【言論NPO緊急座談会】北朝鮮問題の解決に向けて有効なシナリオを作ることはできるのか

第一セッション~対話の姿勢を崩さない中国、ロシアをどう絡めた制裁決議に持ち込めるか

2017年9月7日 出演者:西正典(元防衛事務次官)、香田洋二(元自衛艦隊司令官)、古川勝久(元国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネル委員)司会者:工藤泰志(言論NPO代表)


 9月3日に6回目の核実験を行うなど、北朝鮮の度重なる挑発を受けて、アメリカは日本などとともに、北朝鮮に新たな制裁を科す決議の草案を国連安保理に提示しました。こうした新しい展開をどう見たらいいのか。  言論NPOは、国連の制裁決議案が出された9月7日、北朝鮮問題に詳しい元防衛事務次官の西正典氏、元自衛艦隊司令官の香田洋二氏、元国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネル委員の古川勝久氏の3氏を招いて、緊急座談会を実施しました。

司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志が、国際的な非難が高まっているこの局面で、北朝鮮が核実験を強行したわけは何なのか、と問いかけました。

なぜ核実験を強行したのか

  西氏は、「北朝鮮がずっと言っている通り、アメリカとの交渉が目的で自国の維持と存在を認めさせる作業が続いている。アメリカが、北朝鮮を核保有国として認めれば交渉のテーブルにつく。これが交渉の一点だ」と北朝鮮の一貫した姿勢を説明。香田氏は軍事面の意味として、「アメリカを交渉の席に引きずり出すためには、アメリカを納得させる力が必要であり、そのためのICBM(大陸間弾道弾)や核弾頭の開発は100メートル走で言えば95メートル付近まで達しているのではないか。昨年1月の水爆実験では爆発規模は6キロトン、それが今回は防衛省の発表で160キロトンと、開発過程を確実に辿ってきている。

  冷戦時代に米ソで抑止力を競ったICBMのミニットマンが150~450キロトンだったことを考えれば、このレベルまで届き、威力としては十分ではないのか。射程距離1万キロと言われているICBM『火星14』に搭載できる核弾頭の軽量、小型化も進んでいると思う」と話しました。

北朝鮮を孤立化させる新たな制裁決議案

  こうした脅威に対し、アメリカが安保理に提示した新たな制裁決議案について古川氏は、「内容を見ると、アメリカが言う”最強の制裁”より、相当ハイリスクなものが含まれている。北朝鮮を事実上、孤立化させる手段として、取引のある外国企業の活動を停止し、朝鮮労働党、政府との資金のやり取りを禁止。公海上の武力を用いた臨検措置を許可するもので、アメリカの怒りが表れている。この決議案がそのまま通過するとは思えないが、アメリカとしては高めのボールを投げて、落とし所を探るのだろう。この決議案を討議する間、北朝鮮は挑発を続け、決議案が通るのに時間がかかるかもしれない。安保理での決議案は通常、アメリカと中国が話し合って出すが、今回は両国の合意がないまま提示されたと思われる。アメリカも決議案がそのまま受け入れられない、ということは分かっているのだろう」と分析しました。

 続けて、「(制裁が)高めの案を出してきた意味は」と工藤が尋ねます。「案としてぎりぎりのもので、そこに向かって作業していくということだ。しかし、水爆実験をやったことで、時間のメリットは我々の側に戻ってきた。北朝鮮に対し、あくまで対話の姿勢を崩さない中国、ロシアをどう絡めるか、この時間のメリットを考える時ではないか」と冷静に語る西氏です。

  さらに工藤が、「アメリカは、北朝鮮を核保有国として認めない立場か」と確認すると、「認めればNPT(核拡散防止条約)体制の崩壊につながり」(西氏)、「第二、第三の北朝鮮が出てくる恐れがある」(香田氏)、「国連安保理の公式的立場は、NPTから脱退した北朝鮮をNPTに戻すこと」(古川氏)と3氏は言葉をつなぎました。

 

  強力すぎる決議案の行方

 古川氏は、この決議案が、「公海での臨検許可」を「(軍事的手段を含む)あらゆる措置を用いる権限」を用いて行うことができるとしているなど、きわめて強力なものであると解説しました。特にこの「公海での臨検許可」は日本に対する影響も大きいと指摘。その理由として、臨検を行うであろうアメリカが、同盟国に対しても同様に実行することを求めると予測されるため、「海上自衛隊と海上保安庁はどうするのか。これから日本国内でも議論を迫られることになる」し、北朝鮮の強い反発も予想されるため、「北朝鮮の日本に対する攻撃のリスクも高まる」と語りました。

 ただ、それと同時に、この決議案は他にも北朝鮮との合弁事業禁止や北朝鮮労働者の就労許可禁止など多岐に渡り、その内容が非常に厳しいので草案通りに決議されることはないだろう」との見通しを示し、「(これから徐々にハードルを下げていくための)交渉が始まる。そこで妥協案ができないと安保理は機能不全に陥ってしまう」と懸念を示しました。

