・「第6回日韓未来対話」大きく動く北東アジア情勢-日韓関係は、朝鮮半島は-(言論NPO)

・北東アジア情勢が大きく動き始める中、新たな日韓関係をどう構築すべきなのか ~

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 言論NPOは6月22日、東アジア研究院(EAI)と韓国高等教育財団との共催で、「第6回日韓未来対話」をソウルで開催しました。

 今回の対話は、歴史的な米朝首脳会談終了後、日韓両国で初めて行われる民間のハイレベルな対話で、外交、安全保障の専門家や、政治家、メディア関係者ら20氏が参加し、100人を超える聴衆が議論に耳を傾けました。

まず、今回の「第6回日韓未来対話」開催にあたり、日韓両国の主催者を代表し、東アジア研究院院長の孫洌氏、言論NPO代表の工藤泰志が挨拶に立ちました。

 孫洌氏は、日韓未来対話の特徴として、世論調査をベースにしながら日韓両国の未来や協力関係について議論する場であることを挙げました。その上で、「韓日両国で何かの事象が起こればすぐに世論に反映されてしまう。韓日国交正常化以降、世論をベースにした両国の対話が蓄積されているのはこの対話だけであり、今回の対話にも期待したい」と語り、北東アジア情勢が大きく動く中、今回の対話への期待を示しました。

 続いて挨拶した工藤は、日韓未来対話の特徴である公開対話や世論調査の動向にこだわる理由として、「多くの市民が当者として自らその改善に取り組まない限り、日韓両国の未来は描けないからだ」と語ります。そして、南北首脳会談、米朝首脳会談を経て、歴史的な局面で開催される今回の対話について、「北東アジアに平和な未来を作り出すためにも民間にいる私たちも議論を開始したい。その議論を通じて、皆さんも日韓関係の未来を考えてもらう契機にしてほしい」と聴衆に語りかけました。

 次に、祝辞として挨拶に立った朴仁國・韓国高等教育財団総長は、2回の南北首脳会談、米朝首脳会談を経る中で、日韓間でもグローバルストラテジーをつくるなど、日韓関係も新たな挑戦に取り組む必要があると指摘。さらに、「非核化のプロセスが進み、朝鮮半島の情勢が動く中で、米朝関係がどのような構造に変化していくのか、日韓両国で注視する必要がある」と語ります。そして、今回の対話が、日韓両国が協力しながら北東アジアの平和に向けて努力するための、課題やその解決方法を提供し、新時代の課題に向けて日韓協力の契機になることへの期待を示しました。

 続いて登壇した、東アジア研究院理事長の河英善氏は、今回の対話へ3つの期待を示しました。まず、過去の日韓関係を振り返りながら、今回の対話が過去と未来、国家と世界を複合的に見ながら、過去の時代の精神を受け継ぎ、世論をリードしていくような対話にしていくこと、さらに、19世紀半ば以降、両国間での悲劇的な体験のため、力ではなく、感情が両国の国際政治に影響を与えてきたが、世論調査といった手段を利用して、両国国民の心の声に耳を傾けていく重要性と期待を示しました。

 そして最後に河氏は、朝鮮半島の国際秩序は未来を予測できないほど速い変化の渦の中にあるとした上で、北朝鮮の核問題を解決し、非核化を実現するためには、「関係国の国際協力が必要不可欠であり、その中で韓日の協力は大きな構成要素を示している」と指摘。当面の日韓関係を改善していく上でも、未来志向的な対話を行える今回の対話は最適であり、2日間の対話を通じて、北朝鮮の非核化を含め、アジア体制の新秩序を示してほしい、との期待を込めて挨拶を締めくくりました。

 祝辞の最後に登壇した小倉和夫・国際交流基金顧問は、今年行われた日韓世論調査結果の分析として、韓国は今ある問題や課題を解決することによって日韓関係が樹立されるととらえている一方、日本は信頼関係を樹立することによって現在の問題を解決できる、という認識ギャップを指摘。このギャップを克服するために、日韓関係を日本と韓国の関係と見るのではなく、東アジアや世界全体で考えるなど「発想の転換が必要だ」と述べ、今回の対話では「発想の転換」を念頭に、活発な議論が行われることを期待したい、と語りました。

