西欧カトリック教会の深刻な衰退と対応 ②カトリック国アイルランドの信徒減少、高齢化、そして若者離れ(TABLET)

(2017.8.10  Tablet ダブリン特派員 サラ・マクドナルド)来年予定されている 教皇フランシスコのアイルランドの首都ダブリン訪問が、教会離れのカトリックの若者たちに信仰を回復させる、という希望が生まれている。しかし、多くの人が、彼らはもう教会に戻ってこないのではないか、と心配している。

 アイルランドの司牧関係者の間で今、「回復」が流行語になっている。ミサ参加者を教会の健康状態を示す尺度とすると、この国カトリックを回復しようとする人は、誰もが苦闘に直面する。1990年には、信徒の81パーセントが少なくとも週に一回ミサに出ていたが、2006年には48パーセントに落ち、2011年にはダブリン大司教区でそれが14パーセントに急落した。

 世代別にみると、若者の参加者の落ち込みが特に激しい。2016年の国勢調査によると、「無宗教」と答えたダブリンと周辺地域の若者が増加している。ダブリン大司教区で若者たちと二十年以上接しているジェラルド・ギャラガー氏は、このような回答者は、どのような宗教とも関係せず、教会に戻ってくる可能性は極めて薄い、と言う。彼らは、宗教は年寄りのためのもの、と考えており、「私たちが高齢化した教会しかもたないのに、若い教会を育てるのは困難。アイルランドは信仰心のあつい人々が老い、少なくなっていく国になりつつあるのです」と嘆く。

 アイルランドの独立系カトリック誌 The Furrowの最近号の記事で、ショーン・オコネイル氏は、今の十代の若者たちは、教会と関係があるとは見なさず、関心を失っている、と指摘した。アイルランドにおける教会の指導層は「超キリスト教社会における信仰の形成という課題に・・向き合うことに失敗しつつある」。これをさらにひどくしているのは、カトリック学校の信仰形成に関する情報を把握する権威ある主体の欠落であり、その原因が「調査研究を進めれば、アイルランドのカトリック学校制度がほとんどの場合、思春期の抱える問題に対応できるような信仰形成をしていないことが明らかになってしまう、という恐れ」にある、と批判している。

 このような事態に対処するため、同国の司教団は、司牧刷新、成人の信仰養成と若年聖職者のための審議会に企画担当を新設し、アンナ・キーガン女史を任命した。礼拝、司牧刷新と信仰養成のための司教委員会の委員長を務めるドナル・マッケオン司教はこう語った―若者たちと召命を担当する聖職者、全国的な協力体制が必要だということを司教たちは認識している、そのために、召命ための全国事務局と司牧刷新と若者たち問題専従の聖職者のポストを新設した、と。

 これは思い切った動きであり、アイルランドにおける若者の司牧に、来年の若者シノドス(全世界司教会議)に向けて、刺激を与えることが期待される。だが、それは遅すぎないか。ギャラガー氏によれば、「アイルランドにおける若年聖職者の数はこれまでずっと減り続けてきた」。1990年代初めからメディアの話題の中心であり続けている聖職者個人や教会関係組織ぐるみの性的虐待を除いて、カトリック教会についての話題をほどんと耳にせずに、今の若者たちは育ってきている。

 さらに状況を悪くしているのは、教会がある種の「体制整備の否定」に固執してしまっていることだ。「21世紀のアイルランドに合った教会のモデルを作るよりも、現状維持」に消耗しつつあるエネルギーを集中させている。

 「理論上は、誰もが若い聖職者を励ますことになっているが、現実は、ほとんどの人が全くそうしていない。それが、若い聖職者たちが今日、経験する困難を要約しているのです。『他の人に任せておく』という姿勢です。小教区の教会は若い人たちがいないと嘆いてはいますが、ほとんどの教会は(若者がいないことを)居心地よく感じ、邪魔されたくない、と思っているのです」。

2018「若者シノドス」を足掛かりに若者を呼び戻す

  若者たちの間でカトリックに対する熱意の欠落は、若者に対する司牧への用心深さの反映でもある。ある教会関係者は、筆者に「若者をテーマにした全世界司教会議(シノドス)の準備のために、オンラインで若者たちの意見、提案を募集しているが、応募は低調。若者の教会への無関心をよく示している」ことを明らかにした。アイルランドに26ある教区のうち、10の教区で十分な数の応募がない。家庭をテーマに2014年、2015年の二度にわたって開かれたシノドスに際して各教区から寄せられた意見、提案よりもはるかに低調だ。

 

 ただし、こうした受け身の姿勢だけでなく、積極的に若者たちと意見交換をしようとする動きもでており、アイルランド司教協議会のカトリック・コミュニケーション室は「司教たちは、来年の若者シノドスが若者の司牧を見直し、教会生活への貢献について若者たちと集中的な話し合いを進める重要な機会になる、と認識している」と説明している。

 マッケオン司教は「若者司牧への教区の取り組みは全国でみてさまざまだ、というべきでしょう」とし、大事なのはデータの収集ではなく、「対話の機会を広げ、教会に行くことだけでなく、様々な形で若者と関わる手立てを工夫していくことを、主眼に置かねばならない」。

 教皇フランシスコのアイルランド訪問も一年後に迫っている。だが、教皇を迎えるアイルランドのカトリック教会には、若者司牧に関する確固とした計画がまだできていない。若者のリーダーたちによる準備委員会は、地方ベースの若者司牧の見直し作業を続けている。マッケオン司教は「地方レベルでたくさんの優れた作業が進んでおり、変化の兆しが出ている。若者司牧について少しも落胆するようなことはありません。アイルランドの教会への新たな命の吹き込みは、旧弊を破壊する小さなグループから始まるのです。来年に予定されている家庭についての世界大会と若者シノドスが、地域レベルの前向きな動きの促進剤になることを期待しています。2019年にパナマで次のワールド・ユース・デーが開かれることも励みになる」と希望を語っている。

 カプチン会で召命担当を務め、コルクの聖フランシスコ中学校付きでもあるマーチン・バーネット修道士は、昨年のポーランド・クラコウで開かれたワールド・ユース・デーに300人の生徒たちを引率して参加したが、アイルランド全体では2000人が参加した。「このような素晴らしい行事を関心を持たれないままにし、若者たちと関りがないと感じるのはたやすいことであり得ます。ですが、私は学校付きの聖職者として、毎日、生徒たちと付き合っている。司牧の最前線、信仰を実体験する場に身を置いている。私たちが若者たちと深く、意義深い関係を結ぼうとすれば、イエス・キリストともっと深い関係を持てるようになるでしょう。だから、私たちは福音の光の下で彼ら自身の経験を振り返るように促すようにする必要があるのです」。

 首都ダブリンの聖パウロ教会は、信仰の中で若者たち同士が出会うことのできる場所を提供し、若者の奉仕活動の先駆的なセンターとして見直されている。最近、この教会は、若者司牧について考える会議を主催した。400人以上のボランティア活動の指導的立場にある若者たちが集まり、教会における若者の役割について話し合った。ギャラガー氏は筆者に語った。「全国で『若い教会』で進んでいる様々な取り組みについて耳にすることは、本当に元気づけられることです」と。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

Tabletはイギリスのイエズス会が発行する世界的権威のカトリック誌です。「カトリック・あい」は許可を得て翻訳、掲載しています。 “The Tablet: The International Catholic News Weekly. Reproduced with permission of the Publisher”   The Tablet ‘s website address http://www.thetablet.co.uk)

 

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2017年8月15日