・”性的虐待サミット”受けスイス、米など動く-日本の司教団も積極対応を(「カトリック・あい」解説改)

(2019.3.2改訂 「カトリック・あい」)

 「教会における未成年者保護」がテーマの全世界司教協議会会長、主要修道会総長たちの会議-分かりやすく言えば”性的虐待サミット”が終わって数日、出席者たちが自分たちの国に結果を持ち帰って、次の段階-具体策の検討-に入る時期を迎えた。司教協議会会長、高見大司教が出席した日本の司教団も当然、その取り組みに着手せねばならない。

 ”サミット”で座長を務めたフェデリコ・ロンバルディ神父(イエズス会士)は24日の最終会見で、バチカンとして、次のような3つの具体的な措置を取ることを明らかにしている。①バチカン市国内の未成年者と成人弱者を保護する法規制を盛り込んだ教皇フランシスコの「Motu proprio( 自発教令)」の近日中の発表②全世界の司教たちに対し、児童保護に関する法的、司牧的義務と責任を説明した「vademecum(規則書)」の送付③未成年者保護と虐待への対応に必要な人員や専門知識が不足している司教協議会を支援するための、専門家による実戦的な”タスク・フォース”を設置-だ。

 すでにスイスの司教協議会は2月25日から27日まで臨時の総会を開き、性的虐待被害者対策の強化を決定、3月1日から実施することを決めた。米国司教協議会も6月をめどに具体的な新ルーツの策定に入ることを明言している。

 スイスの場合、児童性的虐待に関しては教会指導者が司法当局に報告する義務がすでに定められていたが、報告の対象を現在成人している人にも広げ、被害者自身が報告を拒んだ場合でも、教会指導者はその事実を知った場合、可及的速やかに当局に報告しなければならない、と改められた。また各教区は、性的虐待を防止し、そのための基準を策定・実施する責任者を指名することも義務化する、などの措置をとる。

 日本では東京教区などが今年の「性虐待被害者のための祈りと償いの日」を3月22日とし、教区の全信徒の参加を呼び掛けている。そうした対応も必要だが、今、まともな司祭、信徒たちが知りたがっているのは、サミットを受けて、司教団が日本の教会として、どのように受け止め、反省し、具体的にどのような取り組みをしようとしているのか、ではないか。

 教皇フランシスコ肝いりの未成年者保護委員会のメンバーで、会議の準備にもあたったハンス・ゾルナー神父(イエズス会士)はサミットを受けてなすべきことは、まず、司教たちが「責務を果たす意思を持ち、透明性を確保し、説明責任を果たす姿勢を明確にする」ことである、とし、特に「説明責任」について、「会議で提起された考え方と対策案をもとに作業する必要がある。それには神学と教会法、さらに教会組織の核心に迫る必要がある」と司教たちに課題を提起している。

 日本の司教団も、上記のバチカンの規則書の送付などを待つことなく、サミットで示された三つの原則-責任感を持って、透明性を確保しつつ、説明責任を果たす-にもとずき、日本の司教団も真摯に取り組みを進める“やる気”を見せてもらいたい。取り組みの手掛かりとして、教皇が示された”21項目のガイドライン”などが既に公けになっている。その際、「説明責任」とは教皇、バチカンだけに対して、と”誤解”せず、日本の教会、全司祭、全聖職者、全信徒に対して、でもあることを、肝に銘じてほしい。

 小欄では、今回の”サミット”前に、以下のように書いた。

 「日本では、聖職者による性的虐待が大きな問題として世界的に表面化し始めた2002年に、司教団が『子どもへの性的虐待に関する司教メッセージ』を聖職者、修道者、信徒当てに発出し、『不幸にして日本の教会において聖職者、修道者による子どもへの性的虐待があったことが判明いたしました。私たちはこの点に関してこれまで十分に責任を果たしてこなかったことを反省します。私たち司教は、被害者の方々に対し誠実に対応するとともに、その加害者である聖職者、修道者に対しては厳正に対処いたします』と約束した。

