世界展望社説・読売vs朝日

 (読売)混迷する世界 強権政治の台頭は許されない

(2018年1月4日 読売新聞朝刊)

◆自由と民主主義を守る正念場だ◆

「米国第一」を掲げるトランプ大統領の予測不能の政治が続く。

自由、民主主義、人権といった第2次大戦後の普遍的な価値観は、二の次に置かれた。

中国とロシアは間隙かんげきを縫って、影響力の拡大を図る。法とルールに基づく秩序をどう維持するか。正念場の年となろう。

◆続くトランプ・リスク

トランプ氏は政権2年目に入る。国際社会での孤立をいとわず、米国の目先の経済的利益や雇用を最優先し、支持者にアピールする姿勢は変わるまい。

すでに、環太平洋経済連携協定(TPP)や、地球温暖化対策の「パリ協定」から離脱表明した。戦後の繁栄をもたらした自由貿易体制と国際協調に背を向けた。

エルサレムをイスラエルの首都と認定した。国内のキリスト教福音主義者やユダヤ系団体の支持を固めたが、中東和平の仲介役の立場を失った。認定を無効とする国連総会決議で、賛成国への援助停止まで示唆し、恫喝どうかつした。

身勝手な言動は、各国の信頼を失い、米国の指導力を低下させるだけではないか。中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領と「取引」し、利益を分け合うシナリオも憂慮される。

安全保障政策では、「力による平和」をスローガンに、米軍増強を打ち出した。

核・ミサイル開発を継続する北朝鮮に「最大限の圧力」を加える戦略は妥当だ。日本などと連携し、非核化に向けた対話に引き出す取り組みも欠かせない。

中国に北朝鮮問題の解決を委ねる態度は物足りない。習氏から「米中両国で太平洋を二分しよう」と提起された要因だろう。

11月には米議会の中間選挙を控える。内向き志向がさらに強まるのは間違いない。政権とロシアの癒着疑惑に関する捜査の行方も不透明だ。今年もトランプ政治は大きなリスク要因である。

◆中露は模範になり得ぬ

習氏は政権2期目に入った。軍事、経済両面で米国と並ぶ「強国」の建設を目指す。巨大経済圏構想「一帯一路」や南シナ海の軍事拠点化がその足掛かりとなろう。

プーチン氏は、3月の大統領選で再選が確実視されている。

ウクライナのクリミア併合から続く欧米の経済制裁に反発し、「大国の復活」を掲げて、国民の愛国心を鼓舞する。

習氏とプーチン氏には、共通点が多い。米国の隙を突いて「力による現状変更」を進め、支配圏を拡張する。政敵を排除し、自らに権力を集中させる。メディアを統制し、批判を許さない。

覇権主義と強権政治は、日本や米欧の価値観と相反する。世界の模範や標準にはなり得ない。放置すれば、自由で開かれた国際秩序が危機にひんしよう。

日欧は米国に働きかけて中露の強権姿勢を抑え、各国間の信頼が醸成されるよう努力すべきだ。

中東は、内戦やテロ、難民の人道危機などの問題が絶えない。

サウジアラビアでは、ムハンマド皇太子が強硬外交を主導する。国交を断絶したイランとの覇権争いが激化しているのは、懸念材料だ。双方が支援する勢力による「代理戦争」がイエメンなどで続く。

過激派組織「イスラム国」は、イラクとシリアでほぼ一掃された。

脅威が消えたわけではない。テロをあおる宣伝は、ネットを通じて拡散している。欧州出身の戦闘員が母国で活動する恐れもある。

国際社会はテロ阻止に向けて、国境管理や情報共有を徹底しなければならない。戦火で荒廃した国への復興支援も重要だ。

欧州では昨年、オランダ、フランス、ドイツの国政選挙で、欧州連合(EU)を重視する政党や候補が勝利した。難民の大量流入や相次ぐテロで高まった排外主義とポピュリズム(大衆迎合主義)に一定の歯止めがかけられた。

◆欧州の結束が問われる

波乱要素は、3月のイタリア総選挙だ。新興ポピュリズム政党の「五つ星運動」が、第1党の座に就く可能性がある。ポーランドの右派政権が司法を統制する強権政治を行い、EUとの亀裂が深まっているのも見過ごせない。

英国はEUから離脱する交渉を進める。EUの求心力と結束を維持するには、フランスとドイツの強い指導力が不可欠だ。

マクロン仏大統領は、ユーロ圏統合の推進など、野心的なEU改革を提唱する。メルケル独首相は、総選挙後の連立工作を巡る混乱から抜け出し、4期目の政権を早期に発足させねばならない。

(朝日)岐路に立つ世界 「自国第一」からの脱却を

(2018年1月3日 朝日新聞社説)

