♰「見捨てられ、死ぬがままにされた病者たちのために祈る-医師は命に奉仕すべき、奪ってはならない」

ヴァンサン・ランベールさんの両親 ピエールさんとヴィヴィアンさん 2019年7月9日 フランス北部ランスでヴァンサン・ランベールさんの両親 ピエールさんとヴィヴィアンさん 2019年7月9日 フランス北部ランスで 

 教皇フランシスコは10日、ツィートを通して、見捨てられ、死に向かう状況に置き去りにされた病者たちのために、祈りを呼びかけられた。

 ツィートで教皇は「見捨てられ、死ぬがままの状態に置かれた病者たちのために、私たちは祈ります。誰が生きている価値があるのか、ないのかに関係なく、命が、一人一人の命が、その始めから自然の死に至るまで守られるなら、社会は人間的なのです。医師は命に奉仕するべきで、命を奪ってはなりません」と訴えた。

 教皇の呼びかけは、交通事故で脳に重度の損傷を受け、10年以上病院で治療を受けていたフランス人男性、ヴァンサン・ランベールさん(42)に対して、今月2日から水分と栄養の補給が停止されている中で行われた。

 ランベールさんは、2008年に交通事故で脳に重度の損傷を負い、四肢麻痺となった。自力呼吸をし、循環機能も維持しており、重度の障害を持っているが、死に直面した状態ではないことから、「治療の継続」を望む両親側と、それを「延命措置の強要」であるとする配偶者側との間で、意見の一致を見ず、治療継続か中止かをめぐり、法廷での論争が続いていた。

 今年5月20日、長い法廷論争の結果を受け、担当医師らはランベールさんの水分と栄養補給の停止に踏み切ったが、その日の夜、パリ控訴院が、国連の障害者権利委員会によるこの問題の精査と結果の発表まで治療を続けるよう命じる判決を下し、水分と栄養補給が再開された。だが、6月28日、フランスの最高裁判所である破棄院は、国連の障害者権利委員会の精査のための6か月間の猶予を考慮せず、控訴院の判決を無効とした。

 破棄院の決定後、今月2日から、ランベールさんは水分と栄養補給が絶たれたままの状態が続いている。両親は「これは死に瀕している状態ではない一人の障害者を、殺害する行為だ」と非難している。両親の悲しみは、彼らを「カトリック原理主義者」と決めつける一部の人々の声によって、さらに深いものになっている。

 教皇は、ランベールさんのために以前からアピールを行ってきた。ランベールさんの水分と栄養補給の停止が始まり、数時間後にパリ控訴院が治療の再開を命じた5月20日にも、「重い病気の状態にある人々のために祈りましょう。神の贈り物である命を、その初めから自然な死に至るまで、いつも守りましょう。切り捨ての文化に負けてはなりません」とツィートしている。

 欧州連合も批准した「障害者権利条約」は、第25条で「障害者が、障害に基づく差別なしに、到達可能な最高水準の健康を享受する権利を有する、ことを認め」、「保健、もしくは保健サービスまたは食糧及び飲料の提供に関し、障害に基づく差別的な拒否を防止すること」としている。

(編集「カトリック・あい」)

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2019年7月11日