 こうした挨拶を受け、公開セッション1「2018年、日韓共同世論調査結果に基づく日韓国民の外交政策に関する意識の動向」が始まりました。

公開セッション1

2018年日韓共同世論調査結果に基づく日韓国民の外交政策に関する意識の動向

第1セッションの議論に先立って、今回の「第6回日韓共同世論調査」の結果概要について両国から報告が行われました。

浮き彫りとなった日韓間の意識のギャップ

 まず、韓国側からは孫洌氏が登壇し、今回の調査結果の中で、特に顕著な傾向を示し、注目すべきポイントについて説明。様々な項目で日韓間の認識のギャップが浮き彫りとなったことを明らかにしました。

 孫洌氏は最初に、「相手国に対する印象」に言及し、この6年間の経年変化を見ると、韓国人の対日印象は改善傾向にあるのに対し、日本人の対韓印象は下落傾向にあると指摘。そのうち、韓国側世論の傾向を掘り下げて分析した結果としては、「日本に対する渡航経験がある層」、「若い世代」、「高学歴」は日本に対して良い印象を持つ人が相対的に多い傾向にあると解説し、「さらなる印象好転の手掛かりを得るためにも、こうした結果となった原因を探るような議論をすべき」と語りました。

 孫洌氏はこの他にも、「相手国への渡航希望」の有無や、「日韓関係の重要性」を認識しているか否か、「慰安婦問題をどう解決すべきか」、「自国の将来を考える上で重要な国」などといった質問項目で日韓間のギャップが大きかったことを指摘しましたが、今回特にその傾向が大きかったものとして北朝鮮の核開発問題や朝鮮半島の将来についての結果を紹介。特に、核開発問題の解決時期について、「解決は難しいと思う」という回答が日本人では65.1%だったのに対し、韓国人では昨年の71.3%から23.2%へと急減した結果に言及し、こうした認識の相違がある中、いかにして朝鮮半島と北東アジアの平和をつくっていくべきなのか、日韓間で掘り下げた議論をすべきと呼びかけました。

協力に対して「反対」は少ないことは光明

 続いて工藤が登壇し、孫洌氏の報告を踏まえながら日本側の読み方について解説しました。まず、北朝鮮の核開発問題や朝鮮半島の将来について、日本人は韓国人だけではなく、米国人との比較で見ても懐疑的であることを、今月上旬に公表した「第2回日米世論調査」結果を紹介しながら指摘。そして、その原因として、一連の外交交渉の中では、日本が当事国ではないために「距離感がある」とした上で、さらに、「政府が交渉当事者であればその結果をメディアに説明し、それをメディアが国民に説明するという流れになるが、政府からの情報がないため、メディアの周辺取材による情報しかないのが現状だ」と解説。判断材料の不足が懐疑的な見方の背景にあると語りました。同時に、国民感情が現状認識に及ぼす影響についても言及。その証左として、韓国に対してプラスの印象を持っている人は、核開発問題や朝鮮半島の将来に対しても比較的楽観的な見通しを持っていることを紹介しました。

 その国民感情の現状については、渡航経験が相手国に対する印象改善に寄与することを踏まえた上で、日本人の訪韓者数が伸び悩んでいることが、対韓印象の大きな改善につながらない一因にあると述べました。しかし、より根本的な原因として工藤は、日韓関係はなぜ重要なのか、という設問に対して、日本人の回答は「隣国だから」など一般的な認識にとどまり、「民主主義などの価値を共有する」、「米国の同盟国同士」などを選んでいる人が少ないことを指摘。アジアが大きく変化する中で、なぜ日韓関係が重要なのか、しっかりと考えていないことが、相手国に対する無関心にもつながっているとの認識を示しました。

 もっとも工藤は同時に、「この状況は決して絶望的ではない」とも語り、その根拠として、安全保障など日韓間の様々な協力を問う設問において、日本人では「わからない」は多いものの、「反対」は少数派であることを挙げました。そして、「平和実現のために力を合わせる必要があるということは多くの人がきちんと理解している」とした上で、それを確固たる認識とし、北東アジアの平和で安定的な未来につなげるために「両国は話し合うべき」とし、これからの対話の展開に期待を寄せました。

