・「良心の囚人」が適切な治療を受ける権利を取り上げられて死んでゆく…中国(BW)

 中国の刑務所での懲役を言い渡された反体制者と宗教の信者が治療を受けられないまま死んでいる。重病人であっても肉体労働を強要されている。重病を患った良心の囚人が医療を受けられず、療養のための仮釈放を拒否されて拘束中に死亡する事件が後を絶たない。

 中国共産党 の腐敗を暴いた 人権 活動家、曹順利(ツァオ・シュンリ)氏はいくつもの病を患っていたが、親族が療養のための仮出所を繰り返し申請したにもかかわらず、昏睡状態に陥るまで治療を受けられなかった。最終的には病院に運ばれたものの、その数日後に死亡した。

 ノーベル平和賞を2010年に受賞した劉暁波(リウ・シャオポー)氏は刑務所内で末期の肝臓がんと診断された。彼は療養のために仮出所を認められてからわずか1か月後に死去した。

 チベットの環境活動家、テンジン・チュウダク氏は極度に衰弱した状態で釈放され、2日後に亡くなった。

 反体制派の著作家で楊天水(ヤン・チャンシュイ)のペンネームで活動していた楊同彦(ヤン・トンギャン)弁護士は療養のための仮出所を何度も申請したが、拒否された。彼が病気で亡くなったのは仮出所を認められてからわずか3か月後だった。

 人権活動家の黄琦(フアン・チー)氏姚文田(ヤオ・ウェンチャン)氏は現在も懲役中だが、2人とも重い病を患っている。家族が療養のための仮出所を何度も申請しているが実現していない。

 中国人弁護士、江天勇(ジャン・チャンヨン)氏は釈放されたものの、今も治療を制限されている。人権擁護派の中国人弁護士、覃永沛(タン・ヨンペイ)氏は、ラジオ・フリー・アジアのインタビューに答えて、政権が江天勇氏を厳しく管理し、治療を受けさせないのは、江氏を排除して彼が被った拷問や迫害を隠蔽するためではないかと推測した。

 カナダに拠点を置く政治団体、民主中国陣線の(チン・ジン)主席は「そのような政治家や活動家は、死刑判決を受けなかったとしても、中国共産党がなお彼らを消し去る方法を画策するはずだ」と語っている。

 2016年9月に中国国務院新聞弁公室が発行した白書『中国司法分野における人権保障の新たな進展』によると、刑務所と 拘留所 は「拘束者の医療記録を作成している。常駐の医師が毎日監房を巡回し、刑務所や拘留所を出て医療を受ける必要がある被収容者を速やかに地域の病院に搬送している」という。しかし、共産主義の中国においては、いわゆる良心の囚人、宗教を信じたために刑を言い渡された人などがその権利を持っていないのは明らかだ。

*重病の信者が治療を拒否される

 趙明青(ジャオ・ミンチン、仮名)氏は中国最大のキリスト教系 新興宗教団体 で、1991年の設立以来、中国共産党による残虐な弾圧にさらされている 全能神教会 の信者である。2017年、彼は信仰を理由に逮捕され、拘束された。1年がたったが、体に不調を覚えるようになった。足が腫れ、手足に力が入らなくなったのだ。繰り返し治療を求めたが、拒否され続けた。

 ついに趙明青氏は受診にこぎつけたが、検査結果は残酷だった。彼は肝硬変を患っていた。かなりの重度であり、入院しなければ合併症を引き起こすだろうと医師は告げた。しかし、拘置所の担当者は肝臓の薬の処方だけを許可し、彼を監房に連れ戻した。重い病状にもかかわらず、趙明青氏は「邪教 団体を組織し、利用して法執行を妨害した」として懲役2年の刑を言い渡された。

 肝硬変の患者が過度に働けば当然病状は悪化するが、趙明青氏は1日12時間の労働を強いられた。さらに毎日3時間の軍事訓練にも耐えなければならなかった。刑務所の規則を暗唱できなかったときは、罰として2時間起立させられた。極寒の冬季に冷たいシャワーを浴び、残飯を食べるよう強いられた。常に足元がふらつき、めまいが消えず、呼吸困難に悩まされ、継続は難しかった。

 しかし彼に許された唯一の治療は1日4錠の肝臓の薬の服用だけだった。効果の高い治療を受けられない上、厳しい肉体労働が重なって病状は急激に悪化し、ついにほとんど歩けなくなった。体温が40度に跳ね上がったときでさえ、医師に漢方薬の注射を打たれてから再び12時間労働のシフトに戻らされた。

 3か月後には腹水がたまってしまった。腹部に体液が蓄積した異常な状態である。法律上、この状態に陥った囚人は療養のため仮出所ができることになっている。しかし趙明青氏は再び漢方治療を施され、作業場に送り返された。彼の労働量は減らされなかった。

 刑期の残りが2か月を切ったとき、医師は彼に、病状が進んで治癒の見込めない状態になっていることを告げた。拘束中の死亡を避けるため、刑務所当局は釈放のときまで刑務所病院に滞在することを許可した。治療のできる時期はとうに過ぎ、趙氏の病状は悪化し続け、腹水も排出できなかった。すっかり衰弱した彼は息も絶え絶えだった。それでもなお、療養のための仮出所申請は、彼の状態が「死ぬほどではない」との理由で却下され続けた。趙氏は刑期を終えるまで釈放を認められなかった。

 今このときも、全能神教会の信者は信仰を捨てる宣誓書への署名を繰り返し強いられている。

*治療を拒否されて死亡

 2014年、中国中央部、河南 信陽 に住む全能神教会信者、劉士金(リウ・シジン)氏は信仰を理由に懲役3年を言い渡された。刑務所は劉士金氏が重病人であることを知っていたが治療を受けさせず、彼の病状は悪化した。そして2016年6月、深刻な病状のため、刑期満了を前に釈放された。そのときには何を口に入れても吐いてしまう状態だった。彼は胃がんと診断されたが、刑務所にいる間に病気の初期段階は過ぎており、いかなる治療ももはや効果はなかった。釈放から4か月後、劉氏は71歳で亡くなった。

 中国南部、広東省の鄭坤長(ジェン・クンチャン)氏も全能神教会の信者であったために懲役3年の刑を受けた。彼は刑務所内で深刻な腸閉塞を患ったが、治療を受けられないまま病状を悪化させた。病気の知らせを受けた家族が療養のための仮出所を申請したが、刑務所は全能神教会の信者は「特別な囚人」だと主張し、出所を認めなかった。2017年5月になってようやく療養のための仮出所を認められたが、あまりに重症だったため、多くの病院が彼の受け入れを拒んだ。鄭氏は、2018年4月に35歳の誕生日を目前にして死去した。

 2004年、中国南西部、四川省巴中市の全能神教会の信者、唐勇軍(タン・ヨンギュン)氏は懲役5年を言い渡された。2006年3月、何度も療養のための仮出所申請を出していたにもかかわらず、彼は刑務所の中で一度も治療を受けられないまま病気で亡くなった。若干30歳だった。

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*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日8言語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。編集長のマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)は教皇庁立グレゴリアン大学で学んだ宗教研究で著名な学者。ー「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載します。

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2019年10月8日