正月を知らない子どもたち…貧困がもたらす国の損失(読売新聞)

「年越し」にも格差

 2016年の新しい年を迎えた。子どもたちにとっては、クリスマス会、大晦日みそか、お正月などイベント続きの冬休みを過ごす時期である。しかし、「おめでとう」の言葉が行きかうこの時期に、しんどい思いをする子どもたちがいる。

 「何年もクリスマスケーキを食べたことがない」「お年玉はない」「友だちと遊びに行く交通費もない」「家の中は十分な暖房がない」。そのような子どもたちのなかには、いつもおなかをすかせている子どもも少なくない。

 これは、現代の日本の話である。

 むろん、苦しいのは子どもばかりではない。生活費・教育費のために働く親たちは、非正規から正規への転職もままならず、少しでも時給の高い夜間や日曜・祝日に働かざるを得ない。夜間は子どものみで過ごす「ひとり暮らし児童」ともいわれる状況になりやすい。子どものための労働が、子どもと過ごす時間を奪う悪循環。保護者の苦悩は計り知れない。

28万人の貧困…将来の経済にも大きな打撃

 このような貧困のすそ野は広がっている。先進諸国における貧困層の割合を把握する指標のひとつに、相対的貧困率がある。日本の子どもの相対的貧困率は年々悪化し、最新のデータでは16.3%(2012年データ:厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査」)。0歳から17歳の子どものうち、約6人に1人が貧困状況にあることになる。

 実数では約328万人。2014年の出生数が約100万人であることと比べると、その3倍以上に相当する数字だ。経済協力開発機構(OECD)加盟34か国でみると、日本の貧困率は高いほうから11番目に位置する。

 そのような現状をふまえ、2015年12月、日本財団は『子どもの貧困の社会的損失 推計レポート』を発表した(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社との共同事業)。子ども時代の経済格差が教育格差を生み、将来の所得格差につながるという想定から、格差を放置したままでいるとどのような経済的な影響があるかを推計した報告書である。

 推計の結果はどうだったか。現在15歳の子ども(約120万人)のうち、生活保護世帯、児童養護施設、ひとり親家庭の子ども約18万人だけでも、経済的損失は約2.9兆円に及び、政府の財政負担は約1.1兆円増加する、という。

 「貧困」というと、とかく困窮した家庭や個人の問題として語られることが多い。それゆえ、貧困対策を講じることについては、「一部の人々に税金がつぎ込まれる」という感覚に陥りやすい。しかし、このレポートは、「個」の視点を超えて、「経済」の視点からアプローチしている点が特徴だ。子どもの貧困をそのまま放置すると、将来の国民の所得が低下する。それは、消費の低下を招く。そうすると、国内市場の縮小が一段と加速する。人口減少時代に突入している今、子どもの貧困対策を慈善事業として捉えるのではなく、経済的効果をもたらす経済対策として捉える必要を、データを使って訴えている。

 持続可能な社会の鍵は子どもの貧困対策への投資にある。あなたはどう考えるか、ぜひレポートを一読してみてほしい。

経済的損失2.9兆円、財政負担1.1兆円

 レポートの内容を簡単に紹介しよう。貧困世帯とそうでない世帯では、進学状況が異なるために、最終的な学歴や就業状況にも差が生まれる。この状況を改善しなければ、貧困世帯の子どもは将来にわたり賃金水準が低くなり、一生のうちに受け取る所得(生涯所得)が低位になる。

 そうすると、政府が徴収する税収や社会保険料収入も低下する。一方、生活保護費などの社会保障給付費は増加することになる。

 そこで、進学や進路に差が出る中学卒業時に着目する。子どもの貧困対策を行わず進学率や就労環境に格差が残る状況(現状シナリオ)と、子どもの貧困対策により教育・所得格差が一定程度は改善される状況(改善シナリオ)を比較してみるのである。

 まずは、現在15歳の子どもが19歳~64歳までに得る所得の差を把握した数字をみてみよう(図1)。64歳までに得る所得の合計は、現状シナリオより改善シナリオのほうが2.9兆円増えている。言い換えれば、子どもの貧困対策を行わない場合、将来的には約2.9兆円の市場の縮小、すなわち経済損失が生まれることを意味する。

