・「日々働くことが『召命』につながる」に共感ー国際若者フォーラムに参加して

“International Youth Forum(国際若者フォーラム)”に参加して

山田 真人(NPO法人せいぼ 理事長)

 バチカン信徒・家庭・いのちの部署主催の第11回“International Youth Forum(国際若者フォーラム)”が6月19日から22日にかけて、ローマで開かれました。昨年10月の「若者、信仰、そして召命の識別」をテーマにした世界代表司教会議(シノドス)とそれをもとに教皇フランシスコがさる4月に出された使徒的勧告「Christus Vivit(仮訳:キリストは生きておられる)」を受けたもので、100か国を超える国から集まった約250人の若者がワークショップ、グループワークを通じて、勧告で教皇が示された内容をそれぞれの地域、国でどのように生かしていくことができるか、という問題意識の中で、各々の司牧の現状と課題について分かち合いまいした。

 使徒的勧告「Christus Vivit(仮訳:キリストは生きておられる)」は、全てのキリスト教徒の若者に対して発信されており、自分の信仰の芽生えと、それに対する確信を持つように促し、同時に「個々が持つ召命」(personal vocation)の中で、その信仰を成長させることができるように、勇気づけることが意図されています。全体の構成は、聖書や聖人の中にみられる若い人々の信仰の姿を描いた後、イエスご自身も神の言葉に臨機応変に答える若い姿勢を常に持っていたことが書かれています。そして後半では、現代の情報社会や難民の問題にも触れ、社会問題と行動的に関わり、若者が自らの召命を深め、年上の人々と協力し、教会を作っていく「protagonist(主人公)」であると強調する構成となっています。

 このような勧告を基に若者が3日間を過ごし、最後に教皇謁見の恵みにあずかり、昨年秋の若者シノドスと使徒的勧告を受けた各国の若者の具体的行動を促する意味でよい機会となりました。以下の報告では、今フォーラムの内容を要約し、具体的にどのような実りが日本に対してあったか、そしてシノドスの歩みと足並みを揃えていくために、どのような課題があるか、について今後の取り組みにつながる理解を共有いただければ幸いです。

*使徒的勧告「Christus Vivit」と若者シノドス

 フォーラムのプログラムの最初に、参加司祭から、使徒的勧告を参照した上での昨年秋のシノドス後の教会の歩み、そして若者の召命の在り方について、講話がありました。さらに、シノドスに参加した若者の紹介、短い体験についての共有の時間があり、シノドスに同席した喜び、各国の若者の司牧の取り組みについて、簡潔な紹介がありました。その中で、特に印象的であったものを紹介します。

Fr. Rossano Sala:若者の召命について

 サレジオ会司祭のFr. Rossanoは「vocazioni a una special (固有な献身に繋がる召命)」までの若者の歩みを整理しました。円を通して勧告第5章の”Path of Youth”に言及した部分が印象的でし「Youth(若者)」とは「個性の成長の段階を表す言葉」(137項)であり、円では、それが「Ii tuo essre per gli (他者のための存在)」を軸に、「familia(家族)」、「lavoro(仕事)」などを経験しながら、固有の「vacazioni(召命)」へ向かっていくとしています。

*現代の若者の召命の在り方

 こうした若者の姿を、使徒的勧告英語版の138項では、「restlessness(落ち着きのなさ)」としていますが、同箇所で、この若さが「our relationship with the living Christ(生きておられるキリストとの関係性)」に由来し、展開するものであることが述べられています。

 私を含め、若い参加者は、信徒使徒職として、忙しく働いています。しかし、イエスが神の声を聴いて迅速で迷いのない行動をしたのと同じように、日々働くことで、「召命」に向かうことができるという内容に共感し、シノドスに同席した若者も含め、現代の「召命」の考え方の新鮮さを感じることに繋がりました。

*グループワークと分かち合い

 100か国から来ている若者が、それぞれ英語、イタリア語、スペイン語、フランス語の班に分かれ、10人から15人程度のグループで、議論、分かち合いをしました。議題を2日間に分けて分かち合いをし、各国の司牧状態を共有しました。特に印象的だった内容について以下にまとめます。

 ”Which aspects of the apostolic exhortation are most relevant to our specific context?”

 この問いは、「使徒的勧告のどの部分が、私たちの具体的な司牧の文脈に適

応できるか」という具体的な問題意識を喚起し、各国それぞれの状況を共有する引き金となりました。

 台湾の参加者によれば、カトリックが人口の5%にもかかわらず、「そのうち7人の1人の割合で政府に対する非暴力の抗議運動に発展した」とのことでした。ナイジェリアからの参加者は「内紛が多い中で、使徒的勧告は神からの “Gift”」と言い表していました。「specific context(具体的文脈)」を深めていくと、スコットランドの若者からは「教区単位、さらにはその中の共同体によっても、抱える社会問題の相違は激しく、常にオンラインでの情報発信などが欠かせななくなっている」「そうした手段を通じて、教区ごとのニーズを整理することが重要」との報告がありました。

