・タイ南部では住民15人が武装集団に殺害-教皇の「平和のシンボル」発言に困惑

 

Confusion over pope's embrace of Thai 'peace'

(写真は、タイ南部・ヤラの仏教寺院で、武装集団に殺害された15人の棺の前で祈る現地の人々=(Photo: AFP)

(2019.11.20 カトリック・あい)

  教皇フランシスコは、タイ訪問を前にしたタイの人々へのビデオ・メッセージで、タイとその国民を「多民族を擁し多くの精神的・文化的伝統を背景にした東南アジア地域の平和のシンボル」と讃えたことについて、タイ現地のカトリック教徒の中に、このような評価に戸惑いを感じる人々が少なくなさそうだ。

 バンコクに拠点を置くカトリック系メディアUcanewsが伝えているもので、それは、現在、タイ南部のイスラム教徒が多く住む地域で血なまぐさい紛争が長期にわたって続いており、最近では今月5日にも、イスラム教徒住民が武装集団に襲われて15人が死亡。15年間に8000人と言われる犠牲者に加えられているからだ。一度の死者15人という人数は、ここ数年間で最多だ。

 タイのイスラム教徒が全人口に占める割合は約5パーセント。キリスト教徒の約1パーセント、カトリックはそのうちの半分、というのに比べれば、多く、大半が、元はイスラム教徒のスルタンの領土だったタイの最南部地域の三つの州に住んでおり、分離独立の動きが今も続き、紛争の原因となっている。

 プラユット現首相は、今年6月に国会で信任されたが、2014年の軍事クーデターで政権をとり暫定首相の座に就いていた元陸軍司令官であり、分離独立の動きを抑える部隊を指揮していた”対南強硬派”のリーダーともみなされていることから、先の15人殺害ともからんで紛争の激化が懸念されている。

 教皇フランシスコは以前、タイの隣国、ミャンマーを訪れた際、ロヒンギアに住み、迫害を受けているイスラム教徒の少数民族の人々と会い、早期の問題解決を表明した。タイの関係者の間には、教皇に、単に平和のシンボルと讃えるのではなく、せめて、こうした現実に理解を示して欲しい、との声も出ている。

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2019年11月20日