  半年先の世界がどうなっているのかさえ思い描くのが難しい。混迷の年明けである。

 最大の要因は今月で就任1年を迎えるトランプ米大統領だ。就任すれば大統領らしく振る舞うようになるのでは――そんな期待はすっかりしぼんだ。

 「米国第一」をかかげるトランプ政権の外交に、世界は揺れている。貿易や環境問題など、長年積み重ねられた国際枠組みからの米国の離反が続く。

 かつて「世界の警察官」ともいわれた秩序の守り手・米国がいまや、先が読めぬ不確実性の象徴になりつつある。

 多国間の協調を軽んじ、二国間の取引で利益を引き出そうとする。そんなトランプ流の秩序が広がれば、どんな世界が姿を見せるのか。国際社会は大きな岐路に立っている。

 「自国第一」を露骨に追い求めるのは、トランプ氏だけではない。米国の隙をつくように機敏な動きを見せるのが、中国やロシアの独裁的な指導者だ。

 ■揺らぐ多国間協調

 習近平(シーチンピン)国家主席は昨年の共産党大会で国内の足場を固め、東南アジアや欧州、アフリカ、中南米までほぼ全方位で関係強化を進めている。

 プーチン大統領は、3月の大統領選で4選確実だ。中東ではシリアの和平交渉を主導するのを手始めに、米国を上回る存在感を得ようとしている。

 欧州では、地域統合をめざす流れが衰え、欧州連合(EU)の理念を否定する政党が支持を伸ばしている。英国は離脱に歩を進め、ドイツでは昨年の総選挙で右翼政党が躍進した。メルケル首相は新内閣を発足できないまま年を越した。

 多国間の枠組みから手を引くのは米国だけではない。民主主義と自由を掲げ、国同士の垣根をなくす理想の先導役とされていたEUも、ふらついている。

 移民・難民の流入、テロの恐れ、産業の国外移転など、国の門戸を開くことによる負の側面を強調する政治家の声が依然、勢いづいている。多くの主要国で既成政党が低迷し、扇動的なポピュリズムがめだつ。

 ■問われる民主主義

 だが、ドイツ出身の政治学者ヤンヴェルナー・ミュラー氏は、ポピュリズムの本質は「自分たちだけが正しい国民の代表だ」と主張する「反多元主義」にあると、警鐘を鳴らす。

 社会的に優越的な地位にあるべき「われわれ」と、無視してよい「彼ら」。国民と移民。自国と他国。幾重にも壁を築き、分断を広げる先にあるのは歴史が繰り返した争いしかない。

 「力による平和」を新たな安保戦略に据えたトランプ氏の世界は、まるで19世紀のようだ。大国同士が力を競い、覇権を争う先には、だれも望まなかった2度の世界大戦があった。

 19~20世紀前半の過ちを繰り返さず、ポピュリストが乱立するディストピアでもない世界に向かう道はどこにあるのか。各国の政治の質が問われている。

 冷戦終結以降、当然視されてきた自由市場主義や代表制民主主義が、今ほど不安感をもって論じられている時はない。

 低成長と財政難の中、国民が不満を高める経済格差をどう是正するか。多様化する人々の利害を調整する、より良い民主主義とはどんなかたちか。

 難問の答えは少なくとも強権による政治の効率化でも、排他主義でもない。国内外の他者への想像力を働かせ、国際協調の枠組みを広げ、各国の互恵的な利益拡大を進めるしかない。

 米国への信頼が薄れる今、その責務は国際社会全体に、より広く、重く、求められている。

 ■日本の外交力向上を

 その中で、日本の進路をどう見いだすか。周辺国をはじめ地球規模で意思疎通を深め、世界の潮流の中で日本の安定と発展を探る外交力が必須条件だ。

 眼前には北朝鮮問題がある。「完全な破壊」のかまえも示すトランプ氏に、安倍首相は歩調を合わせるが、北朝鮮の脅威の質は日米では異なる。

 決して武力行使は選択肢たりえない。中国、ロシア、韓国をまじえた交渉による長期的な軟着陸がめざすべき道だ。

 より長期的な課題は、成長する中国を取り込んだ平和的な秩序をどう築くかだ。対米牽制(けんせい)を強めるロシアとの関係も含め、日本が身に備えるべきは、冷静な情勢分析にもとづく多角的な外交交渉能力である。

 米国は昨年、宗教都市エルサレムイスラエルの首都として一方的に宣言し、国際的に孤立した。国連の場で日本が米国に寄り添わず、多数意見の側についたのは当然の判断だった。

 対米同盟の一本足外交は危うい。米国との関係は生かしつつ、自立した思考で世界を見つめ、平和志向の経済大国ならではの外交力を磨くときだ。

 日本は、大戦後に築かれた安定秩序の恩恵を受けて発展を遂げた国である。多国間協調が危ぶまれる今、国際結束の価値を支える責務はとりわけ重い。

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2018年1月4日