 スコットランドでは、最大宗派のThe Church of Scotland スコットランド教会=英国国教会に属するが、人事権など独自に持つ)の動きも意識されているようです。その中には、 “The Guilt” という団体があり、その団体は地域の共同体の中で、特に緊急の課題を持つ分野を “Priority Areas”としてまとめています。さらに“Priority Areas”で起こっている問題に取り組むチャリティ団体が、民間のものも含め、あらゆる団体が紹介されている、といういことでした。地域の司牧的問題を、包括的にとらえるために参考にできるのは間違いない、という印象を受けました。

 参加者から直接は語られませんでしたが、スコットランドでは、歴史的な背景から、キリスト教の他教派の情報発信にも目配りする必要にあるかもしれませんし、他のチャリティ団体、NGOとの積極的な繋がりに見習う部分があるのかもしれません。

 ”What impact has the synodal journey had on our Church communities?”

 カトリック教会の現代化に道筋を付けた第2バチカン公会議(1962年~65年)を受け、当時の教皇、パウロ6世が開催を決めたことから始まったシノドス(世界代表司教会議)の「シノドス」という言葉は、国によって、とらえ方が異なっている、と感じました。

 グループに所属する参加者の国の多くは「教皇庁によって決定された教会と信徒が「Synod(ともに歩む)」ために、具体的な方針を固めた多くの文書があるが、多くの若者はそれを読んだり、分かち合ったりはできない」という意見でした。この使徒的勧告は、シノドスは「social commitment is a specific feature of today’s young people(社会に貢献している姿は、具体的な形で現れた今日の若者の特徴である)」(170項))と述べているが、「そのように若者を認識している教会のことを、逆に、若者が認識していない、という現代の若い信徒の抱える問題が出てきました。

 この問題点の解決策として挙げられたのは「若者同士が具体的な活動を展開し、出会いながら、『シノドス』の方針を共有する場所ができる」ということでした。そのためには、教会活動、もしく使徒的勧告で具体的に触れられている社会問題に関わる非営利団体、すなわち社会貢献企業を含む、キリスト教の精神で活動をする団体での繋がりを通して、教会が発するメッセージ、優先課題に出会うこと、つまり「シノドス」に連なることが必要だ、ということでした。

 この他にも2日間で、大きく分けて3つの問いについての分かち合いがありました。国、その教区によって問題は異なっていても、シノドスの動き、それに基づく教皇のメッセージ、使徒的勧告”は、若者が教会と繋がり、良い意味で教会に働きかけ、声を届けるために必要な「pep talk(激励の言葉)」、「encouragement(勇気付け)」、「reference point(基準点)」であるということで意見がまとまりました。それぞれの国に戻った後、具体的な展開が進むことを、最後に祈りました。

*参加メンバーの持つ多様性

 100か国以上の国籍を持つ若者が、全体で集まり、それぞれの司牧的文脈の違い、共通点が認識され、お互いに多くの発見がありました。グループワーク だけではなく、三度の食事も毎回テーブルに違う国籍の参加者が集まることで、カトリックの現地の実態や情勢など様々なトピックについての意見交換の場ともなりました。いくつか以下に、例を紹介します。

 グループ内にいたパレスチナ出身の女性は、自国の98パーセントがイスラム教徒で、キリスト教徒は少なく、さらに宗教的混在が原因で、若者は自分がキリスト教徒であることを強く主張できず、具体的な活動を見つけにくい、とのことでした。そのため、現地では「オンラインでアンケートを採るなど、なるべく多くの若者の声を、シノドスの前の準備として取り入れる努力をした」とのことでした。

 ボツワナ出身の女性は、一つの国内で、「immigration(移民)」の問題が多くあり、教区一つを取り上げても、その教区の特徴的な問題を絞ることは難しく、常に変動するとのことです。日本のカトリック信者人口は、今回のシノドスに対する準備文書の回答を基にすれば0.34%です。その中で、カトリック信者であることを表現することは、容易でありません。

 日本からは、キリスト教徒が少ない中では、具体的な交流がすぐには実現しないため、オンラインでの情報発信での多くの若者が情報を獲得できることは重要だということ、日本では「immigration」よりも、2011年の東日本大震災で「migration(移動)」が多く発生して、海外からの支援も多く経験し、現在、国内の労働力不足などに対応するために「immigration」も受け入れるようになり、変わり始めていることを伝えました。

 意見交換を通して、日本も他の国々のように、国際化によって、司牧のあり方も大きな過渡期に入っている可能性も感じられました

*教皇に謁見の機会をいただいた

 今フォーラムの3日間

のプログラムを終えた後、参加者全員がバチカン市国に移動し、フランシスコ教皇に謁見の機会をいただきました。教皇さまは、全ての若者一人ひとりと言葉を交わされ、参加者全員にとって、印象に残る経験となりました。

 教皇さまは、集まった若い参加者を「Protagonist(主人公)」という言葉で表現され、「教会は、常に若者を必要としている。常に備えを持って、社会を切り開いて欲しい」と話されました。そして、それは、エマオへの道を歩いていたイエスの弟子のように「イエスに出会ったことを他者と共有しつつ、信仰を深めるのと同じ。社会の中で関わりを通して信仰を表明するという行動の重要性」を語っておられるように思いました。