 世論調査結果の報告に引き続いて、パネリストによるディスカッションに入りました。

新たな日韓関係を構築するために、埋めるべき認識の相違とは

 西野純也氏(慶應義塾大学法学部教授)はまず、今年中に朝鮮戦争の終戦宣言が行われる可能性が高く、朝鮮半島及び北東アジアは新しい秩序に向けて動き出している局面にあると現状分析。そうした中では「新しい日韓関係を新しい秩序に埋め込むべき時期に来ている」と切り出しました。

 しかし、韓国側では、文在寅政権下でこの1年間、慰安婦問題で国民世論を意識した様々な動きが展開される中、それに呼応して韓国国民の意識にも落ち着きが見られる一方で、それを見た日本側は日韓関係の先行きに対して不安を感じ、さらには不満を抱き始めていると指摘。これが日本側が今後に対して明るい展望を描けていない背景であるとするとともに、こうした認識の相違を埋めることの必要性を説きました。

 一方、西野氏は、日米韓の安全保障協力に対して、韓国世論が肯定的な結果について、日本側は軍事的な”抑止”をイメージしているのに対し、韓国側は”関与”をイメージしているのではないかと指摘。したがって、これが日韓協力拡大の土台となり得るかどうかについても、「慎重に見るべき」と注意を促しました。

認識の相違を埋めるため、活発な戦略的対話が不可欠

 趙世暎氏(東西大学校日本研究センター所長、元外交通商部東アジア局局長)は、西野氏が指摘したような韓国政府の慰安婦問題に関する新たな動きへの日本側の不信感に対して、「こうした日本側の雰囲気を韓国側も理解する必要がある」としました。しかし同時に、韓国政府が取ろうとしている新たな措置は慰安婦問題そのものに向けたものではなく、国際的な人権擁護一般に対する取り組みであるとして、日本側に理解を求めました。

 また、日米韓協力の強化については、北東アジア全域の秩序構築をしていく上では中国、ロシアの参画が不可欠であるとし、単にアメリカを中心とした秩序を追求していくだけでは不十分であるとしました。そして、中露との距離感は日韓両国では異なる以上、簡単に見解は一致しないため、今まで以上に活発に戦略的な対話をする必要があると語りました。

よりオープンでルールに基づいた秩序をつくり出すために、日韓は協力すべき

 李淑鍾氏(成均館大学校国政管理大学院教授、前東アジア研究院院長)は、今後の日韓協力を拡大していく上でのポイントとなるものとして、「朝鮮半島情勢の安定化」と、「アジア太平洋のルールに基づいた秩序づくり」を提示。前者については、非核化、さらに北朝鮮の経済安定化にも長いプロセスが必要となることから、そこで日本が果たす役割は大きいと期待を寄せました。

 後者についてはまず、米国がアジアに対する関与から手を引くとともに、中国のさらなる台頭が予想される中では、アジア太平洋地域の秩序の不安定化が予想されると懸念を示しました。その上で、日韓両国の中国に対する見方の差が小さくなりつつあることから、両国が協力して中国を巻き込みながら「よりオープンでルールに基づいた秩序をつくり出すべき」と主張しました。

これを受けて杉田弘毅氏(共同通信社特別編集委員)も、日韓は共にルールに基づいた秩序の恩恵を受けて成長してきたことを指摘した上で、だからこそ日韓両国がこの秩序を支えるべきと応じました。

 一方で、今回の世論調査結果では、民主主義という普遍的な価値観を共有していることの意識が薄かったということを問題視。特に、世界的にこの価値を否定する風潮が蔓延する中で、日韓両国までもがその波に乗ってしまうことへの懸念を示した上で、こうした普遍的な価値観を守るために、日韓両国の知識層が具体的な行動をとることの必要性を説きました。

政治リーダーやメディアは何をすべきか

 沈揆先氏(ソウル大学校言論情報学科基金教授、元東亜日報顧問)は、日韓間の印象や認識を改善する上でカギとなるものとして「リーダー」と「メディア」に言及。まずリーダーについては、これまで両国のリーダーに求められてきたのは、国民の情緒を忠実に反映することであったと振り返った上で、これから求められるのは、短期的には国民にとって不都合なことでも、大局的な観点に立って粘り強く説得することだと主張。そうしたリーダーシップの発揮に政治家が躊躇するようであれば、今後も日韓関係は変わらないと断じました。

