今、民主主義に何が問われているのか ‐言論NPOアドバイザリーボード公開討論報告

 11月21日、設立16周年を迎えた言論NPOは、記念フォーラム「民主主義の未来にどう取り組むのか」に続いて、アドバイザリーボード会議の公開ディスカッションを行いました。

 言論NPOには活動への助言役として14人のアドバイザリーボードにご協力いただいています。今回はそのボードメンバーから明石康氏(国際文化会館理事長、元国連事務次長)、大橋光夫氏(昭和電工最高顧問)、小倉和夫氏(国際交流基金顧問、元駐韓国大使)、川口順子氏(明治大学国際総合研究所フェロー、元外相)、長谷川閑史氏(武田薬品工業株相談役)、藤崎一郎氏(上智大学国際関係研究所代表、前駐米国大使)、宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表、元駐中国大使)、武藤敏郎氏(大和総研理事長、元日銀副総裁)の8氏が公開ディスカッションに参加しました。

「民主主義が機能するには、有権者が強くなる必要がある」との見解で一致

 冒頭、司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志から、「今、民主主義は強い試練に直面している。私たちが、自由や民主主義に真剣に取り組んでいないことが、日本の民主主義を脆弱にしているのではないか。日本の民主主義は壊れそうな可能性がある、と私たちは声を上げる段階ではないか。その努力を怠っているから、きちんと発展させていく必要があるのではないか」との問題提起がなされました。

 これに対し明石氏は、「今日のフォーラムを通じて、皆さん、民主主義が壊れそうである、ということは共有したのではないか。一方で、フェイクニュースも含め、情報だけは増えているのに、きちんとした答えが見えてこないもどかしさも共通して持っていると思う。米大統領選ではトランプ候補がロシアと関係があったのではないか、とまで語られている現在、情報を一人ひとりが取捨選択して考えなくてはいけない。いろんな人が何を考えているか、多面的に知る時代だと思う」と語りました。

 武藤氏は、「言い古された言葉だが、『民主主義には多くの欠点がある』との認識を新たにしている」と語りました。その具体例として、7月の都議選で自民党が大敗したにも関わらず、10月の衆院選では大勝した点を挙げ、「民主主義の民意とはとても脆弱なものであり、移ろいやすいものだ。それに拍車をかけているのがSNSであり、大きな影響を与えている」と解説。さらに武藤氏は「ツイッターは自分の感性にフィットすれば、”いいね”であり、その情報を確かめている暇がない。事実確認より、感性にフィットするかどうかだ。民主主義が完全無欠のはずはなく、それが問われていると思う」と、今の民主主義の問題点を指摘しました。

 一方、長谷川氏は、「私は経営者だから、民主主義が危機になるなんて考えたことがない。競争環境を乗り越えて企業が成長し続けるのが経営者の務めだ」と話し始めました。そして長谷川氏は、チャーチルの言葉である「民主主義は最悪の政治形態といえる。これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けばだが」という言葉を紹介し、「少子高齢化による人口減少に新しい基準、新しい民主主義でどう対処するのかが民主制度ではないか。一党独裁の共産党の方が有効に機能すると短期的現象を見るのではなく、個人としてどう頑張るか。民主政権で与党が機能しなくなったら、対抗勢力を考えておく。そうした切迫感を、選挙民が常に作っていかなければいけない」と語り、民主主義を考える上では、有権者の重要性を改めて強調しました。その上で、「個人でも出来ることから始めて民主主義をサポートしていく。民主主義は自分たちの制度ですから、自分たちで強くしていく。民主主義は永遠です、全体主義には負けない」と声を張り上げ、会場の笑いを誘いました。

様々な角度から日本の民主主義の現状を分析

 ここまでの意見に対して、川口氏の発言から会場のムードが変わりました。

 川口氏は、「私の名前のイニシャルはKYだから空気が読めず、日本社会で、民主主義が危機に瀕しているとは思っていない」と主張。その具体例として、東日本大震災で、日本社会の安定性に世界が感心し、衆議院選の結果では、日本は安定していて求心力があると評価されたことを紹介しました。さらに、様々な問題があっても、日本では自由な選挙が行われ腐敗は少なく、最も民主的な国家だ、と強調しました。

 これに続いたのが、「私もチャレンジしたい。Democracy is hypocrisy」と言ったのは、小倉氏でした。「民主主義は偽善だ。民主、自由、平等といったものは、現実社会では破られている。民主主義の偽善に皆が気が付き、『なぜ』と言って民主主義に反乱を起こしている。その結果が政党不信であり、政治家自身が政党を裏切ることだ」と民主主義の現状を分析しました。さらに小倉氏は、「インテリが市民たちを上から見ているのはおかしい。ポピュリズムでも一番、力があるのは民衆だ。市民の言っている方が、半分以上正しい。現実社会で汚いことがたくさん行われているのに、それを非難するのをポピュリズムと言うのはおかしい。知識人に対する不信感で、知識人も多大な利益を得ているのではないか。トルストイのアンナ・カレーニナに”どんな賢い人より、子供はヒポクラシーを見抜くことが出来る”というセリフがある。市民、民衆から学ぶべきだ」と発言。最後に小倉氏は、「言論NPOには市民をもっと取り込んでもらいたい。有識者だけでなく、市民を取り込んだ対話をしてもらいたい」との注文をつけ、発言を締めくくりました。

 大使として長年、中国を観察してきた宮本氏は、「民主主義は悪くない。中国の指導者は、国民が自分たちのことを、どう思っているか、社会への不安感がある。中国では政治社会が不安定だが、それに対し日本は非常に安定し、民主主義が政治社会に安定をもたらしている。だからこそ民主主義はいいものだ」と語りました。その上で、自由、平等、人権、全ての概念、理念に絶対的なものはなく、いずれも相対的なものであり、いろんな問題を調整して、社会にとってベストなものを探してくことが重要だ、と指摘。さらに宮本氏は、「民主主義を支えるものは熟慮された意見で、議論の中で賛否両論、こういう選択肢があるのだ、ということを国民に示す。その意味で、有識者の責任は重い」と語りました。

 この後、駐米国大使を務めた藤崎氏は民主主義の問題点として、「強い者が強くなり過ぎ、格差社会への反発が出ている。誰も中国型社会を作りたいとは思っていない今は、調整の時期」と話し、大橋氏は、「ある国は富国強兵を3時間の演説で言っていた。日本の昭和初期と同じ思想で、国を富ませて強い国にし、正しく機能するのか。これからの民主主義は短期的、長期的視線を持つだけではなく、将来温暖化で海面が3、4メートル高くなることを思えば、今後地球全体を豊かにすることを考える時がきたのではないか」と語りました。

「メディア・国民・政治家それぞれが責任を果たさなければ、日本という国は無くなる」

 ここで、今回の16周年記念フォーラムに駆けつけた衆議院議員の石破茂氏にマイクが渡されました。石破氏は、「アドバイサリーの方々を見ると、すごいメンバーばかりで、国会議員が聞くべきディスカッションだと思う」と、にこやかに挨拶。その上で、「この間の衆議院選挙は何だったのか。11回目の選挙で、ここまで白けたのを感じたのは初めてで、有権者は一体、何を選んだのか。自公の方が、まだましということで、これが国民の実感に近いと思う」との感想を口にしました。さらに哲学者・田中美知太郎氏の40年前の論説から”この国に国民主権は本当にあるのか”の言葉を引き、「メディア、国民、政治家、それぞれがいかに責任を自覚し、責任を果たしていかなければ、この国はなくなる」と、厳しい口調で日本の現状に危機感を表しました。

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2017年11月24日