・「聖職者主義」よりも「家父長的な態度」が問題-性的虐待問題の専門家が語る(CRUX)

(2020.3. 13, Crux Senior Correspondent Elise Ann Allen)

 Jesuit Father Hans Zollner, a leading Vatican official dealing with clergy sexual abuse in the church, speaks about the crisis to an audience Jan. 29, 2020, at Villanova University in Pennsylvania. (Credit: Sarah Webb, CatholicPhilly.com via CNS)

Top anti-abuse expert says ‘paternalistic’ attitude is worse than clericalism

 ローマ発ーカトリック教会の未成年者保護の専門家であるドイツ人イエズス会士のハンス・ゾルナー神父が、聖職者による性的虐待で「聖職者主義」よりも問題なのは、一般信徒を軽視し聖職者を上座に置くカトリック教会における「家父長的態度」だとの考えを、Cruxとのインタビューで明らかにした。

 神父は、教皇庁立グレゴリアン大学の未成年者保護センター長、バチカンの未成年者保護委員会の委員でもあり、各国の司教協議会が教皇の指示に従って未成年性的虐待防止のためのガイドラインを作成するのを助ける、新設のタスクフォースを監督する立場にある。

 聖職者主義は教皇フランシスコの下で論議を呼ぶ問題となり、性的虐待の問題に確実に一石を投じるているが、神父は「私が思うのは、それよりもっと深刻な問題は『家父長的な態度』です」とCruxとのインタビューで語った。

 神父は「家父長的な態度の問題には、2つの側面があります。多種多様な信徒と関わりを持たない位階制の中にいる聖職者の存在、一方で、司教たちを全てを知り、速やかな変化をもたらす力を持つの存在として信頼することで、彼らの家父長的態度を可能にさせる信徒たちの存在です」と指摘。

 これは、犯罪についての説明責任を指しているのではなく、「私が強調したいのは、洗礼を受けた誰もが、教会の聖性に共同責任を持ち、それについて祈り、そして、教会.同体が福音を常に証しする存在となるように行動を起こす必要がある、ということだ」と述べた。

 ゾルナー神父は「聖職者主義と司祭職への歪められた理解、そしてカトリック教会における聖職者による性的虐待問題の解決にどのように対処すべきか」を神学的側面から話し合う会議を今月11日から14日にかけて開催する準備をしていた。会議で予定されていた議題は次の5つだった。

イエスを伝え、裏切る教会のイメージ:教会学におけるイエスの再発見 ②罪と犯罪:懲罰と和解:被害者、加害者、そして教会全体のために正義を行う ③聖職-奉仕の活動対聖職者主義:叙階の秘跡の再考 ④性と弱さ:性倫理の再検討と性的虐待の抑止 ⑤教会と世界:改革の導き手としての教会の使命

 だが、イタリアで新型コロナウイルスの感染が急拡大を続け、これを抑えるために、政府による学校や大学に対する規制が実施されたことから、会議は中止を余儀なくされた。

 ゾルナー神父はこのインタビューで、神学の観点から聖職者による性的虐待の問題を見ることは、「多くの人が持っていた教会とその聖職者の位階制に対して抱いていたイメージで何が誤っていたのか」を理解し、「正義、赦し、償いについての考え」を深める助けになる、と語った。

 さらに、このほど教皇の指示で新設されたタスクフォースの役割に触れ、「カトリック教会のいわゆる”新たな動き”は、未成年者と脆弱な大人を対象に含めた聖職者による性的虐待防止のために、最優先すべきもの」と強調した。

 インタビューでの主なやりとりは次の通り。

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*聖職者の未成年性的虐待問題への対処に組織神学の眼鏡が必要

Crux:あなたが準備されたこの会議の狙いは何でしたか。かなり長い間準備されていましたが、なぜ今開こうとされたのですか?

ゾルナー:会議の狙いの一つは、聖職者による性的虐待がもたらした教会の危機に関して、世界の神学者が長期的な視点で意見を交換することでした。性的虐待の問題への対応は、心理学者と教会法の専門家の責任とされてきましたが、問題の背後にある深い神学的思考がなおざりにされてきました。この会議は、神学の観点から、この問題をめぐるより多くの対話を構築する試みとなるはずでした。

Crux: 残念なことに、会議は中止になりましたが、この会議には、聖職者による性的虐待が引き起こした教会の危機について、組織神学の眼鏡を通して見ることが期待されていました。この問題に対する神学的な分析は、教会に対して、そして児童擁護への努力に何を提供することができるのでしょうか?

ゾルナー:教会で性的虐待について何かしようとする場合、全ての責任を教会法学者と心理学者に負わせるのは、簡単ですが、これは単純に言って全体像を見ることになりません。

 この問題の神学的な分析は、教会、司祭、助祭についての、正義と赦しの関係についての、そして、苦しみと復活された主によって与えられる罪からの解放の恵みと贖いについての、私たちの理解が何でこれほどまでに誤ったのかを理解する助けになるのです。

*「家父長的な態度」の問題の二つの側面-「位階制に依拠する聖職者」と「司教に過度の信頼を置き、家父長的態度を許す信徒たち」

Crux: 多くの人が、性的虐待の要因だとして「聖職者主義」と教会の「家父長的な構造」を批判しています。あなたはどのようにお考えですか?