 さらに、こうしたマインドの転換はメディアにも求められるとし、相手批判に終始するのではなく、相手と対話したり、説得したりするようなスタイルへの転換を求めました。

 阪田恭代氏(神田外語大学国際コミュニケーション学科教授)は、「日韓関係はなぜ重要なのか」という設問に対して、日本人の回答は「隣国だから」など一般的な認識にとどまっていることに対して、より戦略的な理由で「重要である」と感じられなければ日韓関係は成熟した関係にならないと指摘。その上で、そうした重要性を国民一般に認識させるための方策として、両国の首脳が折に触れて相手国のメディアに登場してビジョンを発信したり、相手国の国民と直接対話したりすることなどを提案しました。

 朴仁國氏(韓国高等教育財団事務総長、元国連大使)は、沈揆先氏が言及したメディアのあり方について、特に携帯機器を日韓関係や相手国に関する情報源とする人は、テレビや新聞など既存のメディアを主な情報源とする人よりも、日本に対して良い認識を持つ傾向にあることから、両国民の認識を改善していく上で、こうした新しいメディアの活用法について検討を進めるべきだと語りました。

 また、阪田氏が語った首脳による直接発信に賛同。4月の板門店会談で、北朝鮮の金正恩委員長の肉声が直接韓国のテレビで流れて以降、金委員長に対する韓国国民の印象が改善していることを紹介し、「金委員長でさえ改善するのであれば、安倍首相なら大きく改善するだろう」と述べました。

より根本的な日韓間のギャップとは

 澤田克己氏(毎日新聞社外信部長)は、工藤の「韓国に対してプラスの印象を持っている人は、核開発問題や朝鮮半島の将来に対しても比較的楽観的な見通しを持っている」という点について、その裏返しとして、「韓国に対して嫌悪感があるが故に、対北政策が進展することを快く思わない層が存在している」と指摘。同時に、日本人の対韓印象が好転していない背景には、日韓間の国力差の縮小があるとしました。そしてその結果、日本側にかつてのような余裕がなくなったために、「以前であれば受け流せたような批判に対しても非常に不快感を抱いてしまう」とし、これが日本側の対韓印象、認識の背景にある大きなトレンドであると語りました。

 また、韓国は大統領制であるが故に、政権が代われば対外関係もリセットするという意識がある一方で、日本側にはそうした意識はないために、文政権に対して大きな不信感を抱くに至ったと分析し、「こうした認識の違いをどう克服するか。これを直視せずに首脳レベルの交流を促進しても根本的な解決につながらない」との認識を示しました。

日韓が真のパートナーとなるために必要なこととは

 高杉暢也氏(元韓国富士ゼロックス代表取締役会長兼CEO)は、韓国で19年間を過ごした経済人としての立場からコメント。これまでの韓国生活からは、「漢江の奇跡」や通貨危機など様々なパラダイム・チェンジを経て経済発展してきた韓国の自信を感じると評価。そして、日韓は単なる2国間を越えて、アジア、そして世界の発展に貢献していく上でのパートナーになるべき存在であると説きました。

 しかし、そうした思いから日韓間の経済、文化交流に携わっているものの、時として韓国が日本に対して仕掛ける”道徳争奪戦”のようなやり方に対しては不満を感じるとし、「これを解決しないと日韓協力は前に進まない」と苦言も呈しました。

川島真氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)は、世論調査と対話のあり方について提言。政府間関係のあり方など、政府に対する提言になるようなものにとどまらず、「同じ民主主義国家同士である以上、国民同士の関係をどう構築するか、国民間の合意をどうつくるか、などといった視点から調査や対話をしていくことができるはずだ」と主張。そうした展開を基礎に国民間の信頼を構築していくべきだと語りました。

 尹炳男氏(西江大学校史学科教授)は、学生を引率して日本を訪問した後、その学生たちの対日印象が改善したのを、身を持って体感したという経験を紹介。孫洌氏の「日本に対する渡航経験がある層」の対日印象が高いという分析結果に全面的に同意しました。さらに、直接交流の好影響はそれにとどまらないとし、例えば、文化やライフスタイル、さらには個人を尊重する日本の風潮などについても、「自然と韓国に入り、広がっている」と指摘し、やはり交流拡大こそが日韓関係改善の王道であると強調しました。

