・(解説)教会の現在と未来へー教皇フランシスコの若者に対する強い期待

 「あなた方は、神の今日、教会の今日・・・教会にはあなた方が必要です。あなた方の参加で、教会はその使命を十分に果たすことができるのです」。

 今年六月下旬に開かれたバチカン主催の国際若者フォーラム。世界百か国以上から集まった約二百五十人の若者たちに、教皇フランシスコはこのように呼びかけました。

 

【使徒的勧告「福音の喜び」を皮切りに】

  若者の司牧と教会活動への若者の参加の推進―フランシスコは二〇一三年三月の教皇就任以来これまで、一貫して主要課題として取り組んでこられました。

 まず、教皇就任八か月後に出された最初の使徒的勧告「福音の喜び」。ご自身の信仰、福音宣教の基本的立場を明確にされ、現代のカトリック教徒、教会のあるべき基本的スタンスを示される中で、教会の課題の一つとして若者に対する司牧を採り上げ、次のように訴えておられます。

 「若者は人類の新たな動きの担い手であり、私たちの未来を拓く存在・・・現在の教会の仕組みでは、若者の抱える不安、欲求、問題、傷に対する答えを彼らが得られないことが多い。若者に対する司牧は、社会の変化の荒波を受け止め、取り組みを発展させねばなりません・・・」(105項から108項参照) 

 翌二〇一四年と二〇一五年と異例の二年連続の世界代表司教会議(シノドス)で、若者の司牧と不即不離の関係にある「家庭をめぐる諸問題と教会の対応」をテーマに議論を深め、その成果をもとに、二〇一六年四月に使徒的勧告「Amoris Laetitia(家庭における)愛の喜び」を発表。世界の家庭をめぐる現状とあるべき姿を具体的に示され、人間社会における役割の重要性を強調されました。

 

【若者シノドスと使徒的勧告「Christus vivit」】

 この延長上で、二〇一八年十月に招集されたのが 「世界と教会の未来のカギを握る若者、その信仰と召命の識別」をテーマとしたシノドス。その成果をもとに今年四月に使徒的勧告「Christus vivit(仮訳:キリストは生きておられる)」を出されたのです。

 この使徒的勧告は、九章から成り、日本語の概要は、筆者が主宰するカトリック・ネット・マガジン「カトリック・あい」(注①)で6月から掲載中です。カトリック中央協議会は全文翻訳を9月初めに『キリストは生きている』というタイトルで出版しましたが、内容はもちろん、勧告が出たこともご存じない方が少なくないようなので、改めて概要を説明します。

 

【「あなたが“生きる”ことを望まれる」】

 教皇は勧告の冒頭で、若者たちに次のように呼びかけます。

 「キリストは生きておられます。キリストは私たちの希望、この世界で最も美しい若さです。キリストが触れる全てのものは、若返り、新たにされ、命にあふれます。ですから、私は最初に、一人ひとりの若いキリスト者にこの言葉を差し上げたい。『キリストは生きておられ、あなたが生きることを望まれる』」。

 そして本文の第一章「神の御言葉は若者について何を言っているか?」では、イエスが「あなたがたの中で一番偉い人は、一番若い者のようになりなさい」と言われる一方で、「若い人たち、長老に従いなさい」と説いておられることを指摘します。

 第二章「イエス・キリストは常に若い」では、イエスご自身の青年時代に着目し、「若いイエスと家族や人々との関係」を考えることが青少年司牧に役立つ、とされ、若いイエスに倣って「、「教会が過去に留まることなく、自由であること」を願われます。

 第三章「あなたがたは、神の現在である」では「若者たちは未来だけでなく、まさに今、現在を生きている」。それゆえに「若者たちに耳を傾け、若者たちが置かれた様々な状況を知ることが大切」と強調。

 第四章「すべての若者への偉大な知らせ」では、若者に告げるべき「三つの偉大な真理」として①.「神はあなたを愛しておられる」②「キリストはあなたを救う」③「キリストは生きておられる!」を示されます。

 第五章「青年期の道のり」では、福音に照らされた若者たちがどのように青年期を過ごすべきかを考え、「人生をただ眺めていないで、不安や恐れに負けず、生きる」ように促し、自分を成長させるために常にイエスとつながり、他の人に心を開くように勧めます。

 第六章「ルーツをもった若者」では、「ルーツを持たずして未来はありえず、世代間の断絶は世界によい結果をもたらさない」という確信を示します。

 第七章「若者の司牧」で、「社会・文化的な変化に絶えずさらされ、時に青年たちの不安に回答を与えられない若者の司牧」の現状を認めたうえで、若者たち自身が「主役となり、司牧者らの指導のもとに、創造的で大胆な新しい道を切り開いていく」ことを希望。

 カトリックの教育者たちには、「若者たちの自由を尊重しながら寄り添い、裁くのでなく、耳を傾けることが大切」と注意されます。

 第八章「召命」では、神が一人ひとりに望まれる計画に触れ、結婚し、家庭を持つことを恐れないよう若者たちを励ますとともに、神に奉献する生き方も重視し、「神の呼びかけを知り、従うことは、あなたの人生を満ち満てるものにする」とその意義を説きます。

 最終章の第九章「識別」では、自分の召命を見つけるために必要な「孤独と沈黙」に触れ、「若者たちの召命への歩みを助ける者」に求められるのは、「注意深く耳を傾ける力」「誘惑と恵み、真理と偽りの違いを見極める力」「本当に相手が行いたいもの、到達したいものを知る力」だとしています。

 

