・カトリック教会で女性の役割に変化の動きー女性たちが声を上げ始めた(CRUX)

 Signs suggest a turning point on the role of women in the Church
(2018.3.8 CRUX CONTRIBUTING EDITOR  Claire Giangravè)

ローマ発―カトリック教会内部での女性をめぐる緊張は信徒の生活の中で長い間存在してきたが、バチカン内外の会議や集会、そしてかずかずの不正を暴くメディアの発信などの活発な動きは、この問題が大きな転換期を迎えていることを示している。

 このほどローマで行われたVoices of Faithの会議に出席した女性たちは 「カトリック教会は大変重要な岐路にさしかかっている」と言い、また女性に焦点を当てているバチカン誌の編集者は「教会内文化革命」が起きようとしている、と語っている。時を同じくして、バチカン内で開かれていたラテンアメリカ司教会議には、女性の役割についての討議のために40人の女性が招かた。

 これら女性の役割の展望はそのトーンや集中度の違いこそあれ、一つの共通した脈路は見えてきた「変わる時代が来た」と言うことだ。カトリック教会は「#MeToo」のような世界中で声の上がった熱いフェミニスト運動だけでなく、内部からの重大な変化にも直面しているのだ。

(注・#MeToo=ハッシュタグミートゥー=は、「私(me)も(too)」を意味する英語にハッシュタグ( #)を付けた言い回し。 セクハラなど性的虐待の 被害体験を告白・共有する際にソーシャル・ネットワーキング・サービスで使われる。 2017年10月、ハーヴェイ・ワインスタイン( ハリウッドの映画プロデューサー)によるセクハラ疑惑が報じられたことを受け、女優の アリッサ・ミラノが同様の被害を受けたことのある女性たちに向けて’me too‘と声を上げるよう呼びかけたのが、きっかけで、世界的な動きになった)

Voices of faith会議
過去4年間、カトリック教会内の 重要で、女性に関する最も進歩的な地位の多くを代表する女性たちが参加するVoices of Faithの年次会議がバチカン内で開催されていた。ところが、バチカンの信徒評議会と家庭評議会が統合されてできた「信徒・家庭・いのちの部署」の長官であるケビン・ファレル枢機卿が、会議が指名した11人の講演者のうち3名を承認せず、会場をバチカンの外、テーベレ川を越えたイエズス会本部に移さざるを得なくなった。

 アイルランドのメアリー・マカリース元大統領は、多くの問題の中でも、とりわけゲイの権利を擁護しているために「好ましからざる人物」とされていたが、水曜日の記者会見で、女性が”be there when the sausage is made”(聖変化に立ちあう)司祭職のような、より重要な役割を担えるよう、カトリック教会に要求した。「我々、話を聞いてもらえない者たちは、発言のルートを与えられないシステムの中で発言しようとしているのです」と述べ、第二バチカン公会議、世界人権宣言、そして教皇たちの”恩着せがましい約束”の後も、何年にもわたって、意見を聞いてもらうための場所を与えられていない、と訴えた。

 Voices of Faithのシャンタル・ゴッツ事務局長は、女性たちが性的虐待、ハラスメントや不平等に対し、ますます抗議の声を上げるようになっている今、女性団体は「変革の必要が差し迫っている、とはっきり言っており、危機的局面に達している」と言明。危機は、女性の召命が減少し続けていることにも表れているが、「これは教会が女性に適切な役割を与えることができないことの結果です」と付け加えた。

修道女たちの反乱
『Ten Things Pope Francis Proposes to Women(教皇フランシスコが女性たちに示す10の提案)』というスペインで出された本の序文で、教皇は「社会の中にしつこく残る男性優位主義的な精神性 が、カトリック教会の中にも広く存在し、 女性に求められる奉仕が、時に奴隷的な仕事に変質している」と警告した。

 バチカンの半公式新聞『オッセルヴァトーレ・ロマーノ』が発行している月刊誌『Woman Church World』3月号では、この教皇の見解をさらに詳しく解説し、世界中で「時に年金や正当な給与も与えられないまま、男性の聖職者に隷属し、”家内労働”で終わってしまう修道女たち」の冷遇、軽視された実情を記事にしている。例えば、シスター・マリーという名の修道女は「聖職者のためにどれほど尽くしても、その食卓に呼ばれることはほとんどありません」と訴えた。