 これを受けて最後に工藤は、直接交流が印象改善に寄与するのは事実としつつ、調査結果をさらに深掘りすると、「単なる渡航経験だけでは、例えば、『日本は軍国主義の国である』などといった政治・社会体制に対する誤解は解け切れていない」ことを解説。したがって、より直接的な判断が可能とならない限り、根本的な認識の改善につながらないとした上で、相互理解を深めるために何をすべきなのかこれからも議論をすべきだと語りました。

米朝会談の評価と朝鮮半島の今後を考える

公開セッションの第2部は、言論NPO代表の工藤の司会の下、「米朝会談の評価と朝鮮半島の今後を考える」をテーマに議論が行われ、辛星昊氏(ソウル大学校国際大学院教授)ら四氏が基調報告しました。

トランプだからできた米朝首脳会談

 辛星昊氏は、「日本は明治維新150年で大変、重要な時期を迎えているが、将来に向けて行動をするなら、過去を振り返るのが大事だ。多くの朝鮮通信使が通った下関は、日清戦争の講和条約が結ばれた地で、北東アジアの情勢も大きく変化していた。その時と同じで、北東アジアでは毎週のように首脳会談が行われている」と、まず日韓の歴史を振り返りました。

 そして辛星昊氏は、「米朝首脳会談については、会談自体は問題なく終了し、G7の雰囲気が悪かったこともあり、トランプ大統領はシンガポールでは満足していたのではないか」と、直前に開かれ米国とG6の間の溝を引き 合いに出して語ります。その上で、米朝会談の評価として、「失望も多かった」と指摘。「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」の合意を期待していたものの、一般的な宣言だけで成果はなかった、と語りました。一方で、アメリカと北朝鮮の最高司令官同士が70年ぶりに会談したことについては、「トランプ氏が大統領だったからできたことで、オバマ前政権だったら不可能だった。トランプ流の外交に対して批判はあるが、ユニークな外交スタイルで、自分独自の判断で決め、金正恩氏がそのチャンスを捉えた結果だ」と歴史的な会談の実現について、トランプ流の外交に一定程度の評価を与えました。

 但し、トランプ大統領が在韓米軍の韓国との合同軍事演習を停止する、と電撃的に記者会見で表明したことについて、米国と他国の同盟に及ぼす影響は大きく、トランプ大統領が歴史的な米朝首脳会談という高揚感からか口走ってしまった米韓合同軍事演習停止の影響を心配します。

非核化のプロセスと平和のプロセスを同時に行うことは可能か

 次の基調報告は、中国から朝鮮半島を観察している川島真氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)です。川島氏は「明治維新100年は、1968年で東アジアでは未曾有の学生による民主化運動が起こり、日本は世界2位の経済大国になった。維新150年の2018年は東アジアは歴史的な大きな転換点であり、変動の時期になるのではないか」と詰め掛けた聴衆に語ります。

 そのうえで、朝鮮半島の非核化について、「米朝関係の信頼関係形成が前提条件になっているが、果たしてそれをいかに行うのか、ということは不透明なままであり、今回の合意事項は”プロセス”というべきものだ。トランプ政権の今後、個々の担当者の継続性から見れば、そのプロセスの遂行は可能なのか疑問が残る」と今回の米朝合意に疑問を投げかけます。さらに、非核化のプロセスと、平和のプロセスを同時に行うことについて、「政治、安全保障、経済などの面での『保障』を与えながら非核化していくということになり、どのような非核化の行為に対して、どのような保障を与えるのかということも定かではない」と述べ、非核化と平和プロセスの複雑な背景を説明。加えて、川島氏は「アメリカ側が主張していたような、非核化が完遂してから次のプロセスに行くのではなく、非核化と平和のプロセスを同時に進めようとしているが、これは中国自身が提案していたことでもあり、中国は自らの提案が実現したと胸を張っている」と話します。

日本にとっても様々な面で避けて通れない北朝鮮問題

 こうした点も踏まえながら、非核化の完遂と拉致問題の解決を、経済支援などの条件としてきた日本にとっては、大きな衝撃であり、安倍政権は北朝鮮の問題を避けて通れなくなるだろうと語ります。そして、日本は少なくとも、非核化のプロセスとともに、平和のプロセスにも一定の貢献を求められ、経済支援もそこには含まれるかもしれない、と川島氏は分析しました。

