来ない、何十年も来ないにもかかわらず」、女性が信仰を保ち続ける責任を果たしている教会共同体がアマゾン地域にある、ということを強調した。「このことは、視野を広げることを、私たちに教えています。教会についての私たちの理解を、機能的な構造に限定することのないように、と」。

 さらに教皇は、女性たちは「アマゾンの教会共同体で中心的な役割」を担っており、その役割には「教会の諸々の奉仕を含む、聖職者の資格を必要としない、自分たちの役割をよりよく果たすことのできる」持ち場も含まれる、としている。

 「強調しておきたいのは、そうした奉仕は安定的で、公に認められ、司教から委任されたものである、ということです。そうすることで、女性らしいやり方を続けながら、共同体組織に、最も重要な決定と共同体の進路に、実際的で効果的な影響を与えることができるのです」と言明している。

 昨年10月のアマゾン地域シノドスでの議論と、それを受けたこの勧告の準備作業を通して、教皇とシノドスの主催者たちは、既婚男性の司祭叙階と女性助祭の是非をめぐる議論が、会議場外での主題となっていたことに不満を表明していた。このことが、教皇が今回の勧告で、この地域が必要としていることと願望についての直接の提言と説明を混ぜ合わせ、この二つの議論には直接触れることに重きを置かなかった動機になっている可能性がある。

*先住民や弱者を置き去りにする不正義、環境破壊を強く批判

 また、教皇はアマゾン地域が「生態学的災害」に直面しているが、その問題に対処するにあたって、そこに住む人々から土地を引き離すことはできない、と述べ、人々よりも地域に関心を持つ環境保護主義者に批判的な立場を示した。そして、2015年に自身が出した環境憲章Laudato siを引用して、「真の生態学的アプローチは常に社会的アプローチになります。地球の叫びと貧しい人々の叫びの両方を聞くために、環境に関する議論に正義の問題を組み込む必要があります」と訴えている。

 教皇はさらに、先住民の扱い、「自分自身を守る手段のない弱者」を置き去りにする力の不均衡、大規模な森林伐採、教会が犯した罪を含む植民地化と腐敗の長い歴史を、強く批判した。「モーセがしたように、イエスがしたように、神が不正義に直面してなさったように、私たちは怒りを感じる必要がある」と言明し、 「前の世紀にアマゾン地域でなされた不正で残酷な出来事に、深い嫌悪を抱くのはもちろんですが、現在起きている搾取、虐待、殺害の現実に、もっと敏感になる必要があります」と強調した。

 アマゾン地域の「夢」に関して、教皇は、この地域の人々と各国政府の両方に対して、何が危機に瀕しているのかを認識するために協力するように呼びかけ、「私たちの地球の均衡はアマゾン地域の健康状態にも頼っているのです」としている。

 そして教皇は、この問題を地域任せにせず、各国政府と国際機関の集団的な協調行動が必要であり、教会もそれを支援、支持するよう、求めている。「アマゾンの聖性」について黙想する中で、教皇は「この地域の特徴が、普遍教会への招きと挑戦として役立つ」とも述べた。

 

*地域の伝統、異文化受容の意義

 昨秋のアマゾン地域シノドスで、ある論争が起きた。会議参加者の中に、この地域の伝統的な裸の妊婦の小さな像を、会議のいくつかのイベントに持ち込んだのだ。「パチャママ」と呼ばれるこの像は、ローマのある教会に置かれていたのを盗まれ、「異教の偶像だ」とする保守の活動家によってテベレ川に投げ込まれた。

 この勧告で教皇は、異文化受容について言及し、聖ヨハネ・パウロ二世の言葉を引用して、「教会の歴史は、キリスト教が単に一つだけ文化的表現を持っているわけではない、ということを教えている」と述べ、「必ず偶像崇拝と見なすのではなく、何らかの方法で先住民族のシンボルを取り上げることも可能です」と語る。さらに、「魂の宣教師は、時として、不完全、部分的、あるいは誤った宗教的表現に解決策を求める正当な必要性と配慮を見出そうと努めるでしょう。異文化受容の聖性をもって、対応しようとするでしょう」としている。

 また、「最大の危険は、喜びを嫌う者、あるいは人間的な問題や困難に無関心な者と自分を印象づけ、人々がキリストに出会うのを妨げることです」と警告し、 「今日、聖性が私たちのエネルギー、活力、喜びから何も取り去らないことを示すことは欠かせません」とも述べている。さらに、福音の異文化受容は、この地域の司祭職と信仰生活により大きな使命感をかきたてる助けとなりうる、と付け加えている。

*「夢」が現実になるように

 勧告の締めくくりに、教皇は、アマゾン地域への自分の夢が、この地域と教会全体にとって現実のものとなるように、聖母マリアに祈りを捧げた。

 「先住民の人々から、私たちは、アマゾン地域について深く考え、単に解析することなく、私たちを超越する貴重な神秘を正しく評価するよう学ぶことができます。私たちは愛することができます。単に使うだけでなく、愛が深い誠実な関心を呼び起こせるという結果をもって」 「さらに、私たちは心の底から、この地域を守るだけでなく、その一部だと感じることができます。そうすることで、アマゾン地域は、再び、私たちにとって母のようになるでしょう」。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2020年2月13日