【スマホの功罪、難民、性的虐待問題も】

 勧告は若者たちを取り巻く現代社会の問題と必要な対応などについて、二百九十九項目にわたって詳細に語られており、理解と実践には、全文をお読みになることをお勧めします。(注②)

 例えば、スマホに象徴される「デジタルの世界」に言及した箇所では、「コミュニケーションの新たな方法」の創出、「独自の情報の循環」の促進、ウエブとソーシャル・ネットワークは「若い人々を関与させる、確立した場」の提供など、メリットがある反面、「孤独、巧みな操作、搾取、暴力、”闇サイト”の極端なケースに至る場となり得る・・・。デジタルの世界には巨大な経済的利益が存在」し、そこでは「良心と民主的な道筋を操るメカニズムを作り出す」危険がある、と警告します。

 これ以外にも、移民・難民問題や、聖職者による性的虐待問題などに言及し、教会の若者司牧、若者自身が行動指針を具体的に立てていくうえで、数多くの示唆がされています。

 教皇は使徒的勧告発表の直後、受難の主日(枝の主日)の正午の祈りの中で、すべての若者たちに対して、「勧告の中に、あなた方の人生、あなた方の信仰と兄弟たちへの奉仕を成長させる旅の、実り多い手がかりを見つけることができます」と、勧告を人生の指針として活用することを求め、世界の教会がそれを支援するよう強く訴えられました。

 

【勧告受け、世界各地で取り組みが始まった】

 このような教皇の強い思いを受けた動きは既に米国はじめ多くの国で始まっています。

 ごく最新では今年七月末から、この使徒的勧告をテーマにした神学者と若者たちの初の全米会合が、全米司教協議会の支援の下に開かれ、教皇フランシスコの歩みに付き従い、「一致と若者たちとの絆を深める方向に全米の教会を突き動かす機会」を作りました。

 国際的な若者たちの集まりも、今年六月のバチカン主催の国際若者フォーラムに続いて、八月初めにローマで欧州二十か国以上、五千人の男女スカウトが 「Euromoot 2019 」を開き、ボスニア・ヘルツェゴビナで世界各国から五万人以上が参加して “Follow me”をテーマに若者フェスティバルが、さらに、これと前後して、キューバでは同国司教協議会主催で「全国青年の日大会」が開かれるなど、若者参加の教会を目指す動きが盛り上がっています。

 

【日本の教会は教皇の思いに応えているか?】

 日本の教会はどうでしょう。このような教皇の若者への期待と思いの強さと対照的なのが、日本の教会、司教団の関心の薄さのように思われます。勧告のもとになった昨秋の若者シノドスには日本からも司教が参加していますが、ご本人からも司教団からも、何の報告も一般信徒にはされていません。

 先の国際若者フォーラムに日本から参加した山田真人・NPO法人せいぼ理事長は「カトリック・あい」への寄稿の中で、「多くの国の若者たちとの交流を通じ、世界の国々と日本の教区の状況を比べて考えることができた」としたうえで、「日本では、第二バチカン公会議以降のシノドスの意義や、教区単位での具体的な実行などについて、考える機会が少なかったように思う」と率直に反省し、反省を今後の活動に生かすことに意欲を示しました。

 昨年十一月に韓国・ソウル郊外で開かれた日韓司教交流会では、事前にビデオ収録した両国の若者の希望が放映されています。

 日本の「カトリック青年連絡協議会」がまとめた日本の司教団への希望は①外国人信徒の交流を深めるための支援②青年の集まり、活動への司教たちの積極的な参加、意見交換 ③青年の活動拠点の確保④若者の信仰養成の指針、ビジョンの提示―でした。

 残念ながら、こうした若者たちの意欲や希望を、日本の司教団として真剣に受け止め、具体的な行動を始めた、という話は、まだ、聞いたことがない。むしろ、教区を超えた活動では、彼らの方が先行しているようです。

 

【教区を超えた活動で若者たちが先行】

 中央協議会の青少年委員会は九九八年に解散し、日本の教会としての青年に対する取り組みの体制が消滅しました。その逆境にもめげず、「教区を超えた支援の枠組みを残そう」と、札幌、東京、横浜、京都、鹿児島の五教区の青年や担当司祭有志が協力し、に「カトリック青年連絡協議会」を発足させたのは、二〇〇〇年のことでした。

 今では、先の五教区に広島、名古屋、大阪の三教区の仲間が加わり、毎回百名以上が参加する教区持ち回りの全国青年の集い「NWM(ネットワークミーティング)」年二回開催をはじめ、各地の集いの広報や情報共有、企画のノウハウの共有、他教区に移る青年の信仰生活の支援や、カリタスジャパンなどカトリック団体との連携にも取り組んでいます。

 来年五月には、箱根の富士箱根ランドを会場に、教皇の意を受けた「世界青年の日」日本版を開く予定です。

 教会の現在と未来へ、若者たちの活躍に大きな期待をかける教皇が間もなく訪日される見通しになっていますが、日本の教会は、そのリーダーである司教団は、教皇訪日を前に、そして訪日後に、何ができるのか、何をすべきかー。若者たちとともに真剣に考え、歩むことが強く望まれます。

 (「カトリック・あい」南條俊二)=発売中の「カトリック生活」10月号の教皇来日特集に掲載しています)

  • 使徒的勧告「Christus vivit」の全文は、英独仏など主要国語版が公表されており、英語版は次のアドレスでご覧になれます。

http://w2.vatican.va/content/francesco/en/apost_exhortations/documents/papa-Francesco_esortazione-ap_20190325_christus-vivit.html

 

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2019年10月24日