 また、朝鮮戦争の終結が行われれば、国連軍司令部が撤退することになり、同時に在韓米軍の改編が行われることは必至と見られ、これは日米同盟のありかただけでなく、東アジア全体の安全保障体制に影響する問題で、この点で日本は、米中韓と密接な関係を持ちつつ、北朝鮮との直接対話をするよう求められるだろう、と川島氏は指摘します。その上で、難しいのは中国のスタンスだと主張。「中国から見れば、北朝鮮の核保有以上に在韓米軍が問題だった。20世紀後半、アメリカを中心とするハブ&スポークスの切り崩しを図り、1979年に台湾から米軍が撤退し、1990年代にはフィリピンから米軍が撤退すると、中国は南シナ海に展開した。今回、朝鮮半島から米軍が撤退すれば、三度目の成果となるだろう」と過去の状況も踏まえた見解を主張しました。

 今回の米朝接近に際して、金正恩が三度にわたり訪中し、中国が深くコミットしたことについて川島氏は、「特に注目されているのは、二回目の大連での中朝首脳会談後、北朝鮮が国家建設の重点を経済に移すと宣言し、中国がこれを支持したこと。これは事実上、経済制裁を解除することを示唆していたと言える」と語りました。さらに、6月12日の会談当日、中国外交部スポークスマンが、経済制裁解除と、あるいは暫時凍結をほのめかしてることに触れ、「日朝二国間ではなく、東アジアという大きな枠組みから日本に役割が求められた場合、安倍政権はそこにコミットせざるをえなくなる」と述べる川島氏でした。

北の核武装阻止ができないということは、パンドラの箱を開けるのと同義

 次いで香田洋二氏(元自衛艦隊司令官)がマイクを握ります。「アメリカは二度と過ちを繰り返さないこと。クリントン政権時は核凍結で合意し、六カ国協議の時も、2012年のオバマの時には非核化合意も、実施の段階で徹底してできなかった」と過去の北朝鮮に対する合意を振り返りました。その上で、「北朝鮮の首に縄をつけてでも徹底的にやらせる。これができるのがトランプなのだ」と、持論を展開します。一方で、今回の米朝会談後の記者会見でトランプ大統領が「同盟は金がかかる」と発言したことで、ドイツ、イタリア、イギリスに8万人の米兵を置くNATOとの同盟、3万2千人を置く米韓同盟、7万人を数える日米同盟の三つの同盟の足元がグラついていることを指摘。こうした状況を高笑いしてみているのか中国だと語ります。

 さらに香田氏は、「北の核武装阻止は、核拡散のカギを開けさせないためで、拡散すれば人類が消滅してしまう。だからこそパンドラの箱を開けてはいけない」として、今後、どんな道筋を描いていくのか、米朝の交渉を心配しながらも、北の核武装阻止は人類にとって必要不可欠だと強く話す香田氏です。

日韓両国は歴史問題を乗り越え、信頼関係を改善し、北朝鮮を説得できるような協力強化を

 田奉根氏(国立外交院教授)は、米朝首脳会談の成果として、①お互いの立場を確認したこと、②包括的ではあるが米朝関係を改善し、朝鮮半島の非核化の合意をしたこと、③独裁者を国際社会に引っ張りだしてきたことを挙げました。そして、田奉根氏は何より衝撃だったこととして、軍事演習の中止が記者会見で語られたことで、核の非核化をしない可能性が出てきたことを挙げ、「根本的な解決はさらに難しくなった」との見解を示しました。

 さらに、今回の会談を受けて日韓両国の協力できることとして、日韓両国が立場を超えて努力すること、経済的な面のみならず、様々な形で協力できるような改革を行うこと、核脅威が完全に消えるまで日韓の安全保障協力を強化することを指摘し、そのためにも日韓両国は、たとえ、歴史問題を抱えていても信頼関係を改善し、拉致や関係問題を解決できるように一緒に説得できるように協力を強化することが必要だと語りました。

 4人の基調報告終了後、司会を務める言論NPO代表の工藤泰志が「金正恩氏は本気で核を止めようと思っているのか」とパネリストに投げかけると、「本気だ」と手を挙げたのは慶應義塾大学法学部教授の西野純也氏、これに対して「本気ではない」と手を挙げたのは元自衛艦隊司令官の香田洋二氏で、多くのパネリストは北朝鮮の非核化に対する本気度については「決めかねている」と回答し、議論はスタートしました。