 Woman Church World編集者のルセッタ・スカラフィア女史は、Cruxのインタビューに「カトリック教会内の女性の問題は昔からありましたが、今、それがますます大きく明らかになってきています。修道女たちが昔のように言いなりでなく、今起きていることに関心をもっているからです。そして、変革を要求しています」と語った。中高年の世代とは異なる教育と人生の経験をした若い女性たちだけでなく、年上のシスターたちも女性問題に関心をもつようになっており、「彼女たちが置かれている立場に怒りを覚えている80歳から90歳のシスターたちに会いました。今まさに、シスターたちが、本当の女性の権利を求めているのです」と語る。

 「さらに、こういう話をいつも聞きます。男性聖職者に従事するする仕事から離れていく修道女たちの動きを『自発的追放』だというのです。これを、外の世界に影響された『修道女たちの反乱』とするのは間違いです。#metoo運動に影響されるほとんどの女性信徒と違って、修道女たちは 女性の学者たちの聖書の解釈学的、神学的な著作をもとにした、彼女たち自身の革命を作り出しているのです」。さらにこう指摘する。「福音書を、あるがままに読むことで、彼女たちはどんなに不正な待遇を受けていたかを感じるのです」。女史によれば、要点は「内面的な文化革命」ということなのだ。

バチカンの女性たち
Voices of Faith会議でカトリックのフェミニストたちがバチカンの「閉鎖された盾」を打ち砕く約束をし、ニューヨークタイムズはシスターたちの公民権剝奪状態を特集した一方、バチカンそのものは粛々と教皇フランシスコの対話路線に沿って進んでいる。

 例えば、ラテンアメリカ司教会議 (CAL) では、「ラテンアメリカの女性たち、カトリック教会の仕事のコラム」と題し3月6~9日にかけ総会が開かれ、社会における主要な女性の問題について40名の女性を含めて話し合われた。教皇フランシスコが、コロンビアのボゴタで60名のラテンアメリカの司教たちへの演説の中で、女性に対し男性優位的態度を意味する「machismo」を非難したことで議題に取り上げられたのだ。
異なる宗教や、カトリック信徒の40名の女性たちが議論に参加し、3月9日には教皇謁見する。世界女性の日に当たる今日は、会議の参加者たちが、バチカンで勤務する多くの女性たちと夕食を共にすることになっている。CALでは、より多くの女性を起用するために、教皇がこのほど示した案件をもとにして、議論を進める。

 教皇フランシスコは昨年、女性助祭の実現可能性を検討するための男女からなる委員会を発足させる一方、「信徒・家庭・いのちの部署」の次官に二人の女性信徒を起用した。だが、スカラフィア女史によると、教皇の助言機関である枢機卿顧問会議(C9)に対する女性の発言を認めることや、司教の任命の検討に修道女や女性宣教者を参加させることなど、まだ解決されていない課題が残されている。「このような問題への取り組みが行われなければ、カトリック教会は早晩、重大な結果を招くことを覚悟しなければならないでしょう」とし、「沈黙での自己満足は、もう終わろうとしているのに、司祭たちはそれに気づいてさえいません」「すべてが自分たちの手の中で破裂しようとしていることに、分かっていないのです」と訴えた。

教皇フランシスコと女性たち
カトリック教会での女性の参加を増やそうとする教皇フランシスコの役割については、希望から失望まで意見は様々だ。

 ゴッツ事務局長は教皇の積極的に対話に臨む姿勢を評価し、教皇フランシスコの女性参加への関心に対して楽観的な意見だ。「私は教皇が女性たちに耳を傾け、カトリック教会の時代遅れの女性恐怖を克服するためのリーダーシップを取ってほしい、と願い続けます」と言う。

 一方で、マカリース元大統領は「教皇フランシスコは、『だんだん消えて、ついには失望に終わる』という道程をたどっています」とし、「教皇が進める聖職者による性的虐待への取り組み、 家庭に関する使徒的勧告『Amoris Laetitia(家庭における)愛の喜び』の発出でも、何も事態は変わっていない」と悲観的な見方をとっている。

 だがまた、スカラフィア女史は、教皇フランシスコによる二つの重要な動きが「カトリック教会の女性たちの役割に深いインパクトを与えました」と語る。一つは、司教あるいは司教によって特別に指名された司祭だけでなく、すべての司祭に、堕胎の罪の赦しすることが認められたこと。もう一つは聖マリア・マグダレナの記念日を、男性の使徒たちの祝日と同じレベルの祝日に格上げしたことだ。そして、こう付け加えた。「まだ教皇ができずにいることがあります。それは女性たちが言わねばならない言葉を聞くこと」だと。

(翻訳・岡山康子)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載します。

このエントリーをはてなブックマークに追加
2018年3月17日