 ゾルナー:教皇がたびたび言われているように、「聖職者主義」は、司祭あるいは司教だというだけのことで、特別の扱いを受け、特権を振るい、他の人たちには適用されるルールの外にいることが可能であるかのように考え、振る舞う誘惑になります。司祭あるいは司教に固有の権利だという意識を意味します。当然のことながら、”聖職者主義的な態度”は、教会だけが「家父長的な構造」をもっているのだ、あるいは司祭たちだけが重要なのだ、と人が信じるようにさせる可能があります。

 しかし、それはまた、極めて「母権制的」であることを確認するのも重要と思います。どの時代も、預言者的な女性がリーダーでした。ドロシー・デイ、メアリー・マクキロップ、ローマのフランシス、ヒルデガルト・フォン・ビンゲン、初期教会の”女性指導者”聖マクリナ、そして神の母マリアのような女性たちは、全員が自分たちの宣教の使命を果たしました。すべて、任務を遂行しました。その人生で、何人かの男性が希望するものとの間で軋轢を生じることもしばしばありましたが。

 私がもっと深刻な問題だと思うのは、「家父長的な態度」の存在です。これには2つの側面があります。一つは、「多種多様な信者と関わりを持たない位階制の中にいる聖職者の存在」、もう一つは「司教たちを全てを知り、速やかな変化をもたらす力を持つ存在として信頼することで、彼らの家父長的態度を可能にさせる信徒たち」の存在です。ここで、私は犯罪に対する説明責任について話していません。私たちは皆、司祭と司教に説明責任を求めるべきです。はっきり申し上げたいのは、洗礼を受けた全ての人が、教会の聖性に共同責任を負っており、祈り、行動を起こすことで、教会共同体が常に福音の証人となることです。

*”サミット”以後、バチカンは着実に手を打ち、各国の司教団にも前向きの変化が出ている

Crux: 未成年者保護に関する全世界司教協議会会長会議(”サミット”)が開かれて1年経ちました。聖職者の未成年者に対する性的虐待は、皆が向き合わねばならない問題として、世界中の国に認識されているのでしょうか?この問題を自分の問題とすることに否定的な国がまだありますか?

ゾルナー:”サミット”を受けて、昨年3月にバチカン市国は、未成年者と脆弱な人々の保護に関する新しい法律とガイドラインを導入しました。年5月に教皇フランシスコは、”サミット”での議論などを踏まえて、自発教令「Vos estis lux mund(仮訳:あなた方は世の光)」を発出され、(注:聖職者による)虐待と暴力に関する報告に関する新規範を導入するとともに、全世界の司教と修道会総長がこの問題について、自らの対応について説明責任を負うことを確認されました。

 12月には、教皇が聖職者による未成年者への暴力行為と性的虐待に関する案件について「教皇機密」を廃止することを表明され、「児童に対する性的犯罪」の対象年齢の上限を14歳から18歳に引き上げ、司法手続きに一般信徒の教会法弁護士が参加できるようにされました。さらに、教皇はこのほど、各国の司教協議会などが未成年者や弱者の保護に関するガイドラインを整備あるいは刷新するのを助けるタスクフォースを創設し、現在、有能な人材の選定が進められています。

 こうした法と規範のこと以上に、申し上げなければならないのは、昨年2月の”サミット”以後、私が訪問した国々で多くの司教団、司教協議会の中に、前向きな変化が出てきていること、特に、多くの国で、教会と一般社会がこの問題について速やかに行動せねばならない、というの認識を深めていること、を知ったということです。

*問題への取り組みに一般信徒の参加も、そしてまず各国司教協議会の指針策定を支援

Crux: 今、昨年の”サミット”以降いくつかのことがなされている、と言われましたが、性的虐待問題との闘いで、さらにこれから取り組むべき課題は何だと考えますか?どのような対応があるでしょうか?一般信徒の活動をどのように関与させていくかの問題は、緊急に取り組むべき分野だ、と多くの人が指摘していますが。

ゾルナー:そうですね。それが最優先で取り組むべき事の一つだと思います。実際に、バチカンの信徒・家庭・命の部署はこの問題にとても真剣に対応しており、規模や専門技能の異なる様々な活動から指針を収集している最中です。残念ながら、解散させられたり、バチカンの直接管理に置かれた活動体のいくつかは、自らを「伝統を伝える者」だと公言していますが、実際には、何世紀にもわたって教会で作り上げてきた統治とルールのもつの本質的な手順を無視しています。

 

Crux: あなたは昨年の”サミット”を、他のまとめ役の人たちと共に管理運営をされました。そして、先ほど言われた新設のタスクフォースの管理運営も任されています。タスクフォース新設の理由は何でしょうか?何を期待しますか?

ゾルナー: 私たちが希望しているのは、新しい教会法上の規範に沿った措置をまだとっていない司教協議会が、聖職者による未成年性的虐待に対処するためのガイドラインの刷新を、速やかに、首尾一貫して進めることです。新設のタスクフォースは、そのような刷新の作業に既に手を付けている司教協議会に対しても、核になる原則が教理省の指示に沿い、教会法上の新たな意図を満たし、性的虐待の被害者たちの声を聴き、正義が行われ、全ての保護対策の約束が確実に継続的に行われるように、支援していきます。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。

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2020年3月14日