認めるわけにはいかない「力の外交の勝利」

 まず、韓国大使を務めたこともある小倉和夫氏(国際交流基金顧問)は、今回の米朝会談について、北朝鮮は米国が善意の措置をとれば自国も善意の措置を取るといい、米国は北朝鮮が自国を信頼するに値する何らかの措置をとれば行動する、という態度をとっており、米朝間での埋められていないギャップを指摘。その上で小倉氏は、「米朝両国とも『力の外交の勝利』と言っているが、これを世界中で認めるわけにはいかない」として、そのためにも米朝間のギャップを埋めるために、日本も間接的に協力しながら、韓国が米朝間の間を取り持つことができるのではないかと語り、韓国と日本の役割に言及しました。

 続いて発言した申珏秀氏(韓国国立外交院国際法センター所長、元駐日韓国大使)は米朝会談について、信頼関係の初めのボタンが半分かけられたことは評価しているとする一方で、米国の強い圧力による交渉にもかかわらず、追加的な交渉は行われるとしても、結局は北朝鮮が主張してきた段階的な核軍縮が確認されたと言えるのではないか、と指摘。そして、「我々は後戻りできない橋を渡ったかもしれない、ということを深刻に考えるべきだ」と語り、今後、日米韓3カ国や国際社会が「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID)」が実現するかを注視していく必要性を強調しました。さらに重要な点として、①時間を引き延ばすだけでは北朝鮮の核開発は続く可能性があるためタイムリミットを設定すること、②未来、現在の核の廃棄と、ICBM能力を制限するという線で適当に終わらせる可能性もあるため、過去の核の廃棄まで求める、③制裁についても多様な制裁の方法があるため、今後の交渉におけるロードマップが重要だ、との見解を示しました。

 慶應義塾大学法学部教授の添谷芳秀氏は、「米朝両首脳が会談し合意したことは1つの成果だ」と評価する一方で、「交渉したものの公表するレベルに至らず、具体的な合意を盛り込めなかったのではないか」と推察し、今後の米朝間の交渉で重要になる点として、米朝の信頼醸成に基づく関係改善、平和体制の構築、非核化を挙げました。そして、冒頭の工藤の質問に対しては、「理論的には本気だと思う」として、2016年の段階で金正恩氏は内部で非核化を決定していたのではないか、と指摘。その上で、金正恩氏が非核化に本気であるなら、我々がいざなうことを試してみる価値はある、と語りました。

 李大根氏(京郷新聞論説主幹)は、金正恩氏が核実験設備を廃止し、経済並進路線から、経済発展へ方針転換するなど、非核化に関する事後措置がとられ、今までとは違う展開を見せており、騙すことにプラスの作用がないと述べました。その上で、外部が本当に非核化の条件作り出せるかどうかだと主張し、「米朝会談については米朝両国の勝利だった」と語りました。

 冒頭の工藤の質問に対して「本気だ」と主張した西野氏は、「本気で準備しているが決断はしていないし、決断する必要はない」と説明。その上で、金正恩氏が米朝間で相互信頼関係が醸成されることが非核化につながると判断した時点で決断するだろう、と語りました。

 さらに西野氏は、日本は拉致と非核化、韓国は非核化と朝鮮半島の緊張緩和に重点を置いており、日韓両国で米朝会談に対する評価基準が違うことを改めて意識しておくことが重要だ、と指摘しました。

北朝鮮の核とミサイル開発の理由は、「体制保証」に向けた時間稼ぎ

 防衛事務次官を務めた西正典氏は、今回の米朝会談について、明確な定義や合意がなく、空中に漂っている状況だとの見解を示しました。こうした状況下では、判断基準をトランプ氏と金正恩氏が握っており、恣意的な判断で、相手が期待に沿わなかったら「自分に約束したことを守らなかった」と言い、態度を変更することができると分析。今回の初手でトランプが譲れるものをほとんど譲ってしまったことで、それに報いるだけのプレゼントを金正恩氏が送らないと、トランプは腹を立て、何度か軍事的な危機が起こり、それが解消しという形で物事が動いていくだろう、と主張。ただし、トランプ氏には任期があり、金正恩氏には任期がないことについても注意しながら、今後の米朝会談の行方を見ていく必要があると、独自の視点で解説します。