期待できない中国とロシア

 制裁の実効性の鍵を握るとされている中国とロシアについては、古川氏は、「中国は、北朝鮮をコントロール出来ないことに焦りを感じていて、北朝鮮に対しては、ロシアとの間で温度差があるのではないか。ロシアにとって北の優先度は低く、ハードルの許容度も低い。一方、中国にとっての北朝鮮はあくまで緩衝国であり、それが第一の国益だ。ロシアと中国の差異をどうやって棚上げするか、これからその条件闘争になるだろう」と予測しました。

 香田氏はまず、中国に関しては、古川氏と同様に自由主義社会の影響力を排除するためのバッファ(緩衝)としての北朝鮮を維持し続けたいと考えているとの見方を示す一方で、アメリカと対立しないこともまた中国にとっては国益であるため、「関係各国の中で中国が一番難しい立場にいる」とも分析しました。

 ロシアについては、アメリカが北朝鮮への対応に追われる結果、中東など他地域でのアメリカのプレゼンスが相対的に弱まるため、「国益が大きい」としました。

 こうした状況を踏まえ、香田氏は「中露に過度の期待はできないだろう」との見方を示しました。

難しいゲームが始まる

 西氏も、これから決議案をめぐって、アメリカと中国・ロシアの間でせめぎ合いが始まり、「テンション(緊張)が高まる」と予測。さらに、そのテンションの中で「北朝鮮が耐えられるか、それとも耐えられなくなるか。そこのところで難しいゲームが始まる」と分析しました。

 

第3セッション~新たな制裁の成否は「日本としてどう行動するか」にかかっている~ 

日本自身が手を汚すことの覚悟も必要

 西氏は、新たな制裁の成否は「日本としてどう行動するか」にかかっていると主張。特に中国へのアプローチについて、「これまで北朝鮮問題では『中国の役割が大事』という論調が主だった。では、『中国が北朝鮮に圧力をかけるようになるために何をすべきか』ということを考えなければならない」、「単に『圧力をかけてください』とお願いするだけでは駄目だ。日本自身が手を汚すことも考えなければならない。そうした覚悟がないと間に合わなくなる」と喝破しました。その上で西氏は、中国に対してプレッシャーをかける方策として、「日本自身が法体制を着々と整備していく。そういう地道な取り組みこそが実は中国にとってはプレッシャーになる」と指摘しました。

北朝鮮政策では新たなアイディアが求められる

 古川氏は、「司令塔の創設」、「禁輸物資の追加指定」、「実務能力構築支援」、「米中間の仲介」といった様々な提言をしました。まず、「司令塔の創設」については、日本はアメリカの方針に追随するのを基本方針としているが、実はそのアメリカはこれまで北朝鮮制裁に対して人的な資源を投入してこなかったと指摘。したがって、「日本は主体的に何をすべきか考え、さらにアメリカに進言すべき」であるが、日本の対北朝鮮政策も外務省内で責任の所在が明確になってないなどの課題があるため、中心となる司令塔を作るべきだと語りました。

 「禁輸物資の追加指定」については、北朝鮮は技術的に部品その他を海外から輸入しないとミサイルを製造できないため禁輸を強化すべきであると述べました。同時に、原子力関連資機材・技術の輸出国が守るべき指針に基づいて輸出管理を実施している「原子力供給国グループ(NSG)」を紹介し、「こういった輸出管理は大変複雑な作業であり、そこに加盟していない中国やASEAN諸国に対して、『同じことをやってくれ』と言っても実務能力的に難しい」ため、「実務能力構築支援」が必要になると語りました。

 「米中間の仲介」に関しては、「これまでイラン核合意ではフランスがアメリカとイランの間を、リビア問題ではイギリスがアメリカとリビアの間の橋渡しをした」と振り返った上で、「北朝鮮問題では中国の役割が重要だというのであれば、日本が米中間の仲介をすべき」と語り、そのための体制を整えることを提言しました。

 古川氏は最後に、日本には上記のような北朝鮮政策のアイディアが不足しているため、「提言していくシンクタンクが必要だ」と主張しました。

欧州を引き込むべきか否か

 「仲介」に関して、香田氏は、北朝鮮のICBMは理論上欧州も射程内におさめているため、新たな当事者としての「欧州への働きかけが必要」と主張。特にドイツに期待を寄せ、「メルケル首相に『話をしたい』と言われたら金正恩氏も『No』とは言えないだろう」とし、そのためにも「日本が欧州を引き込む『場』を設定すべき」と主張しました。
一方、この発言に対して古川氏は自身の国連在籍時の経験から「英仏は偏狭な国益に拘るし、ドイツもこれまでの制裁を着実に履行していない」ために欧州には期待すべきではないとし、あくまでも日本がリーダーシップを発揮することが必要とするなど見方が分かれました。

 議論を受けて最後に工藤は、北朝鮮問題は「もう私たち国民にとっても関係のない話ではない」段階に入っているとし、今後も判断材料となるような議論を続けていくと語りました。

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2017年9月9日