 このような所得の差は、税・社会保障費用の個人負担額(個人が納める額)の差となって現れる。そこで、国民が負担する税や社会保険料の合計額から、生活保護費など社会保障給付額を差し引いた金額がどの程度かによって、政府の財政負担は増減する。これを「税・社会保障の純負担」として推計した結果、改善シナリオよりも現状シナリオの方が、約1.1兆円少ない。このことは、子どもの貧困対策を行わないと、政府の財政負担は約1.1兆円分増加することを意味している。(図1)二つのシナリオでの推計結果  出典:日本財団・三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(2015)「子どもの貧困の社会的損失 推計レポート」

 注意しなければならないのは、貧困家庭全体を網羅することは難しいため、この推計は生活保護世帯・児童養護施設・ひとり親家庭を対象として、その1学年に限定している点である。つまり、「全年齢、さらにはこれから生まれてくる子どもについても考慮すれば、経済への影響は甚大となる」と、レポートは警鐘を鳴らす。

尊厳を奪いかねない生活保護へのまなざし

 また、実際には、生活保護基準に満たない所得水準でありながらも、生活保護を受給していない貧困層は広範に存在している。そのような貧困層も対象として推計すれば、子どもの貧困対策を講じなかった場合の将来の経済的損失は更に大きいことになる。

 制度がその対象となる人をどの程度カバーできているのかを示す割合を捕捉率という。日本は、先進諸国のなかでも生活保護の捕捉率が低いことで知られている。

 厚生労働省が生活保護基準未満の低所得世帯を推計したデータをみると、平成19年国民生活基礎調査をもとにした推計では、子どものいる総世帯数は1,256万世帯。そのうち生活保護基準である最低生活費未満の世帯は154万世帯と推計されたことから、子どものいる世帯に占める低所得世帯の比率は12.2%になる(所得のみを要件とした場合)。こうした低所得世帯のうち、実際に生活保護を受給する被保護世帯数は12万世帯である。つまり、最低生活費未満の154万世帯と被保護世帯の12万世帯を合せた166万世帯のうち、実際に生活保護を受けている比率は7.4%に過ぎないという結果であった。(厚生労働省「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計について」:2010年)[1]。

 生活が苦しくても生活保護が利用されないのはなぜか。何よりも厳しい社会の目がある。全生活保護受給世帯数に占める不正受給件数は2.4%(2011年度)であるのに対し、バッシングともとれる生活保護批判は受給層全体へと向けられがちである。社会福祉を利用することへの抵抗感が、困窮状況にある人々に広がっている。実際、経済困窮状況にある若い人たちと話をすると、「絶対に生活保護だけは受けたくない」と言う。

 どんなに苦しくても自分でやっていく、と言い切るのだ。自己責任、勝ち組/負け組という論調もあいまって、「助けて」と言えない人々が増えるばかりか、低年齢化しているのである。いまや、子どもがいる低所得世帯を対象とした就学援助制度すら、子どもがいじめにあうことを恐れて申請しない、という保護者に出会うことも珍しくない。彼らが社会の目にとまるのは、餓死など悲惨な状況となって事件化してからである。

 あらゆるものを「持たない」状況にならないと、生活保護は受給できない。たとえば自動車は資産となり、原則処分とされている(障害をもつ場合の通勤・通院等は認められる場合もある)。

 しかし、交通機関が整備されていない地方では、自動車はぜいたく品ではなく、移動のための必需品である場合も多い。車が使えないが故に凍える冬に遠方の保育所に連れていけず、ママ友の通園時に一緒に乗せてもらう、という肩身の狭い思いをしている厳寒地の母親もいる。また、これまでは、生活保護世帯の高校生自身のアルバイト代や奨学金を塾代に使用すると、保護費が減額されてきた。このルールは、ようやく2015年10月以降改められたが、高校卒業後の進学の壁はまだまだ高い。

 いったん生活保護を受給すれば、地域社会の厳しい監視の目にさらされる。奪われかねないのは自分への誇りや尊厳だ。

ホームレスはどんな子ども時代を送ったか

 筆者は、ある数字をみて愕然がくぜんとしたことがある。ある自治体で、2005年度に生活保護廃止となった世帯の世帯主の学歴階層を計算した。政府の統計では、学歴をとっていないためだ。ほとんどの世帯類型で、中卒が6~8割を占める。母子世帯の母親の場合には、中卒の割合は48.7%で他の世帯類型と比較すると低い数値だが、それでも約5割を占めているのである(図2)。いずれの世帯類型でも、高校中退によって中卒である者の比率は低く、高校に進学しなかった者が多い。

