・「世界的感染拡大は『道徳的な試練』」ー米でカトリック社会教説と新型ウイルス・フォーラム

(2020.3.30 Crux National Corespondent Christopher White)

  ニューヨーク発ー新型コロナウイルスの感染拡大の世界的危機の中で、26日、米ジョージタウン大学主催のカトリック社会教説とウイルス危機についてのオンライン・フォーラムが開かれ、「カトリックの社会思想は、経済的な配慮よりも人間の命と尊厳に重きを置くことを求めている」という意見が参加者の大半を占めた。

 フォーラムにはオンラインを通して、医療専門家、政治・経済の専門家、聖職者、中小企業経営者など500人以上が参加し、1時間半にわたって意見を交換した。

 主催者の同大学カトリック思想と公的生活推進協議会を代表して、ジョン・カー事務局長は冒頭、「現在の危機で、私たちは道徳的に試されている」とし、「現在起きている苦痛、死、緊張、分裂と孤立は圧倒的な規模で起きており、こうした試練は、私たちが誰なのか、私たちは何を信じているのか、私たちはどのようなタイプの集団になっていくのか、を明らかにします」と指摘。

 さらに、「私たちの信仰のさまざまな伝統は、今この時、覆されている。『安息日を守る』とは『家にいること』を意味し、『父親と母親に敬意を払う』とは『新型コロナウイルスに感染しないように距離を保つこと』を意味するようになっています」と語った。

 イエズス会士で医師でもあるミルズ・シーハン神父は、「愛は言葉ではなく、行いで表すものだ」という会の創立者、聖イグナチオ・ロヨラの言葉をとらえ、「今は、社会的な距離を置くことが、隣人を愛する具体的な方法の1つです」と強調。

 また、「新型ウイルスとの闘いの最前線にいる人々、たとえば、社会にとって欠かすことのできないサービスを提供するために働いている医療・健康保健従事者、食料雑貨店の店員などは、今も、地域社会のために自分の健康を危険にさらしている」と指摘したうえで、現在の社会の緊張状態に対して、「私たちは、個々の人への敬意を払い、均衡を図るやり方で、自分たちの共同体社会を見る必要があり、今のように時は特にそれが必要になります」と述べた。

 エルサルバドルからの移民でメリーランド州ベテスダのファミリーレストランの共同経営者、レイナ・グアルダード氏は、自らがごく最近経験したこととして、従業員をレイオフするという苦しい決断を余儀なくされたが、地域社会が支援資金を集めてくれたおかげで、家族持ちの従業員4人を再雇用でき、料理の配達や持ち帰りサービスをまたできるようになった、と語った。

 ジョージタウン大学のジョン・モナハン学長補佐(国際医療保険問題担当)は2009年にメキシコから始まったインフルエンザウイルスの大感染の際に米保健福祉省とともに対応した経験があるが、「米国は多様で多元的な国かもしれないが、私たちは共通善について主張する際に”道徳的な言語”を使わねばならない。カトリックの社会思想はそのために特に有効です」とし、「公益を、あるいは見ず知らずの人々ー米国には3億人、地球上には70億人がいるーに利益をもたらす何かをするために、私たちが個人の自由と権利を抑制すれば、私たちと面識のない人の命を救うことになります」と述べた。

 モナハン氏は「連帯」の意味を強調し、インフルエンザ・ウイルス大感染当時の米関係者の議論と決断を実例として挙げ、オバマ米大統領が、ワクチンが入手できたら、低所得国のために世界保健機関(WHO)と協力して、総量の10%を援助に回すと決めた時に、その連帯の原則が注目を浴びたことを説明した。そのうえで、「今回も、米国は、抗ウイルス薬、診断薬、今後利用可能となるだろう新型コロナウイルス・ワクチンについて同様の決断を求められることになるだろう」と語り、その場合、「どれくらいの量をそうした国々への援助に回すべきか」という問いに答える場合、カトリックの社会教説の原則が有益となる、とした。

 フォーラム参加者は全員が、カトリック教会の社会教説の活用に前向きの姿勢を見せたが、今後も、マクロ、ミクロ両方で、具体的に困難な判断を迫られる、との指摘も出された。具体的には、シスター・キーハンとシーハン神父が、マスクなど医療従事者にとって基本的な備品が依然として不足している問題を取り上げ、グアルダード氏は、米議会で可決された景気刺激総合対策で不正規雇用労働者が支援対象になるのか懸念を示した。

 また、この問題に対処するために、広範な構造改革が必要で、とくに 米国の場合、中・低所得者に医療サービスが行き渡らない現在の医療保険制度の問題があること画指摘され、さらに、地方レベルの対応の必要が強調された。この点で、複数の発言者から、元気な信徒が所属教会に、高齢の信徒で食料雑貨の買い物に不自由していないかをメールで問い合わせて彼らの手助けをしたり、電気、水道、ガスなどの公共サービスで支援したりするような、具体的提案があった。

 「私たち地球に住む70億人全員が新型コロナウイスから脅威を受けている、という認識を持たない限り、私たちはこの戦いに勝つことはできません」とモナハン氏は語った。

 フォーラムの最後に、カー事務局長は「教皇フランシスコはカトリック社会教説の模範。特に、彼は『使い捨て文化』という言葉を使って、お年寄りから胎児、地球環境に至るまで”消耗品”として扱い、人の命を縮めている現在の世界の風潮を批判しています」としたうえで、「そのことは今、明白になっている。私たちは、カトリックの社会教説が主張するところと教皇フランシスコの模範に倣うことが求められているのです」と締めくくった。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2020年3月31日