:ベネディクト16世の辞任で開かれた機会、いまだ生かされず(LaCroix)

[2020.2.14LaCroixMartin Madar]

   ベネディクト16世が退任を宣言してから7年になる。

   2013年2月11日の退任発表は、バチカン関係者のみならず、世界の信徒たちに大きな衝撃を与えた。遠い過去に起こったことであっても、生前にカトリック教会の最高位を去るというのは、本当に信じがたいことだったのだ。後世の人々は、ベネディクトの謙遜な行為を[教会学]に対する彼の​​最も重要な貢献と見なすかもしれない。

   彼が辞任した時、教会の利益を自分の利益よりも優先したように思われた。その行為は、教皇制度をその「ピラミッドのような孤高」から引きずり降ろし、それにふさわしい教会内に置く可能性を内在していた。もしベネディクトが自らに課した[沈黙]に忠実であったなら、彼の教会における長い経歴を「神の霊を息苦しくさせているもの」と考えていた人々から、いくらかの尊敬を得たかもしれない。

    だが、私たちが知っているように、彼は山頂に留まって祈ってはいなかった。繰り返し下山し、教会が進むべき方向について、自分が持っている影響力を手放すことができないように見える。    この悲しい事態がベネディクトの後継者にとって物事を難しくしているが、重要なのは、退任がもたらした、それよりも大きな意義を見失わないことだ。ベネディクトの退任がカトリック信徒たちに、教会をどう理解しているのか考える機会を作っている、ということである。だが、  残念ながら、その機会は、いまだにほとんど実現されていない。 

    ベネディクトが使徒ペトロの職を放棄したことは、「教会とは何か、何ではないか」についての意思表示と見なすことができるだろう。それは、「教会は教皇ではなく、また教皇は教会ではない」と言っているように受け取れるのではないだろうか。  教皇庁の権力集中と使徒ペトロの職の膨張が何世紀にもわたって続いてきた後での、ベネディクトの退陣は、教会全体、つまり信徒と位階制構造を持つ聖職者たちに「教会をあるべき姿にするために」そして「世界を変えていくために」それぞれの責任を負うように促すもの、と見ることができる。

    教会を刷新し改革するこの好機は本物であり、ベネディクトの後継者、教皇フランシスコはその強力な支持者だ。教皇職に就いた初日から、フランシスコは、司教たちに、バチカンがどうすべきか教えるのを待たない「真の牧者」なるように求めている。

   教会を真にシノドス(教会会議)的な組織にする、というの願望の実現が、彼にとって最も重要なのは明らかなように思われる。それは教皇と司教だけでなく、教会の全員の責任でもある。これは、第二バチカン会議の教会学の重要な要素のいくつかを前面に押し出すものだー「キリスト者であることは洗礼による呼びかけに根ざしており、洗礼を受けたすべての人は『自分たちが教会の使命の代理人である』と考えるべきだ」。 

  「シノダリティ」は、本質的に教会のすべての階層で行われるべき相互の傾聴と学習の過程であり、教会の対話的な概念を推進する。また、現地の教会の完全な神学的現実を肯定する。それは、それぞれ異なる状況におかれた教会に、時代のしるしを読み取り、福音に基づいてそれに取り組むことを勧めている。 

    残念なことに、フランシスコの意向を受けてシノダリティを進めようとしている司教と司教協議会はわずかだ。おそらくほとんどの司教とって、自分がピラミッドの頂点にいる教会という見方で職務を執行する方が気楽なのだろう。対話と協議はほとんど必要ないのだから。

    ある評論家が最近指摘したように、彼らは、シノダリティのことを「役に立たない委員会によって支配される教会」のあり方、と見ているようだ。一部の司教にとっては、上から降りてくる指示を実行するのが一番快適かもしれないが、それは「創造的で霊的識別するようなリーダーシップを発揮する準備」ができていない証拠かもしれない。 

    そうした中で、米国サンディエゴのロバート・マッケルロイ司教は、際立った例外だ。2016年秋、彼は教皇フランシスコの使徒的勧告「愛の喜び」(Amoris Laetitia)の重要な司牧的考察の実現について教区会議を開き、以来、米国における「シノダリティ」の最も熱心な推進者となった。マッケルロイは、米国のカトリック教会は、アマゾン地域の教会のように、シノドス的取り組みを進めるべきだ、と訴えている。

    これまでのところ、教会の将来に対する責任に向けた最も大胆で最も体系的な行動は、ドイツの教会によるものだ。ドイツのカトリック教会は2年間のシノドス的な取り組みを始めている。昨年12月から、今後2年間にわたり、司教、司祭、修道者、一般信徒の代表者が対話に参加する。主なテーマは、教会における権力、聖職者の独身制度、女性の地位、セクシュアリティ(人間の性のあり方)の4つである。

    これに対して、事前に予想されたように、一部の保守派は批判し、ドイツの教会を分裂、崩壊に導くもの、と警告している。しかし、一つだけ確かなことがある。もし本当の意味でのシノダリティが行われれば、カトリックの自己理解と実践に大きな変化が起こるだろう。 

   フランシスコの教皇就任から7年経ち、ベネディクト16世の辞任で開かれた教会への機会は、ほとんど生かされないままだ。教皇フランシスコが、司教たちに、協働的な教会統治への道を歩ませる決定的な方策は明らかでないが、聖霊に満たさた指導力が今、強く求められているのは確かだ。教会全体が改革と刷新に取り組み、神の愛を世界に証しできるようにせねばならない。

[マーティン・マダールは、オハイオ州シンシナティのザビエル大学で神学を教えている]

[翻訳。[カトリックあい]ガブエル.タン]

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。

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2020年2月19日