 さらに西氏は、当初は金正日氏が先軍政治を掲げ、軍が正面に立って責任を負いながら前に進めていたことから、核とミサイルの開発も軍が主導する形で行われていたものの、金正恩氏がトップになると軍を排除し、核もミサイルも党が主導して開発しており、かなりの数の軍人が粛清されているという現状を解説しました。加えて、自身が予算編成にかかわった経験から、通常兵器は高額である一方で抑止力も限定的であるが、通常兵器よりも安価な核とミサイルを開発することで、ワシントンやモスクワを射程にいれる大きな抑止力を持つことが達成できた、と指摘。

 その上で、北朝鮮が核を持つことは「あくまでも抑止力と、その抑止力が効いている間に譲歩を獲得するための時間確保のためだけ」であり、確保できた時間によって、「体制の保障」を図ることが目的だ、と西氏は付け加えます。こうした交渉は今後、アメリカだけではなく、北京、モスクワ、ソウル、東京全てに対して行われると解説。そこには軍の姿はなく、トップと党の姿しかないだろう、と語ります。ただそうした交渉が始まるまでに、もう一度、核の恐怖は起こるだろうし、軍事的な協議も起こるだろうが、それらを一つ一つ乗り越える必要がある強調すると同時に、交渉を受ける側がどこまでネットワークを整理できるのかが課題になる、と今後の状況を分析しました。

 国連大使も務めた朴仁國氏(韓国高等教育財団事務総長)は、「米朝会談は成功だった」としつつ、①アメリカの戦略的利益と日韓の安保に対する見方にズレが生じていること、②北朝鮮の非核化に向けたロードマップをどう作るかが不透明である中、本来、最後に出てくる話題である在韓米軍の話が早い段階出てきた、という2点について懸念を示しました。

北東アジアの平和構築に向けて日韓に何ができるか

 その後、会場からの質問として、仮に在韓米軍が撤退した場合、安全保障上大きな影響が出るが、そうした状況下で日本ができる協力として何があるのか、日本が北東アジアにおける平和構築に向けて、何ができるのか、と質問が投げかけられました。

 これに対して、日本側かはら西野氏が、専門家の間では共通の認識であると前置きした上で、「朝鮮半島における米国のプレゼンスが縮小していくと不安定な状態に陥るが、それを立て直すため日韓両国が協力していくことが1つのモデル」と述べました。そして具体例として冷戦期の構造を挙げ、「今の状況は冷戦期の構造に近い」と指摘。朝鮮半島情勢が大きく動き、トランプ政権の行動や今後の行方に対して日韓両国が不安を持っている状況では、日韓が協力して管理・マネジメントをしていくことが必要だ、と主張しました。

 さらに西野氏は、朝鮮半島における平和秩序の構築については、「南北朝鮮と米中の2プラス2が中心的なプレーヤーであるものの、より広い意味での北東アジアの平和という点では日本は協力しなければいけない。日本が朝鮮半島の新しい秩序に賛意を示すことが必要」と主張。さらに、国交がない北朝鮮、国交はあるものの平和条約がないロシアとの関係については、戦後の日本外交の宿題であり、必ず超えていかなければいけない日本外交の課題である、と語りました。

 続けて会場から、政治的目的のためにヘイトスピーチなど利用する人たちがいるが、それをどのようにコントロールするか、との質問が韓国側に投げかけられました。

 自身も正しい未来党の政治家である鄭柄国氏は、日韓関係を悪化する要因の1つとして、「政治家がその時、その時で政治家の票につながる発言をし、国民世論に影響を及ぼしていることは否めない」と語り、政治科自身の問題を認める一幕もありました。

 最後に孫洌氏は、今日の議論を聞いた多くの人たちが、北東アジアに新しい秩序をつくっていくためには、日韓両国の協力が必要不可欠であるということを肌で感じたのではない、日韓新時代をさらに発展させるためにも、私たちの日韓未来対話が重要であり、来年の7回目の対話への期待を込めて挨拶を締めくくり、「第6回日韓未来対話」の公開セッションは幕を閉じました。

 

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2018年6月23日