  • (図2)生活保護廃止世帯の世帯類型別の学歴構成 (A自治体:2005年度保護廃止世帯、単位:%、湯澤直美・藤原千沙(2009)「生活保護世帯の世帯構造と個人指標」(『社会福祉学』50巻1号)をもとに作成)

    (図2)生活保護廃止世帯の世帯類型別の学歴構成 (A自治体:2005年度保護廃止世帯、単位:%、湯澤直美・藤原千沙(2009)「生活保護世帯の世帯構造と個人指標」(『社会福祉学』50巻1号)をもとに作成)

 このような数値を国民全体の動向と比較するため、国勢調査をもとに生まれた世代別にみたものが(図3)である。世代が若くなるにつれ、国勢調査では中卒割合が低く、生活保護世帯では中卒割合が高いことが明白である。みなさんは、このような数字から何を想像するだろうか。

  • (図3) 生活保護廃止世帯(A自治体:2005年度保護廃止世帯)の学歴構成:国勢調査との比較、湯澤直美・藤原千沙(2009)「生活保護世帯の世帯構造と個人指標」(『社会福祉学』50巻1号)をもとに作成)

    (図3) 生活保護廃止世帯(A自治体:2005年度保護廃止世帯)の学歴構成:国勢調査との比較、湯澤直美・藤原千沙(2009)「生活保護世帯の世帯構造と個人指標」(『社会福祉学』50巻1号)をもとに作成)

スマホで表を大きく表示したい場合はこちら

 子ども期から困窮状況にさらされ、教育を受ける機会が十分に保障されなかった人々の生活史は統計数値に表しにくいために、あまり知られていない。

 3~4年前、路上で生活する状態になった人々、いわゆるホームレスのかたが多くいる都内のある地域で、長い髪の毛がコールタールのように固まっている男性に話を聴いた。

 さとしさん(仮名)は、まだ30歳代前半。ある地方都市で育つ。親の病気等で家計が急変したことから、アルバイトをしながら定時制高校へ進学。しかし、体力もきつくやむなく中退。もともと若者が働ける職場が少ない地域であり、定職をみつけようにも中卒では更に厳しい。仕事を求めて上京、非正規だが港湾労働者として働いてきた。しかし、転機が訪れる。腰を痛め失職。それからはすべり台をおりるように人生が失速し、公園でひとり、生きている[2]。

 「子どもの貧困」は「見えにくい」と言われている。しかし、ホームレス状態にある人々、生活保護を受けている人々のなかに、「見える」のである。

学歴格差が一生付きまとう

 では、さとしさんは、努力が足りなかったのか。日本の社会システムのなかでは、学歴の差が様々な格差に結びつき、社会的な不平等となって個人の人生に影響を及ぼす点を見逃してはならないだろう。

 まず、雇用形態。学歴が低位なほど、非正規雇用の比率は一貫して高い。「平成24年版就業構造基本調査」をもとに若年層(15―34歳)の就業状況などを分析した報告書によると、男性の初職が正社員である割合は、中卒の場合には37.0%であるのに対し、高卒では65.5%、大学卒では79.5%と開きが大きい。女性では、中卒で初職が正社員である割合は12.3%と男性よりも少なく、高卒でも50.5%と男性との格差が大きい[3]。

 当然、正規と非正規では収入に差がつく。同調査によると、若年層の男性の場合、正社員の年収は平均335.9万円であるのに対し、パート・アルバイトでは134.1万円、その他非典型雇用では213.7万円である。女性では、正社員の年収は264.8万円、パート・アルバイトは111.6万円、その他非典型雇用は180.5万円であり、いずれも男性よりも低額である。更に重要なのは、年齢が上昇するにしたがって、収入格差が広がるという点だ。

 また、学歴によって選べる職種や企業規模も違う。「きつい労働」ほど、離職率も高くなる。(図4)は学歴別の離職率をみたものだ。1年以内の離職率は大学卒では13.1%であるのに対し、中卒では44.3%、3年以内の離職率は大学卒では計32.3%であるのに対し、中卒では65%を超える。

  • (図4)平成24年3月新規学校卒業者の離職率 出典:厚生労働省「新規学卒者の離職状況(平成24年3月卒業者の状況)」をもとに作成

    (図4)平成24年3月新規学校卒業者の離職率 出典:厚生労働省「新規学卒者の離職状況(平成24年3月卒業者の状況)」をもとに作成

 いま、一部の民間団体や社会福祉施設では、高卒認定試験によって高卒資格を取得する支援が始まっている。また、厚生労働省では、母子世帯の母親自身が高卒資格を取得できるよう支援する高等学校卒業程度認定試験合格支援事業を創設した。しかし、働きながら、ひとりで勉強するのはたやすいことではない。寄り添い、ともに学ぶサポートが必要だ。