 また、マリアを例にとって、「神の言葉に従順であることで、聞き分けていく召命の識別能力の重要性」も語られ、最後に「いつも備えを持ち、敏感に動きなさい。しかし、心配も、不安にも陥らないように」と励ましてくださいました。若者の行動力に期待され、「教会とともに歩むことで、不安に陥らず、常に前に進むように」と語っておられるように思えました。

 使徒的勧告の138項でも、若者の召命を語る部分で「restlessness(落ち着きのなさ)」という言葉が使われています。これは、「haste(敏感に動く)」ことも意味されており、「若者に期待されているのは、いつでも社会の変化に反応し、不器用であっても、動き続けること」と言っておられるように感じました。この教皇のメッセージは、多くの若者に対して、希望とともに安心感を与えるものだったように思います。

*反省点とまとめ

 今フォーラム後の課題として、フォーラム全体を通して考えたことを、日本の文脈の中で、まとめていければ、と思います。

 日本で、多くの若者が「シノドス」という言葉に敏感でないのは、Fr. Rossano Saraが話された「家族、仕事の中で生きる若者の中に、教会と一緒に歩む感覚が少ないから」ではないでしょうか。その原因として、社会で起こっている様々な問題に対して、教会がしっかり注意して見ている事を、若い人たちの多くが知らないこと、が挙げられると思います。そして、教会の社会との関わり、その影響の大きさ、さらにはバチカンの持っている国際社会への影響力を意識していないことも、”グローバル化”を迫られている日本の若者にとって、問題かもしれません。

 今日本の私たちが求められているのは、カトリック教会が関係する組織が持つオンラインを中心とした情報発信に敏感になり、それぞれの教区の若者が、自分の問題として取り組める自由さが必要なように感じました。ご紹介したスコットランドの例のように、カトリック教会の活動でなくても、教会の精神を持って活動しているNGOなどの団体と繋がることも、若者の視野を開くことに繋がるかもしれません。

 さらに、若者が以上のような活動を経て感じたことなどを、同じく若い人に伝えることも必要だ、と感じました。今回のこの報告書は、具体的な解決策を列挙することはできませんが、こうした報告を広く伝えていくことも、一つの手段ではないでしょうか。

 フォーラムで様々な国からの参加者と話すことで感じたのは、国、教区の固有の問題を認識できたことです。日本も、教区ごとの問題を発信しているからこそ、それらをもっと具体的に意識し、次回の国際若者フォーラムに参加する方にも、今回の参加者の様子、プログラムの詳細内容、次回フォーラムに向けて準備すべきことを伝える必要があります。今回のフォーラムを通して、各国の代表が「シノドス」の意味を理解しようと努め、教会が社会から求められていることと「ともに歩む」重要性を共有できたと思いました。日本は、第二バチカン公会議以降の「シノドス」の意義や、教区単位でどうやって具体的に実行していったらよいかなど、考える機会が少なかったように思います。そうした反省を踏まえ、次の代表の方々とそれら共有し、今後の成長につなげていければと希望しています。

*感謝の言葉

 国際若者フォーラムの日本代表団の一員として、ローマ訪問の機会をいただき、改めて、感謝いたします。教皇フランシスコの謁見もあり、自分が世界のカトリック教会の一員として、司牧に関わっていることを実感し、大きな成長をすることができたと思います。また、多くの国籍の参加者との交流を通じて、世界中の教区の状況と、自国を比較することに繋がったことも、カトリック信者として、そして一人の人間としての多様性が広がり、貴重な機会となりました。

 今後は、この体験を生かし、カトリックの一人の青年として歩んでいくことで、良い影響を広げていきたいと思います。ありがとうございました。

*補足、参加者との交流

 私が個人でプログラム中に交流した若者の例で、参考にしていただけそうな内容を以下にご紹介します。

【サイパンからの参加者】

 サイパン島からの参加者は、日本に過去占領されていたこと、現在はアメリカの統括化にあることを語り、その文化の移植を受けた過去を、食事中に明るく話しました。彼はカップラーメンのことを「試行錯誤で完成したもの」(Try and Error Thing)と述べていました。

 他に、彼は現地で日本人がよくくれるという「陶器」も試行錯誤の産物であり、それが日本の精神だと語ってくれました。他国への理解を、自国の歴史と照らし合わせて即座に話すことができるのは、今回のプログラムのような国際会議では重要な事柄の一つであると思いました。

【ウェブマーケティングの関係者】

 Youtuberで企業のマーケティングを担当しているスロバキアの方とは、カトリック教会のことを発信するチャンネルについても意見交換しました。米国の教会のウェブサイト構築の専門家もおり、オンラインでの発信と、マーケティングの手法が、司牧とも大きく繋がっていく一つの要因になる、と感じました。

【日本の教会についての情報共有】

 日本の状況についても説明する時間を取らせてもらいました。他国と比べると、若者の間でのシノドスについての認知度が高くない一方で、日本は、2019年11月の教皇フランシスコの訪問予定や、東日本大震災時の多くの海外からの支援を受け、変化をしようとしていることもお話ししました。

 

 

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2019年7月19日