 翌年には『聖職者による子どもへの性虐待に対応するためのマニュア』を発行、カトリック中央協議会に『子どもと女性の権利擁護のためのデスク』を設置、その次の年に全国アンケート調査を実施し、回答111件の7割が『(注:聖職者によるセクハラがある』と答え、身体的接触があった、との訴えも17件に上った。だが、その調査結果を『カトリック新聞』で公表したにもかかわらず、現在に至るまで、この回答結果への具体的な対処を含め、全国的な取り組み、対応がなされた、とは聞かない。

 福岡、大阪など教区によっては相談窓口を設け、実態把握や司祭教育に努めているところもあるようだが、その間にも、2009年に大阪でカトリック系大学の学長を務めたこともある司祭が信徒の母子に対する強制わいせつで逮捕されるなどの事件が起きている。

 事件化しなくても、神学生時代に女性との不適切な関係を繰り返し、所属教区からレッド・カードを受けながら、他教区に移って最近叙階し、また同じことが疑われ、彼を信頼していた信徒たちを傷つける司祭もいる。2013年には、何の釈明もなく突然、教区長やその他の要職を放棄して出奔するという、司祭、信徒たちに大きな打撃を与える非常識極まる行動をとり、関係の問題も疑われながら、本人も司教団も未だに説明責任を果たさずにいる高位聖職者もいる」。

 このようなことを二度と繰り返してはならない。以上のように未成年者に対する虐待にとどまらず、日本の場合は、成人女性に対する聖職者の不適切行為が少なくないようだ。小欄の周りでも、直接問題となった司祭、神学生がいる。そうしたことが、一般信徒、とくに教会活動に熱心な誠実な信徒の信頼をどれほど損なっているか。そのことを、改めて認識したうえで、具体策に取り組まねばならないだろう。

  「聖職者による性的虐待の問題への対応はこれまでしっかりなされてこなかったし、今もそうです」-バチカンで28日行われた記者会見で、教皇フランシスコ肝いりの未成年者保護委員会のメンバーで、会議の準備にもあたったハンス・ゾルナー神父(イエズス会士)が述懐した。性的虐待被害者の傷を癒し、二度と繰り返されない策を講じ、カトリック教会の信頼を回復させる展望を開きたい、という教皇フランシスコの強い思いで開かれたサミット。それが終わって4日後の、会議の準備に当たった中心人物のこれが現状評価だ。

 バチカン暫定報道官の声明によると、会議を受けて25日にバチカンの国務省幹部、関係部署と組織委員会のトップ、そして会議の座長を務めたフェデリコ・ロンバルディ神父が出席して開かれたフォローアップ会合では、会議を受ける形で、「神の民」が強く求めている具体的な方策について議論が集中し、24日の会議閉幕後の会見で公表された文書と支援チームの重要性が強調された。そして、それらが可能な限り明確で、時宜を得た形で、可能な限り詳細な内容とすることが、確認された、という。

 だが、関係者の一部が期待していた「それ以上」のものは合意として打ち出されることはなく、具体的な発表もなかった。これは見方によれば、自国に会議の成果を持ち帰って、具体的な取り組みを始めるように、会議に参加した世界の司教協議会会長や主要修道会の総長たちにボールが投げられた、といってもいいだろう。

 バチカン教理省長官補のチャールス・J・シクルーナ大司教が既に会議直前の記者会見で述べているように、「(注:会議に各国の司教協議会の代表として参加した)司教たちは、自分の教区に戻って作業を続けることになる」のだ。会議を受けて、それぞれの国、地域に遭った具体策の検討、実行は、各国、地域の司教団に委ねられている。

 教皇はサミット閉幕のミサで「児童虐待の根絶へ”総力戦”に教会の総員参加」、教会指導者たち、主に世界の司教協議会の会長たちにその先頭に立つよう訴え、具体的に、司教協議会による指針の強化と見直しー起きた虐待を隠蔽したり、深刻にとらえないことのないように、教会のあらゆる組織、場面で防止のための、新しい、効果的な対応を創出するように、と求められた。この教皇の強い思いは、世界の、日本の信徒たちの思いでもある。司教団が、そうした思いにしっかりと応えることを期待したい。

(南條俊二)

 

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2019年2月28日