保育は貧困家庭を支える重要な制度

 今回の社会的損失のレポートが提起している重要なメッセージは、子どもの貧困問題は、政策の関与によって一定程度は解決が可能である、ということではないだろうか。

 諸外国の先進事例が示しているように、人生のスタートライン、いわば乳幼児期からの早期発見と早期支援が何よりも欠かせない。親の妊娠期からのアプローチも重要だ。幸いにも、日本には保育制度が公的責任のもとで発展してきた経緯がある。仕事と子育ての両立支援として保育が必要なばかりでなく、貧困家庭を守る最前線の社会資源としてより機能させる政策が期待される。

 保護者支援も欠かせない。子どもの育ちの保障という観点から雇用労働のあり方を見直すためには、長時間労働やワーキング・プアの解消は必須である。

広がる民間団体の支援

 貧困がもたらすものは、経済的困窮ばかりでない。人間関係・社会関係からの孤立を深め、精神的に追い詰められていくのである。

 学校があれば、暖房があり、給食を食べることができる。貧困家庭にとって、学校の長期休暇は楽しみどころか、親子ぐるみで苦しさが増す期間になる。このような困窮状況にある人々を支援するために、食料を届けるフードバンクの活動も各地に広がりつつある。フードバンク山梨では、子ども支援プロジェクトを企画し、食料支援を必要としている世帯に、クリスマスの時には食品とともにプレゼントを届ける活動を実施した。届ける箱のなかには、クリスマスカードと手作りリースも添えられている[4]。

 また、大阪子どもの貧困アクショングループでは、年末年始に3泊4日、古民家で一緒に年越しを過ごす「年越しツアー」を実施している。大晦日にはみんなで初もうでに行き、お正月には手作りのおせち料理を味わい、まるで実家への里帰りのような時間になる。ツアーに参加できない親子にも、ボランティア特製のおせち料理を届けている。年越しでみんな買い物袋をいっぱい持っている姿をみて悲しい気持ちになっていた親子が、届いたおせちと手紙をみてとても幸せな気持ちになれたという[5]。

子どもを孤立に追い込む貧困

 若者にとっても新春の壁がある。たとえば、各地で実施される成人の日の行事。成人式に参列するには、コート、スーツ、それらにあう靴がいる。女性ならば、振袖も多い。貧困家庭ではとても購入できないが、レンタル費用の拠出も難しい。それゆえ、出席さえできない若者もいる。

 子どもから大人への節目として大事なこの行事にも、格差がつきものだ。社会的に標準とされる暮らしを維持するには、「個人の暮らし」ばかりでなく、このような社会的な機会や社会関係に参画する「社会的な暮らし」も欠かせない。その機会から遠ざかるほど、貧困は社会的排除となって、子ども/若者を孤立に追い込んでいくのである。

 子どもの貧困問題は、いわばまっとうな社会、公正な社会をいかに創るのかを問うている試金石でもある。いまこそ、大人たちの英知を寄せ集めたい。

[1] この推計では、全国消費実態調査を基にした推計も行われている。また、貯金や住宅ローンなどの資産の保有要件も考慮した生活保護基準未満の世帯数の推計もある。

[2] 本稿では、個人が特定されないよう、趣旨を損ねない範囲で事例は加工している。

[3] 『若年者の就業状況・キャリア・職業能力開発の現状<2>-平成24年版「就業構造基本調査」より-』独立行政法人 労働政策研究・研修機構、2014年

[4] フードバンク山梨のホームページを参照。

[5] 大阪子どもの貧困アクショングループのブログを参照。

プロフィル

湯澤直美( ゆざわ・なおみ )
 立教大学コミュニティ福祉学部教授。専門は社会福祉学。現在、 子どもの貧困研究プロジェクト を運営し、子どもの貧困の解決に向けた研究を進めている。編著書に、『子どもの貧困白書』(明石書店)、『子どもの貧困-子ども時代のしあわせ平等のために』(明石書店)、『福祉政策理論の検証と展望』(中央法規)など。

このエントリーをはてなブックマークに追加
2017年12月29日