◎連続講話「主の祈り」③「主が求めておられるのは、心を開くことだけ」

　教皇はまず、マタイ福音書の中で、「主の祈り」（6章9-13節）が、「山上の説教」（5章1節-7章27節）の中心、重要な場所に置かれていることに注目。イエスがご自身の基本的なメッセージを伝えた「山上の説教」で「主の祈り」を教えられたことに、大きな意味を見出された。

　イエスは、山上で説いた「真福八端」の中で、心の貧しい人、柔和な人、憐み深い人、心の清い人たちを「幸いだ」とされている。「人を愛し、平和を作り出せる、しかし歴史の片隅に置かれたこれらの人々こそが、実は神の御国の構築者だ、ということは、『福音の革命』です」と話された。

　そして、イエスの「山上の説教」全体の基礎をなす偉大な神秘は、「あなたがたは、天におられるあなたがたの父の子たち」だということ、と指摘され、「キリスト者とは『他の人よりもより善い人間になろう』と努力する人ではなく、『自分は皆と同様に罪びとだ』と知る人です」と説かれた。

　また「キリスト者とは『新たな燃える柴の前で、神の啓示を受ける人』であり、その神とは『謎をもたらす方』ではなく、ご自分を『父』と呼ぶようにと子たちを招く方」と話された。

　さらに、教皇は「イエスが『主の祈り』を教える前に、祈る時には、人に見てもらうことを意識する『偽善者』のようでも、言葉の数さえ多ければ聞き入れられると思い込む『異邦人』のようであってもならない、と注意されています」「これに対して、キリスト者の祈りは『あなたが祈る時は、奥まった自分の部屋に入って、戸を閉め、隠れた所におられるあなたの父に祈りなさい』（マタイ福音書6章6節）とイエスが言うように、自分の良心以外に証人を持たず、御父との対話に集中するものであるべきなのです」と語られた。

　また、「あなたがたの父は、願う前からあなたがたに必要なものをご存じなのだ」（マタイ6章8節）とイエスが言われることからも、「祈る時は、子が父に話しかけるように祈る必要があります」と述べられた。

　教皇は、「主の祈り」は、「沈黙のうちに祈ってもよく、神に祈りを聞き入れていただくには、神の眼差しのもとに自らを置き、御父の愛を思い起こすだけで十分です」と話され、「私たちの神が、何かをしてくださるために、生贄を要求なさらない、と考えるのは素晴らしいこと」とし、「神が私たちの祈りに求めておられることは『自分たちが神に深く愛された子だ』と知るために、自らを開いていることだけ」と強調された。